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引き寄せの法則は『波動』で説明できます、の波動ってなんだ?

画像 : 引き寄せの法則 イメージ photoAC

引き寄せの法則」は、一時的な流行にとどまらず、現在もスピリチュアル界隈で根強い支持を集めているようです。

この理論は「量子力学によって裏付けられる」とされ、科学的な雰囲気を醸し出している点が、多くの人々に受け入れられる要因なのでしょう。

「波動」や「エネルギー」、「次元」といった用語に加え、「宇宙○○」や「○○フィールド」など、いかにもな科学用語のオンパレード。

こうした言葉の使い方を見ると、養殖マスを「サーモン」と呼ぶ回転寿司の方が、なんだか可愛らしく思えてきます。

「波動」の正体をまじめに考えてみる

アカデミズムとは、過去に蓄積してきた科学知識という共有財産に学びながら進歩を重ねる営みです。

一足飛びの進展はなく、地道で多くの労苦を伴う研究活動に支えられています。

そこで問いたい。
あなたが今、目にしているその「量子力学」、本当にアカデミックなのでしょうか。

例えば「波動を身体に照射して健康になる」的な言い回し。
それは果たして「科学的」なのでしょうか。

「量子力学によれば物質は粒子でもあり波でもある」というフレーズはよく耳にすると思います。
「粒子」と「波」という言葉から想像されるものは、形状も性質もまったく異なります。

「粒子でもあり波でもある」を想像するのは極めて難しいことです。
高校の授業で量子力学のとっかかり(歴史的には「前期量子論」と呼ばれる)を習う際、多くの高校生を戸惑わせるのがこの部分でしょう。

いや、「想像できない」はむしろ正解です。
私たちを取り巻くこの自然は、人が想像可能な姿を常に見せてくれるほど人間フレンドリーではないのです。
そのことを量子論は教えてくれています。

それでは、より学問的に正しい表現に変えて見ましょう。
こうなります。

「量子力学における物質の構成要素は、粒子と波の性質を併せ持つ『何か』だ」

「ものごとを定義するのに『何か』とはどういうことだ!」と怒りたくなる方もいるかもしれません。
そのお怒り、ごもっともです。

不親切極まりないようですが、高校生に対してはそうとしか言えません。
高校生をバカにしているのではありませんよ。
日常生活での利用に特化された日常用語では、必ずしも当てはまる単語が存在しない。
これは仕方のないことなのです。

※数式ならこの「何か」をもっとしっかり、厳密に表現できます。そしてそれには「場」という訳語が充てられています。そういうところが、物理学者が数学を一つの言語として重用する所以でもあります。

ところで、物体に何らかの「波動」を作用させてその物体の状態を変化させるということ自体は、一般的にはありえることです。
その良い例は私たちの日常で使われており、多分あなたの家にもありますよ。
なんだと思いますか?

そう、電子レンジ

あれは電波の一種であるマイクロ波を照射し、食品中の水分子の回転状態を励起し(水温を上げ)、食品を加熱しています。
この場合の「波動」とはもちろんマイクロ波です。

過不足なく明瞭に、波動がきちんと定義されています。

画像:波間に沈む月(pixabay)

定義なくして科学なし

つまり、定義は大事だよ、ということです。

「量子力学では‥」と言っているから、ましてや波動で説明しているから「まっとうな量子力学」かと思えばそんなことはありません。

さらに「波動」や「エネルギー」、「次元」など、いかにも科学的に見える言葉が並べられると、「なんとなく科学的な裏付けがあるのかな」と錯覚してしまうかもしれません。

まずは考えてみましょう、その「波動」とは何であるのかを。
マイクロ波?赤外線?それとも可視光?
もしこれら電磁波のたぐいでないのだとしたら、それはどんな種類の波動なのか?

もし明確な定義なしに「波動」が使われているのだとしたら、その議論はとりあえず眉唾と思っておいて間違いないでしょう。

それは科学的根拠のない、量子力学のイメージだけを利用した疑似科学の可能性が高いのです。

波動を語るやんちゃな宝石商

画像:怪しい宝石商(著者作成)

以下は、銀座に実在する宝飾屋さんでの私の実体験です。

40人くらいの観客を前に、店長が講演していました。
もちろん普通の講演会などではありません。
店側からすれば、当然ながら宝石を売るために集めた人たちです。
つまり、宝石をその店から買うことの「メリット」を開陳するための会でした。

私はというと、参加者の一人に誘われて入ったものの特に買う気はありませんでした。
ただ、スピリチュアル的な雰囲気を感じ(私を誘った御仁もスピ側の人)、どんなことが語られるのか興味がありました。

そして登場したのは、パッと見チョイ悪系の浅グロ店長。
うーん、怪しい‥。
大勢のカモ、もとい、お客を前に熱く語りだします。
内容は要するに「その店の宝石を体の不調な個所に当てると、その不調が治る」というものでした。

疑似科学としては、ありきたりという内容です。
この宝石の部分を「○○水」とか「○○シール」に置き換えればイメージしやすいかと思います。
モノを使わない「手かざしで直します」バージョンもありましたね。

それで「宝石を当てれば治る」と称する店長の言い分は、以下のようなものでした。

「量子力学によれば、素粒子は全て「弦」でできていて人間の身体も当然弦でできている。不調が治ったのは、宝石からの波動が身体の中の弦の振動に作用した結果なのだ」

会場一同「おぉ~(驚きと関心と納得の声)」。

「素粒子は『ひも』」とは?

ここでも「波動」が出てきました。

まずはこの宝石商の「解説」をじっくり考えてみましょう。

現代物理学には「超弦理論」という仮説が存在します。
素粒子が弦であるとは、この超弦理論で与えられる考え方です。

この世に存在するあらゆる素粒子が従来考えられていたような「点状の粒子」ではなく弦、つまり一種の「ひも」のようなものだと考えると、素粒子物理学の様々な問題が解決できるかもしれない、と期待されています。

今でも最先端の研究テーマの一つではありますが、この考え方自体は誕生からすでに半世紀はたつものであり、それほど「最新」というわけでもありません。

一般向けに解説した本や雑誌もすでに結構あるし、TV番組で紹介されたこともあります。

あなたも弦理論とかひも理論などは、一度は耳にしたことがあるかと思います。
まさにその「聞いたことあるな」感が、店長のねらいどころなのです。
少しかじったことのある人のほうが、全く知らない人よりも琴線に触れてしまうのです。

繰り返しになりますがこの超弦理論、今の段階では「仮説」にとどまります。
仮説であるとは、その正しさがまだ実験的に証明されていない、ということです。

言わなければならないのは、仮説を仮説と明示せず説明に使う店長の手法は、その時点でまずフェアとは言えません。
仮説である以上、何かの正しさを「証明」する根拠のように語ってはいけないのです。

波動が物質に吸収されるからくりとは?

画像 : 電子レンジ イメージ

波動の例として、電磁波を取り挙げましょう

電磁波とは、光や電波、赤外線、紫外線、X線などの総称です。
物質は電磁波のエネルギー(電磁エネルギー)を吸収します。
さっきの電子レンジの例でも見た通り。

しかしその為には、物質系の「固有周波数」と電磁エネルギーが「共鳴」、即ち同調しなければなりません。
ラジオをチューニングして、放送局の電波の周波数に同調したときだけキャッチできる、そのようなものです。

大雑把に言うと、分子の「回転運動」は電磁波の中でも特に「マイクロ波」に共鳴します。
つまり、マイクロ波を照射することで分子の回転が促進されます。
電子レンジはこのケースです。

他にも、分子が伸びたり縮んだり曲がったりまっすぐになったりという「振動運動」があります。
これは、マイクロ波よりエネルギーの高い「赤外線」に共鳴します。
だから分子の振動は、マイクロ波を当てても変化しないけど、赤外線を当てるとぐんぐんその動きが活発になるわけです。
ストーブが暖かいのはこのせいです。

さらに、分子には「電子状態」と言って、分子内に捉われている電子のその束縛のされ方を規定するものがあります。
この電子状態は、赤外線よりさらに高エネルギーの「可視光」つまり我々が普段目で見ている光、これに共鳴します。
つまり可視光を吸収して、分子の中の電子はその存在様式を変化させています。

ニンジンがオレンジ色なのは、このせいです。
ベータカロチンという分子の長さが、青紫色の光を吸収する長さにちょうど合っている。
なので私たちの目には、その補色であるオレンジ色が見えているのです。

このように物質と電磁波、即ち外部からのエネルギーには共鳴し合う関係があり、共鳴関係がなければエネルギーは吸収されず、従って物質側に変化は起こりません。

例えばいくら強いマイクロ波を照射しても、電子状態は変化しないのです。

共鳴する「条件」をきちんと考えよう

では、先ほどの超弦理論における弦、素粒子の「ひも」ですね。
その振動は何に共鳴するのでしょう?

それはひとくちに言えば「ガンマ線」です。

ガンマ線は、電磁波の中でも最もエネルギーが高い種類でそのエネルギーに上限はありません。

そして、素粒子の弦に共鳴する水準となると、もうエネルギーレベルが高すぎて、この地上には存在しません
世界で最も高いエネルギーを生成する実験装置であるスイスのLHCから見ても、その1000兆倍高いエネルギーでないと弦の振動を変化させることはできないのです。

この辺の事情は、確かに専門家じゃないとなかなか思いつかないかも知れません。
そこが詐欺師の目の付け所にもなるのですが。

一つだけヒントを言うと、世の中「小さいものほど高エネルギー」です。
素粒子って、物質の最小単位ですよね。
そう考えた時、それとエネルギーのやりとりができる電磁波領域ってどんなものなのだろう?、と思いをはせてもらえばよろしいかと。

「手で宝石をかざすと宝石から波動が出て、身体側の弦に共鳴して‥」などといかにも科学的に説明したような体ですがとんでもない。
宝石からそんな超高エネルギーガンマ線が出ているわけがない。
これはマイクロ波で電子状態を変える事より、もっともっとはるかに無謀なことなのです。

※付け加えると、もし宝石からそんなガンマ線が出ているとするとするなら、地球上は放射性物質だらけ。とても生物は住めません。いや、生命の発生すらなかったでしょう。

画像:生命が育たない地球(著者作成)

科学的思考のミソ:「言葉の定義」と「エネルギー論的考察」

このように、明確な根拠を持って考えることが「科学的思考」です。

「明確な根拠」とは、今の例でいえば「波動とは何ですか」(言葉の定義)、と「共鳴して身体に吸収されるのは本当?」(エネルギー論的考察)。

特に2番目のエネルギー論的考察は、確かに一般の人には少し難しいかもしれません。
何度も言いますが、そこに付け入るスキがある。

はっきりしているのは、感覚的に「分かった様な感じ」が一番怖い、ということです。

そしてこの「分かった感じ」を与えて納得させる論調が疑似科学の得意種目であり、世の中に蔓延しているのも残念ながら事実なのです。

量子力学を振りかざして来たらその「エネルギー」とは具体的に何か、「波動」とは何か、「共鳴」と言われたら、何が何に「共鳴」しているのか、それは「共鳴条件」を満たしているのか。

分からないものを分からないまま、ただ言葉のイメージに流されるのではなく、突っ込んで考える、そういった思考の癖を身につけたいものです。

文 / 種市孝 校正 / 草の実堂編集部

種市 孝(たねいちたかし)

種市 孝(たねいちたかし)

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超心理物理学者・エセ科学バスター
【NPO】国際総合研究機構付属理論物理学研究所・所長
超心理現象(テレパシー、ミクロPK等)をまじめに科学する理論物理学者。 同時に「科学的とはどういうことか」、「科学思考はなぜ重要か」を掘り下げる。
川崎生まれ、新潟育ち、東京在住。

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