2024年2月8日早朝、フロリダ州ケープカナベラルの空軍基地から、NASAのPACEミッションによる観測衛星がSpaceXのファルコン9ロケットに載せられて打ち上げられた。
PACE(ペース)とは、「プランクトン、エアロゾル、雲、海洋生態系」を表す頭字語であり、先進的な衛星観測を通じて地球の大気と海洋の理解を高めることを目的としたミッションである。
NASAはPACEミッションの観測衛星の打ち上げにおいて、SpaceXと提携している。
PACEの打ち上げはスムーズに行われ、軌道への展開も成功した。
長年の開発とトランプ政権時に4度に及ぶ中止の危機を乗り越え、ついに「PACE(Plankton, Aerosol, Cloud, ocean Ecosystem satellite)」が、大気と海洋観測を開始できる運びとなった。
PACE観測衛星は前述した通り、「地球のプランクトン、大気エアロゾル、気候、海洋」を詳細に観測することを目的とした衛星だ。
稼働すれば、PACEに搭載されている複数の観測機器を使って、地球の重要な観測を行うことが可能になる。
科学者たちは、これまでにないほど詳細な大気や海洋関連のデータが手に入り、海洋生態系の理解を深めたり、気候変動への影響を評価できるようになる。
特に、海洋表面のさまざまな色を観測できる「海洋色センサー」は、海に生息するプランクトンの量や海洋環境の変化を捉えることが期待されている。
SpaceXによる打ち上げ
SpaceXのロケット・ファルコン9は、2024年2月8日午前1時33分(東部標準時)に、フロリダ州ケープカナベラルの空軍基地40号発射施設から打ち上げられた。
これまでにも何度か打ち上げ試行されたが、悪天候などで妨げられ、これは4回目のチャレンジであった。
打ち上げからおよそ7分半後、ファルコン9の第一段ロケットは、ケープカナベラルにある空軍基地の着陸地点1に垂直に着陸した。
さらに5分後、ファルコン9の上段ロケットは、PACE衛星を地球から約677キロメートルの太陽同期軌道に投入した。
太陽同期軌道とは
・太陽同期軌道とは、地球を常に同じ面から観測できる軌道。
・太陽同期軌道は、高度約677キロメートルにある。
・国際宇宙ステーションの軌道は約400キロメートル。
この高度は、国際宇宙ステーションの軌道(約400キロメートル)よりも約70%高く、地球を常に同じ面から観測できる軌道である。
太陽同期軌道では、衛星は毎日同じ時刻に、同じ太陽光条件で地上を通過する。
このため、地球表面の変化を常に同じ条件で観測することができ、より効率的に監視や検出することができる。
これが、太陽同期軌道が気象観測や偵察衛星に適している理由だ。
補足だが、PACEはフロリダ州から極軌道への打ち上げとしては、1960年11月30日以来の米国政府初のミッションとなる。
1960年にフロリダから極軌道に打ち上げられたロケットはキューバ上空で暴走し、被害を出したため、その後米国の極軌道打ち上げは全てカリフォルニア州の基地から行われてきた。
PACEの打ち上げは、その60年近くに及ぶ慣習を破る出来事にもなった。
PACEの観測機器と科学的意義
PACEのオペレーターは、今後様々なサブシステムを起動し、衛星を完全に作動させる作業を行う。
PACEの全ての機器やシステムが正常に稼働するかどうかが確認された後、PACEは科学観測を開始できる。
観測は3つの機器で行われる。
まず、衛星には「海洋色センサー(OCI)」という装置が搭載されている。
この装置は、海の色を近赤外線から紫外線の範囲で詳細にマッピング(地図化)する。
海の色は、海水中の粒子(例えばプランクトンのクロロフィル)と光との相互作用によって決まるため、このセンサーは、海洋生態系の健康状態や状況について多くの情報を提供することが期待されている。
PACEが持つ前例のない分光範囲は、植物プランクトンの群集の組成を特定するための、全球的な観測を初めて可能にするという。
これにより、研究者たちの理解力は大幅に向上し、変化する海洋生態系をより深く理解することが期待できる。
さらに、衛星には「偏光計」という2つの装置も搭載されている。
これらの装置は、光が海洋、雲、大気エアロゾルを通過する際に、どのように偏光(光の振動方向)が影響を受けるかを測定する。
NASAは、様々な角度での紫外線から近赤外線の偏光状態を測定することで、大気や海洋に関する詳細な情報を得ることができる(例えば、粒子の大きさや成分などを調べることが可能。)と説明している。
したがって、PACEは地球と気候科学に多くの重要な貢献をすると、NASAの幹部は強調している。
PACEは、海洋と大気間の炭素交換についての新しい研究方法をはじめ、海洋と大気のより多くの情報を提供できるという。
PACEが提供する予定の海洋と大気に関する情報は、長期的な視点での気候の理解に役立つだけでなく、現在でも多くの人々に役立つという。
打ち上げまでの困難
PACEは発射台に辿り着くまでに、いくつもの困難にみまわれた。
例えば、トランプ政権は2018年、2019年、2020年、2021年の連邦予算案でミッションを中止しようとしたのだ。
しかし議会は毎回資金を割り当て、PACEミッションを危機から救った。
ミッションは遅延とコスト超過にも直面した。
2014年、NASAはミッションの総費用を8億500万ドル(1275億円)とし、2022年の打ち上げを目標とした。しかし、費用は9億4800万ドル(1422億円)に膨らんだ。
しかし、PACEを好意的に比較した地球科学部長は、開発と運用には時間と費用がかかるが、その「科学的な価値」はそれらのコストを上回ると述べている。
ウェッブ宇宙望遠鏡が宇宙について教えてくれるのと同様、「PACEは地球の海洋について我々に教えてくれる」と期待されている。
さいごに
ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡と同様、莫大な費用を投入して開発されてきたPACE観測衛星が、いよいよ稼働しようとしている。
ウエッブ宇宙望遠鏡がすでに素晴らしい知見を与えてくれているように、PACEは地球の気候や未知分野の理解と解決につながる情報を与えてくれるだろう。
まずは、初の観測結果などの報告を待ちたい。
参考 :
SpaceX to launch NASA’s PACE ocean-monitoring satellite this week | Space
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