自然&動物

【交尾のしすぎでオスだけ集団死】 絶滅危惧種の小型カンガルー

一生に一度しか訪れない繁殖期に、メスとの交尾に3週間明け暮れた末、オスたちが一斉に死を遂げてしまうという珍生態を持つ動物がいる。

画像: アンテキヌス cc Mel Williams

オーストラリア東海岸に生息する小型のカンガルー「アンテキヌス」である。

アンテキヌスとは?

・カンガルー目マルスピ科に属する絶滅危惧種
・体長5cm~15cm、体重16g~170g
・森林地帯に生息する夜行性
・食虫・肉食で、カブトムシや小型のトカゲなどを食する
・メスの寿命は約2年、オスの寿命は約1年弱

アンテキヌスは繁殖期の生態に非常に珍しい特徴を有しており、研究者たちから注目を集めている。

・アンテキヌスの繁殖期は集団的に起こり、同期交配する
・メスには3週間の繁殖期があり、一生で2回ないし3回出産する
・オスの発情期は実質一生に一度、3週間で多数のメスと交尾し多数の子孫を残す
・オスたちは3週間にわたる交尾後、一斉に死亡する

繁殖期が集団的に起こり、オスとメスが相手を変えながら同期交配するのは、多数の子孫を一斉に残すことで捕食動物を圧倒できるため、進化上の利点があると考えられている。

繁殖期後のオスの集団死の原因は、極度の睡眠不足説

オーストラリアのラ・トローブ大学 睡眠生態生理学大学院研究員エリカ・ザイド率いる研究チームは2024年1月25日、ジャーナル誌『Current Biology』で、小型カンガルー・アンテキヌスのオスの繁殖生態にまつわる研究結果を発表した。

観察研究の結果、アンテキヌスのオスたちは3週間の繁殖期間中、交尾のチャンスを最大限に高めるために毎晩平均3時間の睡眠 (総睡眠時間の約20%)を切り詰めていることが判明したのである。

そして、オスは発情期が3週間あるのに対して寿命は約1年と非常に短く、繁殖期後にオスたちが集団で一斉に死亡してしまうのは、極度の「睡眠不足」に原因があるではないかと仮説を立てた。

総睡眠時間の約20%を切り詰めるアンテキヌスのオスの生態を寿命80年の人間に換算すると、実に約5年間、毎日徹夜し続けているのと同じ負荷レベルということになる。

人間が約5年間、徹夜状態で性交し続けるのは実質不可能だが、アンテキヌスのオスたちはそれと同じだけの極限状態に自らを追い詰めながらひたすら交尾に励むのである。

研究では、多くのオスは繁殖期間中から皮膚病変や脱毛、盲目を発症していたという。

そして、3週間の繁殖期が終わると、ほとんどの個体のオスがほぼ同じタイミングで死んでしまうのだ。

研究者らによると、飼育下のオスは、野生の個体より長生きすることが多かったが、繁殖能力は著しく低下したという。

今回の研究では、飼育下の10頭のオスのうち2頭が繁殖期直後に死亡。

「2頭は同じ夜に、わずか数時間差で死んだ。

しかし、死亡した2頭のオスは他の個体と比較すると睡眠量が多かったため、繁殖期後にオスたちが一斉に死亡する直接的原因が『睡眠不足』だけにあるとは考えにくい。」

とザイド氏は述べている。

3週間昼夜問わず、最長12時間の交尾でホルモンバランスが乱れる

絶滅危惧種の小型カンガルー

画像 : オーストラリア 中央ヴィクトリア州マックルフォードの森に生息するアンテキヌス cc. Patrick_K59

アンテキヌスのオスたちが繁殖期後に一斉に死亡する原因として現在有力視されているのは、ホルモンバランスの乱れだ。

3週間の繁殖期間中、アンテキヌスのオスは男性ホルモン「テストステロン」が急上昇するため、行動範囲が広がって昼夜問わず活動、種によっては激しい交尾を最長12時間行う個体もいるという。

その結果、胃腸潰瘍などの臓器不全が誘発されたり感染症や寄生虫の侵入を受けやすくなることで、ストレスや炎症を抑える「コルチゾール」も急上昇。免疫系統が崩壊し、死に至るのではないかと推察された。

体内で増加するコルチゾールの量がオス個体にとって致死的であったとしても、次の発情期が訪れるまで生き残れる可能性は極めて低いため、テストステロンを利用し生殖努力を最大化する方が、種として効果的だと本能に刷り込まれていると考えられるという。

同族共食い説 〜メスと子どもの栄養源に〜

2024年1月18日、哺乳類学誌『オーストラリアン・マンマロジー』に掲載された研究発表では、「共食い」の可能性が示唆された。

オスの死骸が、妊娠中や授乳中のメスと子どもに栄養やエネルギーを供給するための豊富な食料源となるため、オスが一斉に死ぬことでメスたちは恩恵を受けているというものだ。

実際に、オーストラリアのニューイングランド国立公園で、アンテキヌスが同種の死骸を食べている姿が目撃されている。

研究では、アンテキヌスを個別に飼育していたため、同族間の共食いを観察することは物理的に不可能だったが、

「メスの妊娠中や授乳期、共食いすることでオスの内蔵や筋肉をエネルギー源として簡単に得られるため、生存戦力上、好都合なのかもしれない。」

と研究者は述べている。

しかし、公園で共食いが目撃されたアンテキヌスの性別を特定できなかったため、オス同士の殺し合いの可能性もゼロではないという。

命を賭した奉仕の本能の持ち主 ~アンテキヌスのオスたち

絶滅危惧種の小型カンガルー

画像 : アンテキヌスのメスのお腹の袋で育まれている子どもたち cc John Baumgartner

ラ・トローブ大学の研究員ザイド氏は、

「アンテキヌスのオスは、睡眠不足の悪影響を感じつつも我慢して受け入れているか、あるいは回復力が高いのかもしれない。」

と述べている。

今後の研究では、繁殖期におけるオスの極端な睡眠不足への対処や共食いの詳細など、解明すべき点がまだ多く残されているという。

寿命たった1年で3週間にわたり最長12時間の交尾とは、その生殖能力の高さはさることながら、一生に一度の繁殖期が終わると死んでしまうという、まるで昆虫のような生態を持つ哺乳類が存在していたことは驚愕の事実だ。

その理由が、本当にメスや子どもたちへ自らの肉体を栄養源として提供することだとしたら、彼らの命を賭した奉仕の本能には頭が下がるばかりである。

参考 :
Tiny male marsupials sacrifice sleep for a chance at sex ― then all die at once and get eaten | Live Science
Semelparous marsupials reduce sleep for sex : Current Biology
CSIRO PUBLISHING | Australian Mammalogy

 

lolonao

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フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
antiX Linuxを愛用中。頻繁に起こる日常のトラブルに奮闘中。二女の父だがフィリピン人妻とは別居中。趣味はプチDIYとAIや暗号資産、マイクロコントローラを含むIT業界ワッチング。

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