宇宙

100年以上前に墜落した「世界最大の隕石」の謎

世界最大の隕石

画像 : イメージ

シンゲッティ隕石は、100年以上前に発見されたにもかかわらず、その存在が謎に包まれた巨大な隕石だ。

1916年、フランス領事館職員のガストン・リパート氏は、アフリカ大陸にあるモーリタニアのシンゲッティという街から遠く離れたサハラ砂漠で、幅100メートルもの巨大な鉄山を発見し、その山頂から4.5kgの石鉄隕石を持ち帰った。

しかし、その後多くの探査が行われたにもかかわらず、この巨大な鉄山と隕石の痕跡は見つからず、その存在は謎のままとなっている。

この謎に挑む新たな研究報告が、2024年2月21日に「失われた巨大シンゲッティ隕石に関する新たな証拠(New evidence on the lost giant Chinguetti meteorite)」というタイトルで提出された。

世界最大の隕石

画像: 米国国立自然史博物館にあるシンゲッティの破片。 credit CC-BY-SA-2.0

世界最大の隕石は1916年に消えた? なぜ見つからないのか?

そこで今回、新たな研究チームがその行方を追う試みを再開している。

もし、この鉄山が本当に存在するのであれば、それは間違いなく「地球上で最大の隕石」となるだろう。

英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンとオックスフォード大学の科学者たちは、磁気異常(巨大な鉄塊など)の地図を用いて、この鉄山を見つけようとしている。

物語の始まりに立ち返ると、最初にこの小さな隕石の破片を持ち帰ったのは、前述したフランス領事館員のガストン・リパート氏である。

彼は「地元の酋長に目隠しをされ、鉄山へと案内された」と語っている。

リパート氏によると、その酋長は隕石を神聖なものとして崇拝しており、リパート氏の求めに応じて、小さな破片を切り取らせてくれたそうだ。

その後1962年、この隕石の一部がパリの博物館へと送られた。

研究者たちは、この隕石が非常に珍しい石鉄質のものであり、地球最大の隕鉄の一部である可能性があると分析した。

この隕石は、北西アフリカのモーリタニアにある近傍の町シンゲッティにちなんで「シンゲッティ隕石」と名付けられたが、この隕石が見つかった鉄山の場所は今も特定できていない。

画像: モーリタニアの位置 public domain

新しい研究チームは、現代の技術を駆使して、この100年以上の謎に決着をつけようとしている。

彼らは最先端の磁気センサーを使い、地下に埋もれた鉄の塊を探知しようと考えている。

インペリアル・カレッジの研究者は、以下のようにコメントしている。

衛星データを使えば、この地域にある磁気異常を特定できるはずだ。そうすれば、大規模な鉄の塊がある場所を絞り込める。

さらに研究チームは、ドローンを使って空中からレーザー測量を行い、地形の細かい起伏を把握しようと考えているようだ。

一方で、100年以上も時が経過しているため、隕鉄が完全に砂に埋もれてしまっている恐れもあるが、発見できる可能性はゼロではないという。

2001年7月の研究発表では、シンゲッティ隕石の破片の化学分析から「元の塊の体積が1.6メートル以上あったとは考えられない」という結論が出されている。
この研究結果は、巨大な鉄山が本当に存在するのか疑問を投げかけるものだった。

しかし新しい研究チームは「この分析結果は隕鉄の一部分しか分析していないため、結論を出すには不十分」としている。

実際、隕鉄が非常に不均質な構造をしている可能性は充分にあり、その一部分の化学組成だけでは原石の大きさを推定するのが難しいはずだ。

そのため、まず実地調査を行い、磁気異常の兆候があれば、その場所から試料を採取して分析を行う計画となっている。

リパート氏は嘘をついていたのか?

研究チームは「リパート氏の目撃談が嘘であるとは考えにくい」とし、衝突クレーターが見つからない理由として、隕石が地面に非常に低い角度で衝突した可能性を挙げている。

実際、隕石が地面をかすめるように着地した例は過去にもある。
その場合、垂直に衝突するよりもクレーターが小さくなることが知られている。

さらに研究チームは、隕鉄が風化して地中に埋もれてしまった可能性も指摘している。
数十年の歳月を経れば、表面からその姿を完全に消してしまうかもしれない。

画像: シンゲッティの南、30m以上の高砂丘を示す地図。 研究チームは鉄の山が存在する可能性のある地域を特定した。credit arXiv CC BY 4.0

今回初めて研究チームは、デジタル標高モデル、レーダーデータ、地元のラクダ乗りからの聞き取り調査などから、リパート氏が連れて行かれた可能性のある地域を絞り込んだ。

そしてチームはモーリタニアの鉱業省に、これらの場所の「航空磁気探査データ」の提供を依頼した。

しかし、なぜかデータは未だに提供されないという。

さいごに

モーリタニアの航空磁気探査データの提供が得られれば、この巨大隕石の行方が分かるかもしれない。

モーリタニアがなぜデータを提供しないのか? その理由も謎となっている。

参考 :
The World’s Largest Meteorite Seemed to Vanish in 1916. Why Can’t We Find It?
New evidence on the lost giant Chinguetti meteorite

 

アバター画像

lolonao

投稿者の記事一覧

フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
antiX Linuxを愛用中。頻繁に起こる日常のトラブルに奮闘中。二女の父だがフィリピン人妻とは別居中。趣味はプチDIYとAIや暗号資産、マイクロコントローラを含むIT業界ワッチング。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 月は岩石の雲の輪から生まれた【米研究者の新説】
  2. 【アメリカ政府、初の宇宙ゴミ罰金】 衛星テレビ会社に15万ドルの…
  3. 「2024年も続くアメリカのハイテク企業の人員削減」 NASAの…
  4. 世界の次世代ロケットについて調べてみた
  5. 【土星の六角形の謎】研究者のシミュレーションが示した新たな答えと…
  6. 最初に宇宙に行ったのはガガーリンではなかった? 「消えた宇宙飛行…
  7. 人は宇宙服を着ずに、宇宙でどれくらい生きられるのか?
  8. 【宇宙のガソリンスタンド計画】ついに始動! 「死んだ衛星」に燃料…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

天安門事件とはどのような事件だったのか? ② 「穏健派、趙紫陽の更迭」

民主化運動の指導者この民主化運動の指導者は漢民族出身の大学生である、王、紫玲、ウイグル族出身のウ…

「メッシの後継者」がブライトン加入! プレミアリーグ第4節の展望【ELの組み合わせも決定】

「メッシの後継者」がブライトンへ!やはりサプライズが待っていました。スペインのビッグクラ…

三国志で「一騎打ち」は本当にあったのか? 【呂布vs郭汜、馬超vs閻行、孫策vs太史慈】

三国志には名場面が多いが、花形なのは「一騎打ち」であろう。特に、三国志演義においては…

源義経の「鵯越の逆落とし」の場所はどこだったのか?

一の谷の合戦寿永2年(1183年)「源頼朝の9番目の弟が上洛しようとしているらしい」「本名は分か…

小牧・長久手の戦いで討死した山田重則 ~その忠義を永く讃えん…【どうする家康】

戦国時代、海道一の弓取と恐れられ、ついには天下を獲るにいたった徳川家康(とくがわ いえやす)。その覇…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP