イースター島といえば、モアイ像が有名だが、実はもう一つ、不思議なものが存在する。
それは「ロンゴロンゴ文字」と呼ばれる、いまだ解読されていない謎の文字だ。
さらに奇妙なことに、この文字は島には生えていなかった木の板に刻まれていたのである。
2024年2月2日付けで「Scientific Reports」誌に掲載された論文によると、このイースター島の未解読文字は、既知のどの文字体系とも異なるのだという。
放射性炭素年代測定した結果、ヨーロッパ人が来るよりもずっと前にこの文字が使われていたことがわかった。
それは、この文字がイースター島で作られ、外国の文字体系の影響を受けていないことを裏付けるものだ。
本稿では、古代の人々が独自の文化の中で生み出した「ロンゴロンゴ文字」の秘密を探る研究について説明する。
ロンゴロンゴ文字の起源と記録
ロンゴロンゴ文字は、1864年に島を訪れたフランス人修道士・ウジェーヌ・エイローがイースター島の滞在記を著し、その中で言及したことが文字発見の初出である。
家々には数種類の象形文字が一面に刻まれた木製の板や棒がある。それらはこの島のある種の動物を住民が尖った石で描いたものである。文字にはそれぞれ名称がある。しかし、住民達はこれらの文字板をぞんざいに扱っていることから、今や彼らはこの文字の意味を知ろうともせず、ただ習慣的に保存しているだけになっている、と私は考えるに至った。※ウジェーヌ・エイロー 1886:71
しかしその後、これらの板はほとんどが壊されたり海外に持ち出されてしまった。
現在では世界中にわずか26点しか残っておらず、本物と断定できる板は半分ほどだという。しかもイースター島には1つも残っていないのだ。
孤立した島と消えた文化
チリの海岸から約3,800キロメートル離れた場所にあるイースター島、別名ラパヌイは、地球上で最も孤立した土地の一つである。
イースター島とモアイ像の存在は、1722年にオランダのヤーコプ・ロッヘフェーン提督の艦隊が島を発見したことによって知られるようになった。しかし彼らがイースター島にたどり着いた時には、モアイ像の多くはすでに部族間抗争によってほとんどが倒されていたという。
この時点においては、イースター島独自の文化は崩壊していなかったようである。
しかし、18世紀末頃までには島民たちはヨーロッパ人やペルー人たちによって奴隷として連れ出され、外部から持ち込まれた天然痘や結核によりさらに人口は絶滅寸前まで激減した。
こうして、ロンゴロンゴ文字を初めとするイースター島の文化は消滅してしまったのである。
ロンゴロンゴ文字の特徴
そのためロンゴロンゴ文字が使われることはなくなり、現在に至るまで解読は進んでいない。
現存するものは比較的長い文章で、絵のような記号、いわゆる「グリフ」を使って書かれている。
この記号の形は、人間の姿勢や体の部位、動物、植物、道具、天体など、さまざまな種類のイメージを表している。
この表記法がいつどのようにして生まれたのかは不明であり、文字を知っているヨーロッパ人との接触が「創造の刺激」となった可能性もあるが、研究者たちは「絵文字のグリフは既知の文字に似ていない」と指摘している。
さらに研究者たちは、この記号がイースター島で見つかった古代の岩絵に描かれている絵柄とよく似ていることに注目した。
これは、ロンゴロンゴ文字が他の地域の文字の影響を受けずに、独自に発明された可能性を示唆している。
歴史上、文字が独自に発明された例は、メソポタミア、エジプト、中国、メソアメリカなど、限られた地域に限られている。
つまりロンゴロンゴ文字は、独自に文字体系を生み出した非常に珍しいケースである可能性があるのだ。
年代測定による新発見
しかし、これまでに正確な年代が判明していたロンゴロンゴ文字が刻まれた板は2つだけで、どちらも19世紀前半に伐採された木で作られていた。
この時期にはヨーロッパ人との交流が始まっていたので、ロンゴロンゴ文字がヨーロッパ文字の影響を受けている可能性がぬぐいきれなかった。
そこで、研究者たちはさらに調査を進めるため、1869年に宣教師によってイースター島から持ち出され、現在イタリアのローマに保管されている4つの板を放射性炭素年代測定することにした。
調査の結果、3つの板は19世紀に伐採された木で作られていることがわかったが、残りの1つはそれよりもずっと古い1493年から1509年の間に伐採された木で作られていることが判明した。
これは、ヨーロッパ人がイースター島に来るよりも少なくとも200年も前のことだ。
つまり、ロンゴロンゴ文字は外部の影響を受けずに、独自に生まれた可能性が非常に高いということになる。
木材の起源と謎
この古い板に使われていた木はイースター島には生えていない「ポドカルプス・ラティフォリア」という種類の木であることも分かっている。
この木は南アフリカの国樹で、中世以降は主に船のマストを作るために使われていた。
そのため、ヨーロッパの船が沈没して流れ着いた木材が、イースター島に流れ着いた可能性が考えられる。
ロンゴロンゴ文字の意義と今後の展望
ロンゴロンゴ文字は多くの謎に包まれたままだが、ヨーロッパ人到来以前の起源だと示されたことは、人類の歴史における文字の発明という観点からも非常に重要な発見だ。
エジプトのヒエログリフが解読されたことで、古代エジプト文明の謎が次々と解明されたように、ロンゴロンゴ文字の解読も、イースター島の人々の歴史や文化を理解する上で大きな一歩となるはずだ。
ロンゴロンゴ文字が解読されれば、古代の人々の生活や文化、考え方、そして彼らが何を伝えようとしたのかを知る手がかりとなるかもしれない。
なにより、モアイを含めたイースター島の謎解明につがる可能性があり、今後の研究に期待したい。
参考 :
The invention of writing on Rapa Nui (Easter Island). New radiocarbon dates on the Rongorongo script | Scientific Reports
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