近代中国

『中国人民大移動』延べ90億人が移動する「春運」とは

ヒトメタニューモウイルス

2024年末、中国でヒトメタニューモウイルス(HMPV)による呼吸器感染症が増加しているとの報道があった。

このウイルスは2001年にオランダの研究グループによって発見され、乳幼児や高齢者が特に感染しやすいとされる。
感染者には肺炎、急性呼吸器症状、発熱などの症状が現れるが、これらはインフルエンザと類似しているため、診断が難しい場合がある。

報道によれば、感染者の重症化リスクが高いのは、基礎疾患を持つ人や免疫力の低い乳幼児、高齢者であるという。

また、中国感染症予防センターは「現時点では大きな懸念はない」との見解を示しているが、春節(春運)に向けて感染拡大を警戒するよう呼びかけている。

中国人民大移動「春運」とは

画像 : 春運時期の広州南駅の待合ホール 2020年 CC BY 2.5

まもなく中国では旧暦の春節を迎える。

2025年の春運(春節期間の大規模な人口移動)では、ヒトメタニューモウイルス(HMPV)、新型コロナウイルス、インフルエンザなどの感染症が懸念される中、例年通り膨大な人々が移動すると予想されている。

春運とは、中国における春節前後の約40日間に発生する人口大移動を指す。

この期間中、中国全土で人々が里帰りや観光のために移動する。

2024年の春運は1月26日から3月5日まで行われ、延べ90億人が移動したと推定されている。この数字は2023年の約47億人を大きく上回り、過去最高を記録した。

※中国の総人口は約14億人であり、この数字は1人が複数回移動する累計人数を指している。

CCTV(中国中央テレビ)の報告によれば、90億人のうち約80%が自家用車で移動したとされている。
また、鉄道利用者は4.8億人、航空利用者は8,000万人に達した。

この大規模な移動により、高速道路では渋滞が発生し、主要駅や空港は連日混雑のピークを迎えた。

春節期間中の賑わいと交通事情

筆者は中国に住んでいた頃、春節を現地で過ごしたことがある。

春節には長期の休みがあるのだが、とにかく人が多い。
日頃から、街には大勢の人がいて圧倒されるのだが、春節の時期はその比ではないのだ。

スーパーや市場でも、大量の食材や贈り物を買う人たちで賑わう。
中国では、春節の挨拶にギフトセットを買って持っていく習慣があるので、どこへ行ってもギフトセットが売られている。

市場には、普段は売られていないものも多く並ぶ。例えば、花火や玄関に貼る赤い紙などだ。
また、手書きで縁起の良い言葉を書いてくれる人々も現れ、賑やかな雰囲気に心が躍る。

画像 : 2014年春節時期、K680次列車の硬座車輌の様子 wiki c xuejc1988

一方で、春運期間中の交通事情は極めて厳しい。

鉄道のチケットは早期に完売し、キャンセル待ちの長い列が形成されることも珍しくない。列車内では座席が確保できない乗客が簡易な椅子を持ち込む場合もあり、荷物が多く、狭い空間での移動を余儀なくされる。

春運は中国にとって単なる人口移動ではなく、家族と過ごす時間を大切にする文化的な側面を持つ。

しかし、その大規模さから交通インフラへの負担は大きく、安全確保や円滑な運営が課題となっている。

2025年の春節

2025年の春節が近づいている。

春運は1月14日に正式に始まり、例年通り約40日間続く予定だ。
今年の人口移動は、昨年とほぼ同じく延べ90億人に達すると予測されている。

近年、中国では物価の高騰が続いており、春運の移動費用にも影響を及ぼしている。一部の航空券は通常の最大7倍にまで値上がるケースが報告されており、この影響で国内移動より海外旅行の航空券が安価に感じられる場合もあるという。

2024年は困難の多い年だったが、新たに始まる2025年が明るい一年となるよう願いたい。

参考 : 『中国国家発展改革委員会(NDRC)』他
文 / 草の実堂編集部

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【誰でもわかる古事記】 天岩戸隠れをわかりやすく解説 「暴れるス…
  2. 『ブラジルの知られざる妖怪たち』ラテンの国の神話と伝説 ~ケンタ…
  3. 「リアル三國無双」張遼!正史に残る最強武将の生涯とは
  4. 【童謡・赤い靴】の女の子は実在していた? 9歳で亡くなった「き…
  5. 浅井長政は、なぜ織田信長を裏切ったのか? 信長を窮地に陥れた「盟…
  6. 戦国武将きってのグルメで美食家・伊達政宗の「正月料理」は超豪華だ…
  7. 【天才詩人同士の苛烈な愛憎劇】ランボーとヴェルレーヌの禁断の関係…
  8. 【旗本百人腹切り場所】 豊臣秀吉への怨念がうずまく「岸岳末孫」の…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

600年眠る明朝の皇女の墓…発掘したら中に「生きた人間」がいた!?

明朝皇帝・朱元璋の娘の墓1998年、南京市の開発工事の最中に、一基の明代の古墓が発見された。…

【群馬おすすめ古墳】上毛野はにわの里公園に行ってきた「かみつけの里博物館」

私の地元群馬県高崎市にある古墳スポットに行ってきました。わりと近所に上毛野はにわの里公園とい…

【現代に必要なリーダー】 上杉鷹山の成功に学ぶ、財政破綻からの改革術 「民福主義」

財政破綻をきたした米沢藩を卓越した手腕で改革を行い、再建を果たした上杉鷹山(うえすぎようざん)。…

松平不昧 ~茶人大名の光と影 「名物茶器を集めまくり」

松平不昧とは江戸時代後期、出雲松江藩の藩主でありながら茶人として名高い大名、松平不昧(ま…

「邪馬台国は大分にあった?」 魏志倭人伝から紐解く邪馬台国の謎

弥生時代の日本で最大勢力を誇ったとされる邪馬台国については、現在も決定的な資料がなく、多くの謎に包ま…

アーカイブ

PAGE TOP