絶滅した動物の復活
琥珀に閉じ込められた蚊の体内から恐竜のDNAを抽出し、現代に恐竜を復活させた映画『ジュラシック・パーク』。
だが、あの映画のように絶滅した動物を本当に蘇らせることは可能なのだろうか。
その可能性の一つとして、2025年4月に「ダイアウルフ」の復活が話題となった。
恐竜ファンならずとも興味を引かれるこの話題だが、実際に絶滅動物は復活できるのだろうか。
今回は、古生物ファンの間で大きな反響を呼んだダイアウルフ復活と、その科学的背景について紹介していく。
ダイアウルフとは

画像 : ランチョ・ラ・ブレアのダイアウルフ 1922年 public domain
まずは、今回の主役であるダイアウルフの紹介から入る。
ダイアウルフ(Dire Wolf)とは30万年前から1万年前に生きた大型オオカミで、南北アメリカの広範囲に生息していた。(※ダイアウルフの「Dire」とは「恐ろしい」という意味、宝石のダイヤモンドとの関連はない)
特に目に付く特徴を挙げると、ダイアウルフは全長1.8メートル、体重70キロ(80キロ説もあり)と、大型犬顔負けの身体を持っていた。
具体的にダイアウルフが何を捕食していたのか、主な獲物までは明らかになっていないが、イヌ科らしく群れで狩りを行い、バイソンやマンモスも襲っていたと思われる。
自分より大きな生物を襲うのは返り討ちに遭うリスクがあるが、セントバーナードやグレートデーンのような巨体を持った捕食者が集団で襲う様は、アメリカの草食動物の脅威となっていただろう。
ダイアウルフの絶滅、そして復活?

画像 : 人とのサイズ比較 wiki c Aledgn
サーベルタイガーの名前で有名なスミロドンとともに、アメリカ大陸の頂点捕食者として君臨したダイアウルフだが、第四紀(氷河期)の大量絶滅に巻き込まれ、その姿を消す事になる。
それが環境の変化によるものなのか、人間によるものなのかは明らかになっていない。
近年では、ダイアウルフと同時代を生きたマンモスの復活プロジェクトがたびたび話題に上っているが、2025年4月7日、アメリカのバイオ企業「コロッサル・バイオサイエンシズ」が、なんとDNA編集によってダイアウルフの復活に成功したと発表し、大きな注目を集めた。
Colossal Announces World’s First De-Extinction: Birth of Dire Wolves
https://www.businesswire.com/news/home/20250407444322/en/Colossal-Announces-Worlds-First-De-Extinction-Birth-of-Dire-Wolves?utm_source=chatgpt.com
代理母の帝王切開により2024年10月に生まれたオスの「ロムルス」と「レムス」、2025年1月に生まれたメスの「カリーシ」の3匹がお披露目され、古生物ファンは大いに盛り上がった。
クローンとはいえ、太古の地球に生きた生物が復活する映画の世界が現実になったのである。
夢のような話だが、意外にも専門家の反応は「これはダイアウルフではない」という冷ややかなものだった。
ダイアウルフ復活への疑問
なぜ冷ややかな反応だったのだろうか? 今回の一件を冷静に振り返る。
まず、今回生まれたダイアウルフは、ダイアウルフの化石からDNAを抽出し、代理母に出産させたところから始まる。
コロッサル・バイオサイエンシズの関係者は「99%ダイアウルフ」と主張しているが、DNA編集によって限りなくダイアウルフに近い外見に寄せて誕生させたものの、オリジナルのDNAからは実に20もの編集を行っている。
これは、オリジナルのDNAそのままでは健康に育たないリスクがあったため、やむを得ず行われた措置だという。
しかし、たとえ99%一致していたとしても、その1%の違いは大きい。
例としてよく挙げられるのが、人間とチンパンジーの関係だ。両者のDNAは約98.8%が共通しているが、それでも誰もが「別の種」として明確に区別している。
そう考えると、ダイアウルフが本当の意味で復活したと喜ぶのは難しい。
現在、3匹の個体は『ジュラシック・パーク』さながらに隔離された非公開の施設で静かに暮らしている。彼ら自身には何の責任もなく、ただ健やかに生きていってほしいと願うばかりだ。
しかし、この数週間で注目を集めた「ダイアウルフ復活」という話題について結論を述べるならば、確かに外見はダイアウルフに酷似しているものの、その本質は「ダイアウルフの姿を借りた、別の存在」と言うべきであろう。
絶滅した動物は復活するのか

画像 : ダイアウルフ イメージ public domain
新種の恐竜が発見された際に、実際よりも大きなサイズで紹介されるなど、誇張された発表が行われることは珍しくない。そうした事例を踏まえれば、今回のダイアウルフの件も虚偽とは言えない。
しかし、センセーショナルな見出しで知識のない人々の関心を引こうとする意図は否めず、内容としては真実に近いが、グレーな領域にある情報だったと言えるだろう。
ダイアウルフの復活が話題になっても、恐竜の復活に話が及ばないのは、現在の技術では恐竜の復元が極めて困難であることを示唆している。
たとえ目指したとしても、ダイアウルフ以上に多くの壁が立ちはだかっている。
まず、DNAが保存される期間には限界があり、一般的にはせいぜい100万年程度とされている。したがって、約6500万年前に絶滅した恐竜のDNAが現代に残っているとは考えにくい。たとえヒパクロサウルスの化石から分裂中の細胞の痕跡が見つかったとしても、そこから詳細な遺伝情報を復元するのは極めて困難である。
さらに、クローン生物を作るには代理母が不可欠だ。
実際、ダイアウルフの復活で話題になった3匹も、オオカミを代理母として誕生している。仮に恐竜のDNAが奇跡的に手に入ったとしても、それを誰に産ませるのかという根本的な問題が残る。
映画であれば曖昧なままでも成り立つが、現実ではそうはいかない。
現実は難しい…でも期待したい

画像 : ダイアウルフの化石標本 wiki c WolfmanSF
恐竜の復活には、今回挙げた以外にも数え切れないほどの課題があり、それらが10年や20年で解決される可能性は極めて低い。
一方で、クローン技術そのものはすでに30年前から実用化されており、植物では接ぎ木など、クローンと同様の手法が日常的に用いられている。
ダイアウルフの場合、誕生した個体はほぼ別の生物といえるかもしれないが、それでも「絶滅種に酷似した存在」を生み出せる段階に到達したことは、大きな一歩だ。
クローン技術に対しては、生物学的な課題や倫理的な問題、さらには感情的な反発もあり、人それぞれに様々な意見があるだろう。
だが筆者としては、たとえ本物ではなくとも、絶滅した動物の姿をもう一度この目で見られることには大きな意味があると感じている。恐竜の復活は難しいとしても、今後さらに精度の高いダイアウルフのクローンが生まれる可能性は十分にあるはずだ。
もちろん、乗り越えるべき壁はまだ多い。
コロッサル・バイオサイエンシズの挑戦には、今後も期待したいところである。
参考 : 『Colossal Announces World’s First De-Extinction: Birth of Dire Wolves』他
文 / mattyoukilis 校正 / 草の実堂編集部
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