宇宙

月は岩石の雲の輪から生まれた【米研究者の新説】

地球に最も近い天体として、太古から人類にとって当たり前のように夜空を照らしてきた衛星「」。

人類が唯一到達した地球外天体だが、すでに人類の目標は火星に向けられている。月の成分を分析することは、太陽系の成り立ちを知る上では魅力的だが、人類の移住先としてはおすすめできない物件だからだ。

だが、純粋に好奇心の対象として見てみると、面白い発見が色々ある。それは、我々が月のことをほとんど知らないためである。

ジャイアント・インパクト説

2018年3月、アメリカ・カリフォルニア大学デービス校の研究チームが、月の起源について新しい理論を発表した。その理論によれば、現在の理論では説明がつかない月の特徴についても説明できるのだという。

一体どのようなものなのか興味がわくが、その前に現在提唱されている月の起源について調べてみよう。一番有力とされているのが、「ジャイアント・インパクト説」である。日本でも「巨大惑星衝突説」として有名だが、約45億年前、初期の地球にテイア(Theia)という火星ほどの大きさの天体が衝突し、その破片が月の元になったというものだ。地球の誕生が約46億年前なので、この出来事は地球がようやく惑星としての形を整えた時期と考えられている。

太陽と地球と月の重力が釣り合い、物体が留まるラグランジュ・ポイントで形成されたテイアは、地球に向かって移動して衝突した。その際にテイアだけが破壊されたというものだ。もっとも当時は月がないため、ラグランジュ・ポイントは座標の目印に過ぎない。

月の形成


【※ジャイアント・インパクト想像図】

テイアが衝突したことで、天体のマントルが飛散して宇宙空間に放出されて、月になった。

この説によると、月の質量が今のようになったことが説明できる。他にも、月を構成する物質の比重が、地球の地上を構成する花崗岩よりも、海洋地殻を構成する玄武岩のほうが大きいこと、月が形成される段階で高温だったため大気が極めて薄いことなどの説明がつくという。月には大気がないと思われがちだが、カリウムやナトリウムなどの大気がある。だが、あまりに希薄なため真空に近い。このことが分かったのは1980年代というからつい最近だ。

こうして、表面に近い部分は飛び散ったが、鉄でできたテイアのコアは地球に落ちてコアになった。代わりに月のコアは非常に小さくて軽い。それは、両天体のマントルなどの軽い物質に由来するからである。ちなみに衝突は垂直ではなく、斜めにえぐるような衝突だったため、より大量の物質が放出されたそうだ。

だが、これでは説明がつかないポイントがある。

見えない決定打

計算によると、この規模の衝突で生まれた天体(月)は、成分の5分の1は地球に由来し、5分の4はテイアに由来しないといけない。ところが月と地球では成分構成がほぼ同一だという。これでは、テイアに由来する成分がどこへ消えたのか説明できない。

そこで考えられたのが「複数衝突説」だった。

その名の通り1回の衝突ではなく、規模が小さい微惑星が繰り返し地球に衝突することで、地球の表面を形成する物質が少しずつ放出され、やがてそれらがぶつかりあって月が形成されたというものだ。この説なら、地球と月を構成する成分が同じことも説明できる。原始の地球には多数の隕石が落ちたことが分かっているので、微惑星が衝突したとしても不思議はない。

その他にも古典的な学説として、初期の地球が自転する際に発生した遠心力で、その一部が放出されて月になったという「親子説」や、月と地球が同じガスの集まりから誕生したという「兄弟説」、月が地球の重力に捉えられて現在の軌道に留まったとする「他人説」などがあるが、どれもジャイアント・インパクト説ほどの説得力はない。

とはいえ、ジャイアント・インパクト説でもすべてを説明できるわけではなかった。

そして、そこに発表されたのが新たな理論、「シネスティア説」である。

シネスティア説

シネスティア説

今回発表されたモデルでは、月の形成はジャイアント・インパクトだけが直接の要因ではないという。

地球にテイアが衝突した後、大量に撒き散らされた岩石などが高温のために気化、その雲が「シネスティア(synestia)」というリングを形成した。

そして、このシネスティアの中で月が形成されたのだと説明している。衝突後、地球は約10%ほどが蒸発し、シネスティアを生み出したが数百年ほどで冷え始めた。熱を放射するにつれて急速に収縮し、気化した岩石は液体となってその中に月の原型が生まれる。

もっとも、初期段階でのシネスティアは高温・高速で回転しており、その原型は摂氏220万℃〜330万℃の高熱と数十気圧の圧力によって形成され、残りのシネスティアもやがて集まって液体岩石の球となり、地球になったというのだ。

このモデルを用いれば、地球と差異のある月の組成パターンも説明できる」と、米カリフォルニア大学デービス校のサラ・スチュワート博士は語っている。もし、この学説が月の形成を完全に説明できるのなら、惑星を形成する他のモデルにも影響を与える大発見だ。

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