可愛らしい絵に合わせて、人間の感情、自然や生き物の存在を優しい言葉で語る童話や絵本には、幼い子供たちの想像力や思考力を刺激させる教育の要素が含まれている。
家族以外の人々との関わりがまだ少ない頃から本を読み聞かせることで、物語の世界で展開される『喜怒哀楽』に共感し、相手への思いやりの心が養われていく。
子供自身がお気に入りの物語を見つけ自ら本を読む習慣がつくと、言語能力の向上にも期待が持てる。
海外を舞台に語り継がれてきた物語が多い童話と、絵を中心として物語が進む絵本に日頃から触れさせる「読書教育」は、成人してからの本人の性格や関わっていく人間関係に良い影響をもたらすともいわれている。
目次
世界中で愛され、賞賛され続けるデンマークで生まれた名作の数々
子供の感性を引き出すための童話や絵本に触れさせる教育の大切は、世界中の親が確信していることだ。
熱心な「読書教育」に取り組む国として知られるのが、北欧諸国の一つであるデンマークである。デンマークは世界的に有名な童話作家『ハンス・クリスチャン・アンデルセン(以下アンデルセン』の出身国であり、その美しい街並みを背景に数々の名作童話が誕生した場所であることから『童話の王国』と例えられている。
『マッチ売りの少女』『人魚姫』『みにくいアヒルの子』といった彼の代表作は日本でも翻訳され、子供から大人まで楽しめる童話となっている。
私たちが幼い頃、読み聞かせや自ら手にとって読んだ物語の中には必ず彼の作品が一冊は存在し、もし読んだことがないとしても物語のあらすじを答えられる人は大半だと思う。
アンデルセンが描く童話の世界は、彼自身の人生そのものだった
アンデルセンが描く幻想的な世界観をより深く味わうため、彼の童話は何度も絵本版が作成されている。
彼が世に残した童話は150作以上にも及び、『赤い靴』や『おやゆび姫』、『雪の女王』は映画や舞台の原作にもなっている。世界の名作として高い評価を受ける物語の誕生には、アンデルセン自身の半生が深く関係していた。
決して裕福とはいえない家庭で育ったアンデルセンの心の支えは、両親の深い愛情だけだった。
貧しさを感じさせる経済状況や、精神的に不安定であった祖父母の言動に耐える辛い日々を過ごす時期も経験したが、アンデルセンは家族からの応援もあり自分の才能に自信を持っていた。しかし厳しい現実と思い通りにいかない大学生活に絶望し、数々の挫折を味わい自信を失ってしまう。
その後、ヨーロッパ各地を旅をしながら作成した詩を発表すると、少しずつアンデルセンの名前が世間に知られるようになっていき、同時に童話の執筆も始めた。
当時の童話には珍しかった「貧困」「差別や偏見」、「死を迎える」といった描写が人々から非難されてしまうこともあったが、彼の半生を軸に描かれたものだと分かると、人間が抱える様々な感情を率直に表現するアンデルセンの童話は少しずつ読者に受け入れられていった。
半世紀以上経った現在も、彼の童話に感銘を受ける人々は多い。
デンマーク発の絵本は日本の親たちからの信頼も厚い
デンマーク国内で「読書教育」の一環として親しまれている童話や絵本の多くは日本語で翻訳され、日本の書店などでもその人気を確認することができる。
ここでは代表的な2点の作品を紹介する。
①自分の個性を堂々と表現する勇気が詰まった「青い目のこねこ」
デンマークの絵本作家エゴン・マチーセンが描いた「青い目のこねこ」という絵本がある。
デンマークの人々からも賞賛を受ているこの物語は、瞳が青いことで差別を受ける子猫が、持ち前の明るさで多くの困難に立ち向かう姿を描いている。
周りと容姿が異なることを個性として生きていく子猫を通し、『偏見や差別』といった社会問題を子供にも分かりやすく教えるこができる「読書教育」に相応しい絵本であるといった声も多い。
②家族の愛情を伝える機会にもなると評判の絵本「よるくまシュッカ」
シリーズ化もされている「よるくまシュッカ」は、絵本に触れながら安定した呼吸法と子供の睡眠を促進させる効果があることで、デンマーク国内で絶大な人気を得ている。
かつて保育士を勤めていたこともある作者のエミリー・メルゴー・ヤコブセンが、自分の息子を寝かしつけるために描き始めた絵本としても話題を集めた。
この絵本には一定の主人公は登場せず、文章の所々に読者である子供たちの名前や、家族の名前を自由に当てはめて読める形となっている。
さらに睡眠を連想させるゆっくりとした呼吸法と、あくびの動作を絵本を読みながら真似できる作りになっている点も、通常の絵本には見ない新しい形である。
物語が終盤に差しかかるにつれて親から子へ愛情を伝える言葉が多く登場するため、親の愛情を絵本を通して子供たちは実感することができる。
親の深い愛情を実感した子供たちの安心した気持ちこそが、睡眠の質を向上させているとも考えられる。
「読書教育」に必要不可欠と評価される理由とは?
「読書教育」の先駆けともいえる童話作家アンデルセンの作品は、自分自身と主人公の人生を重ねながら物語を読み進めることを目的としており、主人公のように幸せや絶望に直面した際に自分はどのように人生を歩んでいくのか、苦悩を経験した家族や友人に対してどんな言葉を掛けてあげられるのかを読者に問い続けている。
デンマークの作家たちが描く童話や絵本には、自分の個性を人生の強みに変えていく考え方から、相手に気持ちを伝えることの大切さといった人間の本質を教え、学ぶ機会が含まれている特徴がある。
また、人間の感情を表す『喜怒哀楽』や『生と死』といった現実味のある強いテーマで描かれている部分も、世界中で取り組まれている子供の「読書教育」に最も適している本と評価される理由である。
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