日本人元宇宙飛行士が発案した「木造の人工衛星」
NASAと日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、宇宙飛行をよりサステナブル(持続可能)なものにするために、2024年2月に世界初の「木造の人工衛星」を宇宙に打ち上げることを計画している。
「木造の人工衛星の打ち上げは実現可能だ」と発案、確信していた元宇宙飛行士の土井隆雄氏が2016年、京都大学で「宇宙総合学研究ユニット」特定教授に就任。
「宇宙における木材資源の実用性に関する基礎的研究」なるプロジェクトを立ち上げたことが発端だ。
さらに2020年、京都大学と住友林業による研究共同チーム「宇宙木材プロジェクト」も設立された。
2022年3月、ISS(国際宇宙ステーション)の日本実験棟「きぼう」の船外曝露プラットフォームで「木材の宇宙曝露実験」を開始。
2022年12月23日、10ヶ月に及ぶ実験を終え、若田光一宇宙飛行士が木材試験体の回収を行った。
2023年3月、回収された木材試験体を、NASAとJAXA(宇宙航空研究開発機構)を経て、京都大学と住友林業の研究共同チームが無事に受理。
マイクロスコープによる外観測定、質量測定などの検査により、木材の耐久性が確認された。
研究共同チームは、
「3つの木材標本をテストしたところ、宇宙曝露後の変形は見られなかった。
著しい温度変化や、強烈な宇宙線、危険な太陽粒子に10ヶ月間さらされた宇宙空間の極限環境にも関わらず、試験では亀裂、反り、剥離、表面損傷などの分解や変形がなかったことを確認した。」
と実験の成功を発表した。
宇宙開発に携わる専門家たちも「木製の人工衛星打ち上げの実現化」を確信することになった。
木造の人工衛星「リグノサット」はマグノリア(ホオノキ)製
打ち上げられることに決まったのは、モクレン属であるマグノリア(ホオノキ)材の人工衛星「リグノサット」。
「リグノサット」は、エスペラント語の「木(Ligno)」と、英語の「人工衛星(Satellite)」を組み合わせた造語として命名された。
研究共同チームは、マグノリア、サクラ、カバノキの 3 つの木材サンプルを ISS に送り、宇宙飛行士らが真空の宇宙空間にさらされたモジュール内に保管、割れたり壊れたりする可能性がもっとも低いマグノリアを人工衛星に使用することを決定した。
マグノリアは材質が均一で温度変化に強く、軽くて割れにくいため、日本刀の鞘にも使用されることで知られている。
マグノリアの木で作られる人工衛星「リグノサット」はマグカップサイズと非常にコンパクトで、2024年2月に地球の軌道に打ち上げられる予定だ。
成功すれば、世界初の木造人工衛星が誕生することになる。
「木造の人工衛星」の目的は宇宙環境汚染改善
木は、生物のいない真空の宇宙では燃えたり腐ったりすることはないが、地球の大気圏に再突入すると焼き尽くされて細かい灰に分解されるため、宇宙ゴミで汚染されつつある地球軌道上の宇宙環境を保護する目的として最適だと考えられている。
現在、地球の軌道上には、任務を終えた衛星や使用済みロケットステージの塊などの宇宙ゴミを含む、9,300トンを超える宇宙物体が浮遊しながら周回しているという。
それらは軽量のチタンやアルミニウムなど光沢のある金属で作られているため、その影響が地球の夜空にまで及び、明るさが10%以上増加、地上で光害を引き起こしているだけでなく、遠方の宇宙現象を検出することも困難になりつつあるという。
共同研究チームは、「リグノサット」ような木造の人工衛星は、宇宙ゴミとしての害は少ないはずだと確信している。
人類の宇宙への関心、民間人による宇宙旅行が増えつつある今、元日本人宇宙飛行士が発案した木造の人工衛星「リグノサット」は、宇宙における生分解可能な素材活用の第一歩となり、宇宙ゴミによる宇宙環境汚染を軽減させるパイオニアとなることが期待されている。
参考 : NASA and Japan to launch world’s 1st wooden satellite as soon as 2024. Why? | LIVE SCIENCE
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