コロナ禍以来ガーデニングや家庭菜園がブームとなり、自宅で花や野菜を育てる人が増えているが、植物を扱うならたとえアマチュアでも、「多くの植物には毒という武器がある」ことを忘れてはならない。
もし家族やペットが自分の育てた植物のせいで体調を崩したり、最悪の場合命を落としてしまったりしたら、知らなかったでは済まされる問題ではないだろう。
さらには人間には無害でも、犬や猫などペットとして飼われる動物に害のある植物もあるのだ。
今回は人間に害を及ぼす可能性がある、「身近な有毒の草花や樹木、野菜」について解説していこう。
スズラン
スズランは桜が終わった時期あたりから、鈴のような白く小さな花を咲かせる植物だ。スズランはその愛らしい見た目に反して、全草に強力な毒を持つ有毒植物でもある。
スズランは「コントラバキシン」「コンバラマイン」「コンバロシド」など複数の毒を持ち、山菜などと間違えて食べてしまうと頭痛や嘔吐、めまい、血圧低下、心臓まひなどの症状を引き起こす。特に花や根には毒が多く含まれている。
過去に幼児がスズランを活けた花瓶の水を飲んで死亡した事例もあるので、子どもやペットがいる場合は特に注意が必要だ。
アネモネ
春の訪れを告げるように早春に鮮やかな花を咲かせるアネモネも、毒を持つ植物である。
アネモネの毒は「プロトアネモニン」といい、この毒はアネモネ全体に含まれている。
アネモネの茎を切ると出てくる液体が肌に触れると皮膚炎や水泡を引き起こすことがあるので、ガーデニングでアネモネを扱う際は手袋を着けた方が良い。
アネモネと同じキンポウゲ科に属するクリスマスローズ、ラナンキュラス、クレマチスにも同様に、プロトアネモニンが含まれている。
レンゲツツジ
子どもの頃に、ツツジの花の蜜を吸った経験がある人は多いのではないだろうか。
しかしツツジの一種であるレンゲツツジは「グラヤノトキシン」「ロドジャポニン」などの痙攣毒を持っている。嘔吐や痙攣、ふらつきや不整脈を引き起こし、場合によっては呼吸停止を引き起こすこともあるこれらの毒は、蜜の中にも含まれているのだ。
レンゲツツジの毒は強力で牛や馬にとっても有毒であるため、別名ウマツツジやベコツツジとも呼ばれている。
子どもはツツジの蜜を吸いたがるかもしれないが、無毒のツツジと有毒のツツジを見分けるのは素人には困難なので、ツツジの蜜吸いはさせないようにした方が良い。
ハナミズキ
公園の植木や街路樹、住宅のシンボルツリーとしても人気のあるハナミズキだが、晩秋につく赤い実には成分不明の毒性があると言われている。
ヤマボウシの実などと間違えて食べてしまうと口内炎や腹痛を引き起こすことがあるので、特に庭にハナミズキを植えている人は子どもやペットの誤食に注意してほしい。
実だけでなく枝や葉も直接触れると皮膚炎を起こすことがあるので、ハナミズキの木は美しい姿を眺めるだけにしておこう。
フジ
4月から5月にかけて、薄紫色や白色のたわわな花をしだれるように咲かせるフジ。
日本で古くから愛される花木だが、その美しい花には「レクチン」という毒があり、樹皮や莢(さや)には「ウイスタリン」、豆には「シチシン」という毒も含まれている。
フジの花は加工して食用にもされるが、レクチンを多量に摂取してしまうと、吐き気や嘔吐、めまい、胃腸炎などを引き起こす。
レクチンは加熱すると毒性が弱まるので、フジの花を天ぷらにして食べるぐらいなら問題ないが、犬や猫が地面に落ちた非加熱のフジの花を食べないように気を付けなければならない。
アジサイ
梅雨時に鮮やかな花を咲かせるアジサイは庭木としても好まれる花木だ。
しかしアジサイは未解明の毒性を持っており、過去には料理の飾りとして添えられたアジサイの葉を食べてしまい、食中毒を起こした事例もある。
アジサイを誤食すると、約30分後から嘔吐やめまい、顔面紅潮などの症状に見舞われる。
致死量に至ることは滅多にないが、体調不良が起こることがわかっているのだからわざわざ食べる必要はない。
近年は剪定したアジサイの花を水を張った盆に浮かべる花手水が流行っているが、その水をペットが舐めたりしないように注意してほしい。
アサガオ
日本の夏を象徴するような丸い花を咲かせるアサガオもまた、有毒植物の1種であり、アサガオの種子には「ファルビチン」「コンボルブリン」という毒が含まれている。
これらの毒を摂取すると嘔吐や下痢、腹痛や血圧低下を引き起こす。アサガオの種子は古くから「牽牛子」という生薬として利用されているが、量を間違えれば毒となるため素人判断での服用は危険だ。
名前が似ているチョウセンアサガオはアサガオとは科目が異なる植物だが、チョウセンアサガオにも毒があり、その毒性はアサガオの毒よりもさらに強烈だ。
チョウセンアサガオの種子は、江戸時代に医師の華岡青洲が全身麻酔用の麻酔薬の原料として利用したが、人体への実用試験の過程で青洲の実母の命と妻の視力が犠牲になったと伝えられている。
過去にはチョウセンアサガオを台木として接ぎ木で育てたナスの実を食べて、中毒を起こした事例が報告されている。
ヨウシュヤマゴボウ
ヨウシュヤマゴボウは、6月から9月頃にかけて花を咲かせる多年草だが、花よりも実の方が存在感がある植物だ。ブドウのような房にブルーベリーのような形の実をつけるのだが、この実を食べることはもちろんできない。
ヨウシュヤマゴボウは全体に「フィトラッカトキシン」「フィトラッカサポニン」「フィトラッキゲニン」などの毒を持っている。
特に根と果実の中にある種子は毒性が強く、誤食すれば激しい嘔吐や下痢、瞳孔散大、精神錯乱や痙攣、ひどいと呼吸障害や心臓麻痺を引き起こし、死に至ることもある。
大人であれば得体のしれない実をむやみに口に入れたりはしないと思うが、子どもが興味を持ちやすい見た目をしており、公園や空き地に自生していることもあるので十分に気を付けていただきたい。
キョウチクトウ
キョウチクトウは庭木や公園の植栽、街路樹などによく使われる花木で、美しい花を咲かせる上に車の排気ガスなどにも耐性を持つため様々な場所に植えられているが、少量の摂取で大人が死亡するほどの毒を持っている。
キョウチクトウ全体に「オレアドリン」「ギトキシゲン」などの様々な強心配糖体が含まれており、青酸カリよりも強い毒性がある。人間の場合の致死量は体重1kgあたり0.30mgで、原産地のインドではかつて堕胎や自殺に用いられた。
キョウチクトウの枝葉を燃やした煙や、キョウチクトウが植えられている土壌周辺にもこの毒は含まれるので、扱いには十分な注意が必要だ。
インゲンマメ
様々な調理法で食されるインゲンマメだが、フジと同様に「レクチン」という毒が含まれているため、加熱が不十分な状態で食べてしまうと嘔吐や下痢などの中毒症状を引き起こす。
白あんなどの材料となる白インゲンも同様で、2006年にテレビで放映された「軽く炒った白インゲンを粉末状にして、白飯の上にかけて食べる」というダイエット方法を実践した158名が、中毒症状を訴えた。
フジやインゲン以外にも、ダイズやアズキ、エンドウマメやソラマメなど、マメ科の植物には高い割合で「レクチン」や「サポニン」などの毒が含まれている。
しっかりと加熱とあく抜きをすれば問題なく食べられるが、生の状態から調理する場合は加熱が半端にならないよう気を付けなければならない。
モロヘイヤ
世界三大美女の1人クレオパトラが好んだという伝説があり、栄養豊富で美容にも良い野菜として注目されているモロヘイヤだが、種子には「ストロファンチジン」や「オリトリシド」という毒や、「サポニン」が含まれている。
モロヘイヤによる人間の死亡例はこれまで報告されていないが、モロヘイヤの種を摂取すれば嘔吐や下痢、めまいが引き起こされる可能性があり、原産地のアフリカではモロヘイヤの種子の毒が矢毒として使われていた歴史がある。
毒は成熟した種子の莢や発芽してから間もない若い葉にも含まれているので、食用として流通しているモロヘイヤに毒の心配はない。
しかし家庭菜園で栽培して食べる場合は未熟な株ではないか、莢がついていないかをよく確認するべきだ。
ギンナン
茶碗蒸しの具材などに使われるイチョウの種子ギンナンにも、実は毒性がある。
ギンナンの種皮の外皮にはアレルギー性皮膚炎を引き起こす「ギンコール酸」と呼ばれる脱炭酸化合物が含まれ、肌に直接触れるとかぶれてしまう。
さらに食用となる仁の部分にも、ビタミンB6の類縁体である毒成分「メチルピリドキシン」が含まれており、食べ過ぎるとビタミンB6欠乏となり、まれに痙攣などを引き起こす。
通常、大人の場合はかなりの数を食べなければ中毒にはならないが、子どもの場合は7個以上の摂取で発症するとされている。
戦後の食糧難の時代にはギンナンの摂取による中毒が多く報告され、中には死亡例もあった。これは栄養失調によって元々足りていなかったビタミンB6が、ギンナンの摂取により著しく欠乏してしまったからだと考えられている。
ギンナン中毒の症状は下痢、吐き気、嘔吐や縮瞳、めまい、痙攣、不整脈や発熱などで、5歳以下の体の小さな子どもにはギンナンを食べさせないよう注意喚起がされており、大人も食べる量には注意が必要だ。
トマト
夏野菜の代表格であるトマトにも、毒成分が含まれていることをご存じだろうか。
トマトにはアルカロイド配糖体の「トマチン」という毒素があり、花や葉、茎や未成熟の果実に多く含まれている。中玉や大玉のトマトだけでなく、ミニトマトにもトマチンはある。
トマチンはジャガイモの芽に含まれるソラニンと類似する構造を持っており、食べれば吐き気や嘔吐、腹痛や頭痛、意識障害などを引き起こす可能性があるのだ。
完熟したトマトにも微量のトマチンが含まれているが、人間の場合は完熟トマトを数トン食べるでもしなければトマチン中毒にはならないので安心してほしい。
熟しているにも関わらず緑色のトマトやミニトマトが流通しているが、それは品種改良により作られたミニトマトで、緑の状態でもしっかり熟してトマチンが減少した状態で世に出ているのであり、家庭菜園で採れた未熟な緑のトマトは食べてはいけない。
お弁当やサラダの彩りとしても活躍するミニトマトも、ヘタの部分は毒がある上に雑菌が増えやすいので、ヘタを除去してよく洗ってから利用することをおすすめする。
毒は植物の生存戦略
人間などの動物にとっては脅威となる毒だが、自力で移動できない植物にとっては自分を守る武器であり、生き残るための知恵でもある。今回紹介したのは毒を持つ植物のうちのほんの一部で、他にも多くの植物が何らかの毒を有している。
毒がある植物の中には虫や鳥に食害されにくい種類もあり、美しい花や緑がある景観を楽しみたい人間にとっても植物の毒が利点となることがあるのだ。
植物は私たちの体に酸素を栄養を与えてくれるだけでなく、心にゆとりを、生活には彩りをもたらしてくれる。
毒があるからとむやみやたらに忌避するのではなく、植物についての知識を深めて上手に付き合っていくことが、人間が自然と共に生きていくためにするべきことなのではないだろうか。
参考文献
森昭彦(著)『身近にある毒植物たち “知らなかった”ではすまされない雑草、野菜、草花の恐るべき仕組み』
保谷彰彦 (著, 写真)『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』
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