ミリタリー

B-1B爆撃機について調べてみた【死の白鳥】

北朝鮮問題でアメリカが示したオプションのなかに「死の白鳥を飛ばす」というものがあった。

メディアがこぞって取り上げたものだが、その爆撃機は「白鳥」などという優雅なものではない。北朝鮮にとっては「悪魔」そのものであり、もし、この鳥が北朝鮮領空を飛行することになれば、「無慈悲なる」攻撃が加えられることとなる。

脈動する爆撃機

B-1B

爆撃機を描写するのに「セクシー」などという言葉を使うと、どこか妙な感じをもたれるかもしれない。

しかし、現物のB-1Bを見たものは、その曲線の具合や彫刻的なフォルムに見惚れるという。鋼鉄とアルミの骨組みにアルミや複合素材のパネルをリベットで止めたというより、暖かい脈動する筋肉のうえに滑らかな傷ひとつない皮膚をかぶせたように見える。

見栄えのいい航空機は性能もいいとパイロットは好んで口にするが、B-1Bはまさにその実例といっていい。

この爆撃機は、大量の爆弾を積んだ際の高度上昇時間の大半について世界記録を保持しており、古典的な巨大爆撃機である「B-52 ストラトフォートレス」の二倍の重量を搭載しながら、戦闘機に近い俊敏さを持っている。

近年の開発プログラムにおいて、B-1ほど長く激しい政争に巻き込まれ、大幅な設計変更を重ねながら、それでも実戦配備にこぎつけられた戦闘機はほとんど例がない。B-1の物語は、ノース・アメリカン・ロックウェルXB-70「ヴァルキリー」が1964年にキャンセルされたことに始まる。

約25,000mという高高度をマッハ3で飛行できる性能を持ちながらも、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の性能が上昇したことなどにより、お払い箱となった。


【※XB-70 ヴァルキリー】

可変後退翼機という発想へ

B-1B
【※翼後退時のB-1】

しかし、空軍にとってXB-70の性能は魅力を残していた。ソ連の地対空ミサイルの開発や、MiG-25のような高高度迎撃機の脅威を受けた結果、有人爆撃機は騎兵隊における馬と同様、時代遅れの存在にみえたが、高速で低空から侵入できれば爆撃機としては理想である。

敵国の国境まで高度約7,600mを音速に近い速度で近付き、その後は高度を一気に下げて、目標に突き進む。

このコンセプトを実現するには「可変構造をした」主翼の利用が考えられた。つまり、高速で飛行するときは主翼を後退させ、小回りを利かせるときには前進させる。当時、この可変後退翼機は、F-14トムキャットなど戦闘機サイズの航空機では見事に実用化されていたが、大型爆撃機の場合、途方もないパワーをもった作動装置と、測り知れない強度を持ったピヴォット軸受けが必要だった。

1970年、米空軍はロックウェル・インターナショナルを選び、B-1の一号機が1974年にロールアウトする。

可変翼戦闘機との比較

B-1B
【※B-1B 三面図】

1984年まで改良を重ね、第二次世界大戦前の有名な迎撃機の名前をとって、B-1B「ランサー」と命名された量産型爆撃機の一号機は、1986年に最初の飛行隊に引き渡された。

さて、ここで爆撃機のB-1Bと、戦闘機のF-14を比べてみよう。

[B-1B]
○乗員:4名
○全長:44.81m
○全幅:41.67m(可変翼最大展開時)/23.84m(最後退時)
○全備重量:216.365t

[F-14A]
○乗員:2名
○全長:18.87m
○全幅:19.55m(可変翼最大展開時)/10.15m(最後退時)
○全備重量:22.820t


【※爆弾を搭載したF-14A】

数字だけで見ても、戦闘機のF-14に比べ、B-1Bは全長と全幅で約2倍、武装を施したときの重量は10倍近く違ってくる。

この重量の機体を支えるのは4基のアフターバーナー付きF101エンジンだが、主翼下のカウルに収納され、ステルス機ではないものの、「低視認性」の機体と考えられており、おかげでB-1BはF-16のような小型戦闘機でさえもっていない、素晴らしい侵攻能力を保持している。

当初の設計が1980年代のため、先進的ではないが、非常に扱いやすく、極めて機能性に富んだ制御装置を持ち、長時間の飛行任務にもパイロットが耐えられるようにコックピットにも工夫がされた。操縦席のすぐ背後には大型の荷造り用ダンボール箱ほどのスペースがあり、化学処理式の缶入り仮設トイレが置かれている。この区画にはそのほか、食料、水、コーヒー、私物、その他詰めこめるだけのものが詰めこまれている。空中給油を行えば、30時間で地球を一周できるB-1Bにとっては、パイロットの疲労軽減も重要なのだ。

B-1B 恐るべき爆撃能力

B-1B
【※爆弾を投下するB-1】

爆弾などを最大で34t収納できるB-1Bは、ステルス性を犠牲にすれば、機体の外と合わせて56tもの兵器を搭載することができ、これは前任のB-52の二倍の量に達する。機内の爆弾倉には爆弾のかわりに一個ないし二個の燃料タンクを搭載することもでき、最大84個の「Mk-82 500ポンド(227kg)爆弾」を積み込むことができる。さらに、およそ高度910mを水平飛行しながら、そのすべての爆弾をわずか2秒で投下できるのだ。

これは「F-15E ストライクイーグル」7機の最大戦闘搭載量をわずか1機で実現することを意味する。

現在では核兵器の搭載能力は失われたが、常にアップグレードが行われ、レーダーも通信システムも能力が向上している。

実戦におけるメリット


【※B-1Bに搭載される爆弾】

ここまでで米空軍には「F-22 ラプター」、「B-2 スピリット」といったステルス機があるのではないかと考えるだろうが、F-22は純粋な戦闘機であり、爆撃には向かないし、B-2の兵器搭載量は18tしかない。しかも、100機生産されたB-1Bに比べ生産数もわずか21機しかない。これは艦対地巡航ミサイルの性能が低かった時代の名残りであり、現代では艦船からの巡航ミサイルで敵のレーダー施設や飛行場などにダメージを与え、その後からB-1Bが本格的な爆撃を行えばいい。

きれいな空ならB-1B程度の低視認性をもっていれば十分にその任務を全うできる。

わざわざ、B-2を飛ばすよりも費用対効果が大きいのがB1-Bの最大のメリットであった。

最後に

忍者のように足音もせずに敵の領空に侵攻して特定の目標だけを爆撃するならば、真のステルス機の得意とするところだが、大量に爆弾をバラ撒いて敵の戦意を挫くには、B-1Bの十八番である。可変翼を前進させた形状から「白鳥」という名を付けたようだが、この機体が「悪魔」そのものだという意味はわかっただろう。

関連記事:米軍機
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