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大阪弁小説の神髄、田辺聖子の生涯

田辺聖子

新潮社『旅』第40巻第7号(1966)より田辺聖子

小説家の 田辺聖子 (1928~2019)をご存じだろうか。

おセイさん」の愛称で親しまれ、多くの恋愛小説や歴史小説などを執筆し、文化勲章を受章しているほどの大家である。

晩年まで小説を書き続け、2019年6月6日に91歳で天寿を全うした。

この記事では、美しい“大阪弁”小説を数多く生み出し、神髄とも言われた田辺聖子の生涯について詳しく調べてみた。

軍国少女だった多感期

田辺聖子は、1928年3月27日に大阪府大阪市に生まれた。

父方の実家は祖父の代から続く写真館で、幼少期から多くの少女小説や古典文学に親しんでいたという。

幼少期に大坂の風俗文化に深く親しみながら育ったことは、後の彼女の作風の大きな礎を作ったといっても過言ではないだろう。

田辺聖子が多感な時期を過ごした10代の頃、日本は第二次世界大戦の戦禍の中にいた。

田辺は他の少女たちと同じように、強烈な愛国心を植え付けられて育ち、「この国が負けるわけがない」「お国のために戦わなければ」と、軍国少女として過ごしていたという。

しかし、1945年に日本が敗戦し、終戦を迎えると、それまでの「愛国教育」がまったくの嘘であったということを痛感したという。

だが、そんな教育を押し付けた大人たちや社会の上層部からは何の謝罪もなしに、社会は激動の変化を迎えていく。

そんな中、少女時代の田辺が感じた絶望はいかほどのものだっただろうか。

戦争の経験は、田辺の心に大きな傷と強烈なインパクトを残し、自著の中でも戦時中に触れた作品が多く残されている。

田辺聖子
(軍国少女だった頃の経験を瑞々しく描いた『私の大阪八景』(角川文庫)。)

作家への道のり

1956年『』で大阪市民文芸賞を受賞した田辺は、作家として本格的な活動を始めることになる。

本格的な作家活動を始めるまでは、大阪の金物問屋に就職し、仕事の傍ら小説を書くという日々を送っていたそうだ。
一時期、放送作家としての仕事もこなしていたらしい。

その後、1964年に小説『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニー)』で第50回芥川賞を受賞すると、若手女流作家として知名度を上げ、以降は人気作家として精力的に執筆を続けていた。

(第50回芥川賞受賞作品『感傷旅行』。)

芥川賞といえば、“純文学作品”の新鋭作家に贈られる賞である。
この受賞歴は、田辺の創作人生において、時に足かせと感じられることもあったようで、本人は冗談交じりに「直木賞の方が欲しかった」と発言している。

なお田辺は、1987年から2004年まで直木賞の選考委員を務めた。

1995年には紫綬褒章(しじゅほうしょう)、2008年には文化勲章を授与され、作家としても文化人としても、一流へと登り詰めた。

田辺本人の親しみやすいキャラクターのおかけで、今でも多くのファンに「おせいさん」というニックネームで呼ばれ、親しみやすい存在として愛されている。

大阪弁で描く、女性のこまやかな感情変化

田辺聖子
(田辺が行き着いた人間の生き方を、ゆるやかな大阪弁で描いた人気エッセイ。)

田辺聖子作品の持ち味といえば、なんといってもその「大阪弁」の美しさとやわらかさ、である。

人が人生を生きていく中で、心の機微に触れる繊細な恋心や、年齢とともに移りゆく女性の複雑な心模様を見事に切り取り、希望に満ちた多くの作品を生み出した。

当時、結婚適齢期(というものが設定されていた)を過ぎても独身であった女性のことを、「オールドミス」とさげすむ言葉があったが、田辺はこれを「ハイミス」という言葉に作り替え、独身女性のイメージを向上させた。

また、大阪人特有の、上品でゆったりとした語り口で、日々の生活をユーモアたっぷりに表現したエッセイは、田辺聖子の魅力を存分に引き出し、唯一無二の随筆として長く愛されている。

生涯多くの小説やエッセイを生み出した田辺は、2019年6月6日、神戸市内の病院にて胆管炎のため死去。
91年という長い人生を生き抜いた彼女は、その死後、従三位の位を贈られた。

古典文学と田辺聖子

田辺聖子先述の通り、田辺は少女期に多くの古典文学に親しんでいた。

この頃の経験は、田辺の作家人生に大きな影響を与えており、『古事記』や『万葉集』などの古代の書物から、『源氏物語』や『枕草子』などの平安文学にいたるまで、多くの現代語訳を発表している。

古典文学というと、どうしても難しいものだと感じてしまいがちだが、田辺は古典への愛と豊かな文章力で、若い世代にも気軽に楽しんでもらえるように、単なる現代語訳としてだけではなく、それぞれの古典作品をひとつの文学作品として昇華させている。

古典作品を現代の若者にも親しみやすいように現代語訳する中で、田辺は日本独特の文化や四季の美しさ、何百年経っても変わらない人の心の機微について感じてほしいと語っている。

特に若い女性に古典文学に触れてほしい、と強く望んでおり、「日本の四季の美しさ、四季を感じさせる美しい言葉はすべて古典の中にある。大きな歴史を秘めた美しい言葉たちを、若い人に学んでほしい」と語っている(『新源氏物語 霧ふかき宇治の恋』あとがきより一部抜粋)。

今まで古典にふれてこず、何から読み始めたら良いのかわからない。
そんな方にはぜひ、『田辺聖子の古典まんだら(上・下)』をおすすめしたい。

この本では、古典文学に精通した田辺ならではの視点で、紀貫之の『土佐日記』や『平家物語』、そして『徒然草』…古代から江戸文学まで、多くの古典をダイジェストで知ることが出来る。

古典文学の入門書として、ぜひ活用していただきたい。

 

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アオノハナ

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