謎の多いブラキオサウルスの進化
これまでブラキオサウルス、ジラファティタン、エウロパサウルスとブラキオサウルス科の恐竜達を紹介して来たが、当然ながら彼らには進化前にあたる祖先となる恐竜が存在するはずだ。
だが、その進化前となる恐竜が発見されておらず、ブラキオサウルスがどのような進化を遂げたのかは長い間謎に包まれていた。
そんな中、2017年にブラキオサウルスの進化の歴史を変える恐竜の発表があった。
今回は、ボトリオスポンディルスとボイブリアを中心にブラキオサウルスの祖先の研究の歴史を辿る。
ブラキオサウルスに似た恐竜?
最初に2017年と書いたが、実はブラキオサウルスの進化前と思われた恐竜はかなり早い段階から発見されていた。
本家となるブラキオサウルスが発見されるよりずっと早く、1875年にイギリスでボトリオスポンディルスという恐竜が命名されると、1895年にはマダガスカル、1934年にはフランスと各地で発見される。
何故いきなりボトリオスポンディルスの名前を出したのかというと、フランスの古生物学者であるアルベール・フェリックス・ド・ラパレントが、ブラキオサウルスとの関連を指摘していたからだ。
但し、各地で発見された化石の完成度はまちまちで、それが本当に同一種であるとも限らない。
筆者が小学校の時に刊行されていた『恐竜サウルス!』全93巻をオークションで購入した時に、51号でボトリオスポンディルスがブラキオサウルスによく似た恐竜として紹介されていたが、読み返しても特徴らしい特徴は書かれておらず、全く参考にならなかった。
消えたボトリオスポンディルス
当時の執筆陣をフォローするなら一部の化石しか発見されていないのだから詳しく書けないのも仕方ないが、果たしてボトリオスポンディルスはブラキオサウルス科の恐竜だったのだろうか。
ヨーロッパからマダガスカルと広い範囲で発見されていたボトリオスポンディルスだが、色々な恐竜の化石の集合体である事が明らかになって存在を否定されたウルトラサウロスの例があるように、安易にブラキオサウルス科の恐竜と分類するのは危険な話であった。(更にいうと、世界一有名なブラキオサウルスとして親しまれていた恐竜も、現在では別種と判明し「ジラファティタン」となっている)
ウルトラサウロス 「消えた伝説の超巨大恐竜」
https://kusanomido.com/study/fushigi/dinosaur/52799/
結論から述べると、イギリス、フランス、マダガスカルで発見された恐竜はそれぞれ別種であり、おまけに、ボトリオスポンディルスは疑問名として存在がほぼ抹消される事態となってしまった。
ボトリオスポンディルスのその後
ボトリオスポンディルスとされていた恐竜達のその後だが、研究が進むにつれてそれぞれ別の恐竜である事が明らかになる。
マダガスカル産の恐竜はラパレントサウルスにナリンダサウルス、フランス産にはボイブリアとそれぞれ命名され、前述した通り本家のボトリオスポンディルスは、かつてのウルトラサウルスと同じく疑問名となってしまった。
ボイブリア不遇の日々
ボトリオスポンディルスから分岐した恐竜のほとんどはブラキオサウルス科としての特徴を持っておらず、少ない手掛かりから生前の姿や種族としての分類を割り出すのは本当に難しい。
ブラキオサウルスの仲間が減ってしまったのは淋しいが、現時点でボトリオスポンディルスと呼ばれていた恐竜の中で唯一ブラキオサウルス科に分類されているのが、今回のもう一人の主役であるボイブリア(Vouivria)だ。
2017年5月2日、インペリアル・カレッジ・ロンドンのフィリップ・マニオンらによって、最古のブラキオサウルス科とされる恐竜が発表された。
フランスの伝説の竜であるヴィーブル(Vouivre)にちなんでボイブリアと命名されるが、化石自体は1934年に発見されており、当初はフランスのボトリオスポンディルスとされていた。
存在が疑問視されるほど僅かな化石しかないボトリオスポンディルスと違い、ボイブリアの化石は割と豊富に発見されていたが、その後はパリ国立自然史博物館の保管箱の中で研究も展示もされる事なく、不遇の日々を過ごしていた。
巨大恐竜達のルーツ
・マニオン本人のツイートと論文
https://twitter.com/pdmannion/status/859371965295063040?s=19
https://peerj.com/articles/3217/
ボトリオスポンディルスとボイブリアの関係は1980年には否定されていたが、発見地のダンパリスにちなんだ「ダンパリス恐竜」と呼ばれ、まともな名前を与えられる事もなく、ボイブリア・ダンパリセンシス(Vouivria damparisensis)と正式に命名されたのは発見から実に83年も後の事だった。
長い間博物館で眠っていた化石が再研究され、それが新種の恐竜だった事も一つのドラマではあるが、ボイブリアの一番の価値は約1億6000万年前に生きていた、現時点でブラキオサウルス科として最古の恐竜である事実だ。
もっと詳しく書くと、系統分析の結果ブラキオサウルスとの関連が確認され、これまで謎だったブラキオサウルスの祖先がボイブリアである事が確定となる。
ボトリオスポンディルスは手掛かりが少なすぎた事もあって認められなかったが、ボイブリアの発見により長年不明だったブラキオサウルスの祖先が判明したのは、ジュラ紀後期を支配した巨大恐竜達のルーツが明らかになった事を意味しており、竜脚類の歴史を変える大きな出来事だった。
ボイブリアの持つ可能性
今後の化石の発見と研究の進展によってまた説が覆る可能性はあるが、全長15メートルのボイブリアが各地に渡りブラキオサウルス、ジラファティタンといった巨大恐竜から、島嶼化によってエウロパサウルスのような小型の竜脚類に進化したという可能性もある。
また、ボイブリアはブラキオサウルス科の恐竜が属するティタノサウルス形類としても現時点で最古の恐竜であり、研究次第ではブラキオサウルス科のみならず、ティタノサウルス形類の分岐など巨大恐竜グループの進化の歴史を明らかにする可能性を持っている。
現時点の知名度は高くないが、竜脚類が好きな筆者にとっては最も気になる恐竜であり、ブラキオサウルスのご先祖様として今後の研究に注目したい。
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