古代文明

ツタンカーメン 科学的調査でミイラの謎が明らかに【歴史的発見か?】

ピラミッドとともに古代エジプト文明の姿を知る手掛かりとなるのが、王墓とミイラの存在である。

有名なツタンカーメン王も、墓とミイラは発見されたものの、未だに謎は多い。

しかし、近年になりクフ王のピラミッドと同様に最新テクノロジーにより「科学のメス」が入ろうとしている。

隠された空間

ツタンカーメン
※ツタンカーメンの玄室

アメリカ・アリゾナ大学の考古学者、ニコラス・リーブスは、ツタンカーメンの王墓には隠された部屋があり、他の王族が埋葬されているという仮説を立てていた。そして2015年、リーブス博士はツタンカーメンの墓の詳細な画像を分析しているときに、壁に扉のような割れ目があると気付いたのである。扉があるということはその奥に何かしらの空間があるはずだ。

同年11月このことが発表されて、世界中を驚かせた。
玄室の北側の壁、そのさらに奥に隠れた部屋らしき空間が発見されたいうだけでも大発見だったが、リーブス博士は、さらにこの部屋にはツタンカーメンの継母であるネフェルティティが埋葬されている可能性も発表したのである。

この部屋の可能性については否定的な意見もある。2016年3月には別のチームが同じ場所を調査したのだが、レーダーに反応はなかったという。その後も世界の研究者たちが意見を交わしており、現在も結論は出ていない。

隠された部屋に眠る者

ツタンカーメン
※ネフェルティティの胸像(ベルリン国立博物館所蔵)

ネフェルティティは、アクエンアテンの王妃であり、その名を知らなくても未完成の胸像を見たことがある人はいるかもしれない。しかし、彼女の出自は謎に包まれており、ネフェルティティがツタンカーメンの王墓に埋葬されているという確かな証拠はない。さらに出自だけではなく、アクエンアテンの在位中に彼女の記録は一切消えてしまっている。死亡説、失脚説などこれも諸説あるのだが、信憑性のある史料はいまだ発見されていない。

あくまでも、ツタンカーメンが王位に就く以前に女王として、王位に就いていた「可能性」があるからというだけに過ぎない。しかし、一方でその可能性を完全否定できるだけの証拠も見つかっていない。さらにツタンカーメンの玄室には北側の壁だけでなく、西側の壁の奥にも隠された部屋があるのではないかと推測されている。

いずれにせよ、この玄室にはさらなる調査が必要だ。

ツタンカーメン DNA調査

ツタンカーメン

今までに発見されたミイラのほとんどは博物館で保管されている。しかし、ツタンカーメンのミイラは、この墓を発見したハワード・カーターの遺言により、今も発見された墓に戻されている。

2010年、エジプト考古学研究グループにより、ツタンカーメンのミイラを使ったDNA調査が行われた。

それにより判明したことは、この王が虚弱体質であったこと、マラリアに罹患したことがあり、近親婚による子供だったことまで分かった。また、ツタンカーメンの父・祖父についても確定できなかったのだが、この調査によりそれも判明した。

父はアクエンアテン、祖父はアメンホテプ3世であった。母親についてはDNA鑑定によりそのミイラまでは特定され、彼の叔母であることまでは判明したが、それが誰なのかは依然として謎のままである。

健康状態まで判明!

ツタンカーメン

古代エジプトにおいて、遺体をミイラにするのは王族に限ったことではない。

身分を問わず、専門家の手によってミイラ作りは行われていた。死後の世界を信じる彼らは、いずれ魂が戻る肉体を永遠に保存する必要があった。しかし、ほとんどの墓が盗掘によって遺体ごと消失してしまうケースが多い。それでも「王家の谷」に代表される王族のミイラが多く残っていたのは、後世の神官が王墓が盗掘被害に遭っていることに気付き、せめてミイラだけでも残そうとした結果である。

近年では、ツタンカーメンだけでなく、他のミイラにも最新テクノロジーによる調査が行われている。ツタンカーメンのミイラも医療用CTスキャンにより調査されたが、この手法であれば遺体を損傷させることなく病歴などが判明する。この調査はカイロにあるエジプト考古学博物館が保存する52体ものミイラを対象に行われ、半数に動脈硬化が見られたほか、ある女王のミイラからは最古の心臓疾患の形跡も発見された。

推測を否定する技術


※エジプトのミイラ(バチカン美術館所蔵)

DNA調査では、ツタンカーメンのようにその血筋を調べるために複数の同時代のミイラが調査される。ツタンカーメンの場合には父であるアクエンアテンや祖父のアメンホテプ3世のミイラを調査したが、同時に調査されたミイラのなかには発見後に「老婦人」と名付けられたミイラもあった。これにより、このミイラがアメンホテプ3世の王妃ティイであることが判明している。

また、アクエンアテンは、一神教改革を行ったことで知られる王である。彼の彫像や壁画の多くが膨れた腹や、女性化乳房症のような隆起した胸部を持っていることから、長年にわたり遺伝病ではないかと疑われてきた。だが、彼のミイラをスキャンしたところ、異常を示す要素は見つからなかったという。

時として最新の調査法は、推測を裏付けるだけではなく、否定することもあるのだ。

最後に

ミイラの調査は血縁関係を調べるだけではなく、当時の健康状態や死因まで明らかにするまでになった。身元不明のミイラから世界最古の動脈硬化が発見されたり、ラムセス2世のミイラからは関節炎を患っていたことなども分かっている。

今後も、ピラミッドの調査と同じように最新の技術により様々なことが判明するに違いない。楽しみに待とうではないか。

関連記事:古代エジプト
ピラミッドの最新調査について調べてみた【ギザの大ピラミッド】
「世界と男を翻弄したクレオパトラの真の素顔について調べてみた」

 

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
gunny

gunny

投稿者の記事一覧

gunny(ガニー)です。こちらでは主に歴史、軍事などについて調べています。その他、アニメ・ホビー・サブカルなど趣味だけなら幅広く活動中です。フリーでライティングを行っていますのでよろしくお願いします。
Twitter→@gunny_2017

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 古代エジプトのファッションについて調べてみた「ファラオの王冠は布…
  2. 古代文明が誕生した意外な条件とは? 「砂漠が増えたことで文明が発…
  3. ギルガメシュ叙事詩とシュメール王ギルガメシュ「神か?人間か?」
  4. 【2千年前に書かれた世界最古の聖書 】 死海文書の謎
  5. なぜ人間は土や木を食べられないのか?その理由が古代マヤ文明の創世…
  6. 【4500年前に頭蓋骨手術が行われていた】 2度の手術で生き延び…
  7. 「バベルの塔」は実在するのか?モチーフとなったジッグラト【エテメ…
  8. ネアンデルタール人と私たちの歴史 「そしてヒトが生き残った」


カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

中国の人身売買が無くならない理由 「8人の子供の母親事件」

前編では中国の児童誘拐や人身売買の概要について解説した。今回は、人身売買が今もなくならない理…

戦で活躍?あまり知られていない 「日本の変わった武器」

日本では古来より、幾つもの戦いが繰り広げられてきた。当然武器も様々なものが使われ、進…

毛沢東の遺体について調べてみた 「防腐処理され記念館で展示」

毛沢東とは毛沢東は、中華人民共和国を建国した中心人物である。今だに彼の本はベスト…

ジーン・ケリー【ミュージカル映画の大スター】「雨に唄えば」のタップダンス

ジーン・ケリーとはジーン・ケリー(Gene Kelly:1912~1996)は、アメリカ…

ネアンデルタール人は なぜ絶滅したのか 「言葉を話し、現生人類と交雑していた?」

ネアンデルタール人は、約40万年前に出現し、約4万年前に絶滅したヒト科の絶滅系統である。前編…

アーカイブ

PAGE TOP