恐竜

変わり続ける竜脚類研究の歴史 「竜脚類は泳げた?」

変わり続ける竜脚類

恐竜の研究は常に進化と変化を続けており、残された化石から予想される姿も変わり続けている。

変わり続ける竜脚類研究の歴史

ヴェロキラプトル Velociraptor wiki(c)I, ArthurWeasley

近年になって羽毛が生えたヴェロキラプトルのように、昔の資料と現在の資料で大きく変わった姿を見るのも面白いが、ブラキオサウルスを初めとした竜脚類も研究が進むにつれて姿が変わり、様々な珍説が生まれて来た。

今回は、竜脚類の研究の歴史を辿る。

大きなトカゲ?

分類としては爬虫類とされている恐竜だが、ワニやトカゲとは大きく違うところがある。

それは、脚の向きだ。

変わり続ける竜脚類研究の歴史

ブラキオサウルス(B. altithorax)の生態復元想像図

ワニやトカゲの脚が横向きであるのに対して、恐竜の脚は哺乳類のように垂直に伸びている。(代表的な四足歩行動物である犬、猫、馬を想像すれば分かりやすい

要するに、恐竜は他の爬虫類と骨格(特に股関節)が大きく違うと言いたい訳だが、恐竜の発見当初は今の常識は存在せず、巨大な身体をトカゲのような姿勢(腕立てのようなイメージ)で支える当初の竜脚類の姿は、現代人から見ると違和感しかないものだった。

実際は骨の軽量化によってそこまで重くなかったと言われているが、どれだけ腕の力が強くても、トカゲのような姿勢で20トンという重量を支えるのはどう考えても現実的ではない。(負担が掛かりすぎる

研究が進み、爬虫類とは違う恐竜の股関節の構造や竜脚類の巨大な身体を支える工夫も明らかになったため今となってはご愛敬だが、ヒントすらなかった頃は今とは掛け離れた姿になる事もザラだった。

尻尾は引きずった?

変わり続ける竜脚類研究の歴史
昔の恐竜のイラストを見ると、竜脚類に限らず尻尾を引きずって何とも歩きづらそうにしている。(イラストに描かれた姿を純粋に信じていた子供の頃は気にしていなかったが、尻尾が地面に当たって痛くないのだろうか

ここでは便宜上「ゴジラスタイル」と表現するが、背中を反らせて歩く人間がいないように、あの姿勢も現実的ではない。

現在は首と尻尾でバランスを取り、身体を水平にした「吊り橋」スタイルが定説となっているが、研究が進んだ結果、ゴジラスタイルよりも吊り橋スタイルの方がバランスに優れている事も明らかになった。

足跡の化石はあるのに「尻尾を引きずって歩いた跡がない」という、これ以上にない証拠があるのに、ゴジラスタイルで描かれたのは今となっては疑問だが、恐竜が未知の生物だった頃は勿論、つい最近までの恐竜の姿は今の常識が総じて通用しない時代だった。

竜脚類の鼻は何処にある?

変わり続ける竜脚類研究の歴史

大昔に流行った竜脚類の珍説といえば、巨体を水中に隠して、頭頂部にある鼻を水面から出して呼吸していたという説である。

ブラキオサウルスを紹介した時 にも書いているが、この説には穴しかなく、水圧の存在を無視している。(※参考リンク https://kusanomido.com/study/fushigi/dinosaur/43975/#i-3

人間が海や川、プールで遊ぶ深さなら問題はないが、竜脚類が隠れるほどの深さだと強烈な水圧によって肺が潰れてしまう。

また、水中で生活している根拠の一つとされていた水面から鼻を出していたという説だが、これは頭頂部の大きな穴が鼻腔であるとされた事から生まれ、イラストも頭上に鼻孔が描かれたものが一般的だった。

人間の常識なら頭頂部に鼻腔があるなら鼻も頭にあると考えるが、ゾウを見て分かる通り、必ずしも鼻と頭骨内の鼻腔が近くにある訳ではなく、竜脚類も鼻孔は人間と同じく口の先にあったという説が一般的になっている。

ネタとして描かれた鼻の長い竜脚類の姿はさすがに想像上のものだと思う(事実なら自分が憧れた竜脚類の姿と掛け離れすぎているためファンをやめたくなる)が、恐竜の姿は変わり続けるので、自分を恐竜ファンにしてくれたブラキオサウルスの顔が変わる可能性は十分にある。

竜脚類は泳げた?

変わり続ける竜脚類研究の歴史

イメージ ※sciencealert.com R.T. Bakker/Farlow et al., Ichnos, 2019

竜脚類が水中で生活したという説は早い段階で否定されたが、それとは別に「水中を泳いだのではないか」という説がある。

その理由が、テキサスで発見された足跡化石で竜脚類と見られる恐竜の前足の足跡しかなかった(後ろ足の足跡がなかった)からだ。

その場所が水辺だったという証拠もなく、想像という名の考察をするしかないのだが、発見者のローランド・バードは「竜脚類は水中に入ると前足で底を蹴って泳いでいた」と考えた。

底に足を着ける時点で泳いでいるとは言えない気もするが、恐竜の行動を現代に伝える証拠として無視は出来なかった。

もっとも、水圧をどうするのかという事に対する具体的な案はなく、バードの説は次第と忘れられていった。

現在の説では、竜脚類の体重は主に前足に大きく掛かっており、後ろ足にはあまり体重が掛かっていなかったから前足の跡しか化石として残らなかったたと言われている。(泳いだと言えるかはやはり微妙だが、浅瀬の移動に前足だけを使っていた可能性は十分ある

現在では竜脚類は陸で生活していたというのが一般的だが、竜脚類が泳げた説は完全に否定された訳ではなく、2007年に同じテキサスで竜脚類の前足だけの足跡が発見された事もあり、竜脚類が泳いだか否かに関して今も議論が続いている。

そして、新たな発見がある度にその姿も新しくなる。

次はどのような発見が世界を驚かせてくれるだろうか、楽しみに待ちたい。

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