島嶼化とは
恐竜に限らず、生物の進化に関する情報を集めていると「島嶼化(とうしょか)」という言葉に出会う。
島嶼化を一言でいうと、島という「孤立した環境」に適応するため、動物が矮小化したり、巨大化したりする現象の事である。
もっとも、巨大化する例は稀であり、島には限られた資源しかないため、厳しい環境に適応するため基本的には身体が小さくなるように進化する。(日本を例に挙げると、屋久島に生息するヤクシカとヤクシマザルは、本土に生息するニホンジカやニホンザルよりも小さい。これも島嶼化の一例である)
勿論、恐竜にも島嶼化はあり、超巨大恐竜であるブラキオサウルスの仲間が、飼育出来るサイズにまで小さくなるという驚きの進化を遂げている。
今回は、島嶼化によって「飼育出来るブラキオサウルス」へと進化した エウロパサウルス (Europasaurus)を紹介する。
ドイツで発見された超小型竜脚類
1998年、ドイツ人のホルガー・リュトケによって新種の竜脚類恐竜の歯が発見される。
その後の発掘によって、歯の持ち主が新種のブラキオサウルス科の恐竜であると判明し、2006年に発見者のホルガーにちなんでエウロパサウルス・ホルゲリと命名される。
新たにブラキオサウルスの仲間として加わったエウロパサウルスだが、最も特筆すべき特徴は、巨大恐竜の宝庫である竜脚類としては異常なまでの「小さな身体」だった。
エウロパサウルスは成体でも全長6メートル程度(厳密にいえば6.2メートル)しかなく、体高もキリンと同程度という、全長20メートルクラスが当たり前となっている竜脚類の常識から考えると、違う意味で「規格外」な存在だった。(なお、エウロパサウルスは体重も1トン程度しかないためゾウより軽い)
現代に存在しないため証明する事は出来ないが、比較対象であるゾウやキリンが動物園の人気者として多くの来場者に親しまれている(人間による飼育が可能である)のだから、理論の上ではエウロパサウルスも飼育するのは可能という事になる。
ジュラ紀のドイツは島だった
エウロパサウルスが現代に生きていたら是非とも背中に乗せて貰いたい(動物園の企画でエウロパサウルスの背中に乗って園内を散歩するイベントがあれば、3時間くらいは並んで待つ覚悟がある)ところだが、超巨大恐竜であるはずのブラキオサウルスの仲間がどうしてここまで小さくなったのだろうか。
その答えは最初に書いた通り島嶼化による矮小化だが、もう少し細かく解説すると、当時のヨーロッパはテチス海に面した地域であり、今の日本のように島が点在していた。
島によって環境が異なるのは日本に限らず何処の世界でも同じだが、生息に十分な食料や広さがある島もあれば、食料不足で生き残るのに厳しい島もある。
身体がキリンサイズまで小さくなったという事実が証明している通り、エウロパサウルスの祖先(現時点で最古のブラキオサウルス科の恐竜であるボイブリアが有力)が辿り着いた、あるいは地殻変動等で取り残された島は、彼らにとって厳しい環境(巨大な身体を維持するために必要な植物が足りない状態)であった。
エウロパサウルスとジラファティタンの違いは?
イラストを見るとブラキオサウルスの子供にしか見えないエウロパサウルスだが、サイズ以外にも他のブラキオサウルス科の恐竜との違いは勿論ある。
頭骨を比較すると分かりやすいが、近年までブラキオサウルスとして扱われていたため、ブラキオサウルス科の恐竜で最も知られているジラファティタンの頭骨と並べると口先が短く、よく似た形状をしているが、両者が別の恐竜である事は一目瞭然である。
ちなみに、エウロパサウルスは7体の群れで発見されており、小さい個体は全長1.7メートルしかなかった。
大きな身体が最大の武器であった竜脚類がここまで小さくなると肉食恐竜に襲われた時が不安だが、ドイツで発見された獣脚類が揃って小型である事を考えると、エウロパサウルスを襲おうとする肉食恐竜も環境に合わせるため身体が小さくなっていたので、結局のところ両者の力関係は島になっても変わらなかった。(島によってはガラパゴス諸島のように大きな肉食恐竜がいない、エウロパサウルスにとって楽園だった可能性もある)
エウロパサウルス発見の意義
島嶼化によって小さくなった恐竜はエウロパサウルス以外にもおり、ブラキオサウルス科ではないが、白亜紀後期のルーマニアに住んでいたマジャーロサウルスも全長6メートル(こちらも人間が背中に乗って散歩が出来るレベル)しかない、超小型竜脚類に進化している。
では、ヨーロッパに住む恐竜が、島嶼化の影響で小さくなったミニチュア恐竜の宝庫だったかと言われたら、答えは「ノー」である。
エウロパサウルスと同時期にヨーロッパに生きていたブラキオサウルス科の恐竜で、ブラキオサウルスに負けないサイズを誇るルソティタンがポルトガルで発見されている事が証明している通り、食料が豊富であれば身体も大きくなり、自分を狙う大型肉食恐竜がいれば、身を守るため更に身体を大きくする必要があった。
現代でもドイツとポルトガルでは気候が大きく異なっているが、ドイツとポルトガルに住んでいたブラキオサウルス科の恐竜が真逆のサイズに進化した事実は、ジュラ紀のドイツとポルトガルは今以上に異なった環境にあった事を意味していた。(エウロパサウルスが住んでいたのは島なのである意味当たり前ではあるが)
巨大恐竜でも島で孤立したら身体が小さくなるという進化学の鉄則を証明したのは勿論、ジュラ紀のヨーロッパの気候と環境に関するヒントを提示する意味でも、エウロパサウルスの発見は大きな意味のあるものだった。
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