宇宙

木星の衛星「エウロパ」で生命の可能性 【ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が発見】

木星の衛星「エウロパ」で生命の可能性

画像: エウロパ(ガリレオ探査機撮影)

木星の衛星エウロパは、17世紀にガリレオ・ガリレイが発見した衛生の1つで、近年では活発に調査が行われており、生命体の発見が期待されている。

2023年9月、エウロパで「生命の存在を示す可能性がある物質が見つかった」と新たな報道があった。

本題に入る前に、必要な前知識を簡単に説明する。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とは?

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが開発した世界最大の赤外線宇宙望遠鏡である。

2021年12月25日に打ち上げられ、2022年7月に運用が開始された。

木星の衛星「エウロパ」で生命の可能性

画像: ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のすべての部品が展開された状態のCG画像 public domain

ウェッブ望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として開発された。

ハッブル望遠鏡は可視光や紫外線の観測に優れているが、赤外線の観測には限界があった。ウェッブ望遠鏡は、赤外線の観測に特化しており、ハッブル望遠鏡では観測できなかった宇宙の姿を明らかにすることが期待されているのだ。

ウェッブ望遠鏡の主要な観測目標

* 宇宙の始まり(ビッグバン)
* 銀河の形成と進化
* 系外惑星の観測
* 生命の起源

ウェッブ望遠鏡は既に多くの成果を上げており、宇宙最古の銀河の画像を撮影したり、系外惑星の大気から水の存在を検出している。

ウェッブ望遠鏡の特徴

* 主鏡の直径は6.5メートルで、ハッブル望遠鏡の直径の6.5倍。
* 赤外線の観測に特化しており、ハッブル望遠鏡では観測できなかった宇宙の姿を明らかにすることが期待されている。
* 巨大な遮光板を備えており、赤外線の観測を妨げる太陽光を遮断することができる。

ウェッブ望遠鏡は、今後も宇宙の謎を解き明かすために重要な役割を果たすことが期待されている。

木星の衛星「エウロパ」とは?

木星の衛星「エウロパ」で生命の可能性

画像: ガリレオが撮影したエウロパの画像。左は自然色に近く、右は色を強調してある。黄色い部分には塩類が存在する。 public domain

エウロパは木星の第2衛星で、ガリレオ衛星と呼ばれる木星の四大衛星の中では最も小さく、直径は地球の月の約4分の3である。発見されている木星の衛星の中では内側から6番目を公転している。

エウロパの主成分はケイ酸塩岩石で、水の氷からなる地殻を持ち、おそらくは鉄とニッケルからなる金属核を持つと考えられている。

エウロパは、地球外生命の存在が期待されている衛星で、その理由は以下のとおりだ。

* エウロパの地下には水の海(内部海)が存在するという仮説が提唱されていること。
* エウロパの表面には、水蒸気や二酸化炭素などの生命活動に必要な物質が存在すると考えられていること。

2024年にNASAのエウロパを調査する探査機「エウロパ・クリッパー」の打ち上げが計画されている。

探査機については後述する。

エウロパは、太陽系で最も地球に似た衛星のひとつであり、地球外生命の存在が期待されている最も有望な天体となっている。

タラ地域(地形)とは?

木星の衛星「エウロパ」で生命の可能性

画像: ガリレオ衛星によるエウロパの地表のようす(木星探査機「ガリレオ」撮影)by NASA

タラ地域はエウロパの南半球に位置し、その中心部付近に「タラ地形」という注目されている場所がある。

タラ地形とは、木星の衛星エウロパの表面にある※カオス地形のことだ。エウロパの表面は主に氷で覆われているが、いくつかの地域では氷が破壊されて、クレーターや隆起地形が形成されている。(※このような地形をカオス地形という)

この地形は、塩化ナトリウムなどの塩類によって形成されたと考えられている。

特徴は、なんといってもその黄色っぽい色だ。この色は、塩化ナトリウムなどの塩類によって生じていると考えられており、地下の海から水蒸気とともに噴き出したものと考えられている。

この地域は、エウロパの氷の下に存在する海と、その海から噴き出す物質の研究において重要な地域だと考えられている。

タラ地域の特徴

* 木星の衛星エウロパの表面にあるカオス地形。
* 直径約1,500 km。
* 黄色っぽい色。
* 塩化ナトリウムなどの塩類が豊富。
* 地下の海から水蒸気とともに噴き出したものと考えられる。
* エウロパの氷の下に存在する海と、その海から噴き出す物質の研究において重要な地域。

熱水活動とは?

画像: 熱水噴出孔の一種、ブラックスモーカー。 public domain

熱水活動とは「マグマや地熱によって熱せられた水が、地表や海底から噴き出す現象」で、地球上では火山や温泉、海底熱水噴出孔などで見られる。

熱水活動は地球外でも確認されており、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスなどでは、内部に液体の海が存在し、その海底から熱水が噴き出すと考えられている。

熱水活動は、地球や地球外生命の進化に重要な役割を果たしていると考えられており、地球では熱水活動によって、生命の原始物質であるアミノ酸や核酸が生成されたと考えられている。

熱水活動の特徴。

* マグマや地熱によって熱せられた水が、地表や海底から噴き出す現象。
* 地球上では、火山や温泉、「海底熱水噴出孔」などで見られる。
* 地球外では、エウロパやエンケラドゥスなどで見られる。
* 地球や地球外生命の進化に重要な役割を果たしていると考えられるもの。

エウロパの表面から二酸化炭素が発見される

2023年9月、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、木星の衛星エウロパの表面から、濃度が地球の100万分の1程度の二酸化炭素を検出したと発表した。

エウロパの南半球にあるタラ地形に、二酸化炭素が集中して分布していることが確認された。タラ地形は地下海洋とつながっていると考えられており、二酸化炭素は地下海洋から放出されたものと考えられている。

タラ地域および地形については、前述の説明をご覧いただきたい。

エウロパ表面の二酸化炭素は太陽光によって分解されやすく、長期間安定して存在できないため、研究者たちは「この二酸化炭素は、海底の熱水噴出孔から数百万年以内に放出されたもの」であると考えている。

このことから、二酸化炭素の発生源は地下海洋である可能性が高いとされ、地下海洋に生命が存在する可能性が高まった。

今後、探査機は二酸化炭素の濃度や分布状況を詳細に調査することで、地下海洋の存在や生命の可能性をより確かなものにすることができるだろう。

二酸化炭素は、どのように発見されたのか?

JWSTは、すでに紹介したように、赤外線で観測する望遠鏡だ。
赤外線は可視光線よりも波長が長いため、エウロパの氷の表面を透過して、地下海洋の成分を観測することができるのだ。

具体的にはJWSTの赤外線カメラ「NIRCam」を使用して、エウロパの表面から赤外線を観測した。この観測によって、エウロパの表面から二酸化炭素の特徴的な赤外線スペクトルが検出された。

画像 : 例~ 塩化水素の赤外吸収スペクトル

科学的な説明は省略するが、赤外線スペクトルを分析することで、「物質の分子構造や状態」を推定することができるとされている。

エウロパで検出された二酸化炭素の赤外線スペクトルは、地球の海底熱水噴出孔でも検出されるスペクトルだった。したがって、エウロパの二酸化炭素は、地下海洋から噴出した熱水によって運ばれたものであると考えられている。

なお、二酸化炭素はエウロパの氷の表面に存在する物質から生成される可能性もある。しかし、エウロパの地下海洋の海底で熱水活動が行われている可能性が高まっていることから、二酸化炭素は熱水噴出孔から出た可能性が高いとされている。

二酸化炭素発見の意義

地球では海底熱水噴出孔周辺に、多様な生命が存在していることが知られている。

つまり、エウロパの表面から二酸化炭素が発見されたことの意義は、「エウロパの地下海洋の存在を裏付ける重要な証拠」であり、「生命の存在の可能性を示す」ことであるといえよう。

今後のエウロパ探査計画

今後数年間で、エウロパ調査に関する2つのミッションが計画されている。

NASAの「エウロパ・クリッパー」

NASAの「クリッパー計画」は、2024年10月に「エウロパ・クリッパー」という探査機の打ち上げを計画しており、エウロパの表面から約200kmの高度で軌道を周回し、衛星の表面と内部を観測するなど、エウロパを徹底的に観測する。

このプロジェクトでは主に、生命に適した分子や条件を探すことに重点を置いて、衛星からの観測を行う予定のようだ。

探査機は、フロリダ州のケネディ宇宙センターからSpaceXのFalcon Heavyロケットで打ち上げられる。打ち上げ後、探査機は火星と地球の重力を利用したフライバイを行い、2030年4月に木星を周回する軌道へと入る予定だ。

その後、エウロパの表面を約50回フライバイして、地下海洋の探査を行う。

探査機には、カメラ、分光器、レーダー、磁力計といった、合計10台の科学観測機器が搭載されているという。

欧州宇宙機関(ESA)の「JUICE」

画像: 氷衛星のひとつであるガニメデと、JUICE探査機のイメージ (ESA / ATG Medialab)

一方、欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションでは、2023年4月に木星氷衛星探査機(JUICE)をすでに打ち上げ済で、2029年に木星に到着する予定だ。装置開発とサイエンスチームの両方に日本も大きく関わっているという。

探査機「JUICE」は、エウロパ、ガニメデ、カリストという3つの衛星を調査する予定で、エウロパを12回、ガニメデを27回、カリストを6回フライバイする計画をしている。

また、近接探査を行い内部海や氷の組成、地質活動の有無を調べる予定だという。

これらの探査機の活躍により、エウロパの地下海や生命の存在について新たな知見が得られることが期待されている。

さいごに

生命が存在する」という確証はまだないが、二酸化炭素の存在は、エウロパの地下海洋に生命が存在する可能性を高める重要な証拠となった。

これまでにエウロパでは数々の有益な発見がなされており、今回の二酸化炭素の発見(検出)により、過去の発見と考察による推測が、現実的な証拠として結びつきつつある。

今後、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によるさらなる観測や、特に、「探査機による直接探査」が行われることで、エウロパの生命の有無が明らかになることが期待されている。

参考 : James Webb telescope finds potential signature of life on Jupiter’s icy moon Europa | Live Science

 

lolonao

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フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
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