神話、伝説

『モンゴルに伝わる怪物伝説』UMA、異形の民族、原初の巨人の死体化生神話

モンゴルに伝わる怪物伝説

画像 : モンゴル国旗 public domain

モンゴルといえば、日本と肩を並べる相撲大国であり、朝青龍や白鵬など、歴代屈指の強豪力士を輩出してきた国として名高い。

また、かつて「モンゴル帝国」として世界を席巻し、その圧倒的な勢力で歴史上に名を刻んだ、最強国家の一つとされている。

そんな力強いモンゴルであるが、神話や幻想の世界においても多くの強力な怪物たちの伝承が残されている。

今回はモンゴルに伝わる、恐るべき怪物たちの伝承について紹介したい。

1. アダ

画像 : アダ 草の実堂作成

アダ(Ada)とは、モンゴル語で「悪魔・悪霊」などを意味する言葉である。
地域や部族によって、異なるパターンの言い伝えが残されている。

モンゴル系民族の一つ、ブリヤート人の伝承によれば、子供を産めなかった女性は死後、アダになると考えられていたという。

アダは隻眼の子供のような姿をしているが、人間の目には映らないとされる。
しかし常に強烈な悪臭を発しているため、その存在に気付くことは容易であるそうだ。
またアダは、犬・猫・カエルなど、様々な動物に化けることができるという。

アダには善と悪の二つのタイプがあるとされ、善良なアダは新生児の世話をし、家に不審者が入らないよう見張りをしてくれるという。

一方邪悪なアダは、新生児を喰らう危険な存在であるとされ、人々に恐れられた。

アダを退散させるには、火を焚く、金属音を鳴らす、杜松の葉の煙を嗅がせる、などの方法があるという。

2. モー・ショボー

画像 : モー・ショボー 草の実堂作成

モー・ショボー(Muu shuvuu)またはムー・シュウウは、ブリヤート人に伝わる魔物である。

その名は現地の言葉で「悪い鳥」を意味する。

愛を知らずに死んだ少女の霊魂が、モー・ショボーへと変ずるという。
あるいは娘の死後、父親がその手に火打ち石を持たせた場合も、魂がモー・ショボーになるとされる。

モー・ショボーは長髪の美しい少女の姿をしているが、その唇は異常に赤く、そして大きいという。
その美貌に、大抵の男は骨抜きになってしまうそうだ。
男が鼻の下を伸ばしている隙に、モー・ショボーは唇をクチバシのごとく尖らせ、男の頭蓋骨に穴を空けて殺す。

そして死体から脳味噌をチューチューと吸い取り、肝臓や腎臓といった内臓も、残さず食べ尽くすという。

3. パロッシテス

画像 : パロッシテス 草の実堂作成

パロッシテス(Parossites)はモンゴルに生息するとされた、異形の民族である。

イタリアの修道士、ヨハンネス・デ・プラノ・カルピニ(1182~1252年)の著書「旅行記」にて、その存在が言及されている。

パロッシテスは口も胃袋も非常に小さいため、固形物を食べることができないという。
その代わり、彼らは茹でた肉から立ち上る「湯気」を吸い込むことで、栄養を得ているとされる。
なお肉の出し殻は、その辺の犬に与えるそうである。食べ物を粗末にしない点は好感が持てる。

パロッシテスと類似する存在として、古代ローマの博物学者・ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(23~79年)の著書「博物誌」などに記される、アストミ(Astomi)という種族が挙げられる。

アストミは、インドのガンジス川付近に住むとされた、口が存在しない種族である。
彼らの食事は、鼻からハーブや果実の「香り」を吸い込むことで行われるという。

その嗅覚は非常に敏感であり、普段嗅がないような強い香りを吸うと、ショック死してしまうほどだそうだ。

4. オルゴイホルホイ

画像 : オルゴイホルホイ 草の実堂作成

オルゴイホルホイ(Olgoi-khorkhoi)あるいはモンゴリアン・デス・ワームは、ゴビ砂漠に生息するとされる未確認動物、いわゆるUMAである。

アメリカの冒険家、ロイ・チャップマン・アンドリュース(1884~1960年)の著書「恐竜探検記」にて、その存在が言及されている。

同書によると、オルゴイホルホイは長さ約60cmのソーセージのような姿をしているという。
有毒の生物であり、少し触っただけでも人間は即死してしまうそうだ。

アンドリュースはこの生物の存在に懐疑的であったが、現地住民の証言は一貫しており、暗赤色の目も鼻も口もない、「牛の腸」のような怪物だと、口を揃えて語ったという。

また、チェコの探検家、イワン・マッカール(1942~2013年)は、過去に3度ほどモンゴルへと赴き、オルゴイホルホイに関する調査を行った。

聞き込みの結果、やはりこの生物に対する住民の証言は一致しており、「血詰めのソーセージ」のような姿の怪物だと答えたそうだ。

5. マンザシリ

画像 : マンザシリ 草の実堂作成

マンザシリ(Manzaširi)は、モンゴル系民族の一つ、カルムイク人の伝承に登場する、原初の巨人である。

かつてこの世界には、巨大なマンザシリがただ一人、存在するだけであったそうだ。

やがてマンザシリが死ぬと、その血管は木へと変化した。

そして内臓は火に、肉は土に、骨は鉄に、血は水に、髪は草に、両目は太陽と月に、歯は7つの惑星に、背骨はその他の星へとそれぞれ変化し、我々の住まうこの宇宙が誕生したのだという。

このように、巨大な死体から世界が創造されるという伝承は「死体化生神話」と呼ばれ、類似する神話が世界各地で語り継がれている。

参考 : 『神魔精妖名辞典』『幻想動物の事典』他
文 / 草の実堂編集部

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【光る君へ】変なアダ名をつけないで!紫式部と険悪だった左衛門の内…
  2. 【殺しても死なない】不死身の分隊長・舩坂弘 ~ゴールデンカムイの…
  3. 闇に消えた旧日本軍の隠し財産【隠退蔵物資】~国家予算の4倍の物資…
  4. 『文豪トルストイの意外な最期』 妻に過去の女性遍歴を暴露、夫婦仲…
  5. 【三国志】無双状態の張遼に挑んだ呉の名将・賀斉とは? 『演義』に…
  6. 「秀吉のあだ名はサルではなかった?」 織田信長の光るネーミングセ…
  7. 『三成に過ぎたるもの』行方不明になった猛将・島左近 ~関ヶ原で東…
  8. パリの社交界を魅了した「フランスの高級娼婦たち」 〜貴族を虜にし…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

間一髪!あやうく羽柴秀吉への養子≒人質に出されかけた松平定勝 【どうする家康】

小牧・長久手の戦いにおける和睦条件として、羽柴秀吉の元へ養子に出された徳川家康の次男・於義伊。…

【古代中国】愛人と陰謀に溺れた皇后 ~300年の乱世を生んだ最凶の悪女とは

皇后の暴走前夜時は3世紀後半、中国は長きにわたる戦乱の時代を終えようとしていた。魏・蜀・…

武田信繁とは【武士の心得となる家訓を残した信玄の実弟】

武田の副大将と呼ばれた 武田信繁名門武田家は戦国時代、後に「甲斐の虎」と呼ばれた武田信玄ともう1…

JAXAの月探査機「SLIM」がマイナス170度の夜で休眠中 「再起動なるか?」

JAXAの月探査機「SLIM」は、1/31の運用を最後に、マイナス170℃の極寒の夜…

【教皇vs皇帝】 皇帝が教皇に屈辱的な謝罪をした「カノッサの屈辱」

前回の記事「【カール大帝と西ヨーロッパの成立】 権威と権力の違いとは?」では、フランク王国による西ヨ…

アーカイブ

PAGE TOP