古代文明

【ネアンデルタール人】 7万5千年前に既に芸術を創造していた?

2023年6月、フランスのトゥール大学の研究で「約75,000年前に、ネアンデルタール人がヨーロッパで最初に意図的な彫刻を作った可能性がある」と発表された。

意図的な彫刻とは、道具や指を使って石壁から物質を意図的に除去したことを意味する。

ネアンデルタール人が意図的に彫刻を作っていたということは、彼らが抽象的な思考や創造力を持っていた可能性を示唆している。

この研究は、ネアンデルタール人の創造性と文化の複雑さを示す重要な成果だ。

【ネアンデルタール人】

画像: フランスのロワール渓谷にあるラ・ロシュ・コタール洞窟で見つかった、ネアンデルタール人の指で作った彫刻 CC BY 4.0 Deed

洞窟内の発見

発見された場所はフランスのラ・ロシュ・コタール洞窟(以降LRCの洞窟)で、洞窟内には指で描いたと思われる抽象的な線や点の跡が約400個見つかった。

研究者たちは、これらの痕跡を「彫刻」と呼んでいる。なぜなら、道具や指を使って意図的に石壁から物質を除去したことを意味するからだ。

指の痕跡の分析

研究者たちは、彫刻がどのように作られたかを調べるために、同様の洞窟で実験を行った。

一人が指、骨、木、角、燧石、金属のポイントを使って岩壁に痕跡を作り、もう一人がその痕跡がどのように見えるかを記録し、写真測量法(数百枚の写真を使って仮想的な3Dモデルを作成する技術)を使って、実験的な痕跡と先史時代の痕跡を比較した。

【ネアンデルタール人】

画像: フランスのロワール渓谷にあるラ・ロシュ・コタール洞窟で見つかった、ネアンデルタール人の指で作った彫刻 CC BY 4.0 Deed

その結果、指の痕跡が先史時代の彫刻に非常に似ていることが判明した。

また、研究者たちは、洞窟内で多くの石器と彫刻を発見したが、これらの石器と彫刻の間に、直接的な関連は見つからなかった。この結果から、彫刻は石器とは別の目的で作られた可能性が高いとされている。

なぜなら石器を使って彫刻を制作した場合、石器と彫刻の間には、直接的な関連が見つかる可能性があるからだ。

つまり、ネアンデルタール人は「石器を使って彫刻を作るのではなく、指で直接石壁に模様を描いた可能性がある」ということだ。これは、ネアンデルタール人が抽象的な思考や創造力を持っていた可能性を示唆している。

研究チームは、さらに洞窟の壁の彫刻を詳しく調べたところ、ほとんどの彫刻は、シルト(泥や砂が固まってできた岩石の一種)で覆われた壁に、指を平らにこすりつけたときにできる「指の跡」であると結論づけた。

洞窟の年代測定

洞窟が使用された時期をさらに正確に把握し、指の跡が現代人かネアンデルタール人かのどちらなのかを突き止めるために、研究者たちは光刺激ルミネセンス法を使って、堆積物の最後の太陽光露出時期を測定した。

この分析の結果、洞窟は少なくとも56,000年前、おそらくは75,000年前には塞がれていたことが明らかになった。

なお、光刺激ルミネセンス法(Optically Stimulated Luminescence:OSL)とは、鉱物が放射線を吸収したときに生成されるエネルギーを、光で刺激して検出することで、鉱物の年代を測定する方法だ。この方法は、放射線量が比較的安定している環境で形成された鉱物に適用することができる。

そのため、洞窟の壁や土壌など、古代の環境を保存している試料の年代測定に用いられている。

ネアンデルタール人の創造性が明らかに

【ネアンデルタール人】

画像 : ネアンデルタール人の老人と子供の復元 wiki c Wolfgang Sauber

この彫刻は、少なくとも56,000年前に作られたことがわかった。そしてこの時期には、現代人はフランスに存在していなかったと考えられている。つまり、ネアンデルタール人がこの彫刻を作った可能性が非常に高いのである。

また、洞窟の彫刻は指でこすりつけた線や溝で、具体的な物を描写しているわけではないが、規則性やリズムなどを感じさせるものであり、抽象的なデザインの特徴を持っていると考えられている。

この研究は、指で書いた痕跡(洞窟の壁などに指でこすりつけた線や溝などのこと)の歴史を長くしたことと、初めてネアンデルタール人との関連を明らかにしたことで評価されている。

しかし、これらの「彫刻の意義」は依然として明らかではない。

研究者たちは、「LRCの洞窟での指の跡は明らかに意図的なものであるが、それが象徴的な思考を表しているかどうかを確立することはできない」としている。

さいごに

ネアンデルタール人は、これまで単純な狩猟採集民であると考えられていたが、意図的に彫刻を作っていたということは、抽象的な思考創造力を持っていた可能性がある。

抽象的な思考とは、具体的な物や事象にとらわれずに、概念や関係性などを理解する能力で、創造力とは新しいものを考え出す力だ。

これまでは、宗教や儀式などの精神的な活動を行っていたことは推測されてきたが、芸術や音楽などの文化的活動も行っていた可能性さえでてきた。

この研究による発表は、ネアンデルタール人に関する理解を大きく変えるものである。

ネアンデルタール人と現代人の創造性には、共通点と相違点がある。これらの違いを理解することは、人類の進化の過程を理解する上で重要である。

さらなるネアンデルタール人の創造性の研究は、人類の進化に関する新たな知見をもたらし、人類の歴史をより深く理解する上で重要な役割を果たすだろう。

参考 : Neanderthals created Europe’s oldest ‘intentional’ engravings up to 75,000 years ago, study suggests | Live Science

 

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フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
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