幕末明治

「明治維新を陰で支えた死の商人」 トーマス・グラバー

討幕へ貢献した トーマス・グラバー

トーマス・グラバー

画像 : グラバーと岩崎弥之助

明治維新の功労者と言えば、西郷隆盛大久保利通木戸孝允ら維新の三傑や、坂本龍馬高杉晋作などの人物の名が大多数の方から挙げられるのではないかと思います。

そんな中で、外国人でありながら明治維新に大きな影響を与えた人物がありました。

今も長崎の観光名所としてもよく知られている「グラバー邸」に名を残しているトーマス・グラバー です。

スコットランド生まれのイギリス人グラバーは、長崎の開港から間もない時期に来日し、商社を起こして日本からの生糸・お茶などの貿易に携わりました。

しかし幕末の日本の動乱期に際して武器の需要が高まったこともあり、徳川幕府を始め佐幕派の藩から、敵対する薩摩・長州へも武器の調達を行いました。

殊に坂本龍馬を仲介した取引で長州にもたらされた小銃は、第二次長州征伐において幕府軍を敗北させる一因にもなりました。

五代友厚との邂逅

グラバーは1838年6月にスコットランドに生まれ、学校を卒業後の1859年に上海の「ジャーディン・マセソン商会」に入社しました。

同年の9月(安政6年8月)に長崎に居を移したグラバーは、1861年にその地で「グラバー商会」を設立して貿易業を開始しました。

トーマス・グラバー

画像 : 五代友厚

「グラバー商会」は薩摩藩を大口の取引先として武器・弾薬の商いで急成長しました。

当時の薩摩藩側の窓口を務めた人物が五代友厚(ごだいともあつ)で、以後グラバーは五代のイギリスへの留学にも便宜を図りました。

またグラバーは、薩英戦争時に五代がイギリスの捕虜となった後に脱走した際、その逃亡の手助けもしています。

因みにグラバーは五代を介して日本人女性・談川ツルと結婚し、長女ハナと倉場富三郎の二子をもうけました。

トーマス・グラバー

画像 : グラバー・ツル

維新後も日本に在住

グラバーは生業とした武器輸出以外にも1865年4月(元治2年3月)に日、本へ蒸気機関車を持ち込んでその走行を実現しました。

また翌1866年(慶応2年)にはお茶の製造工場も建設しています。

更に1868年(明治元年)には佐賀藩と合同で高島炭鉱を開鉱するなど、日本の近代化にも大きな貢献をしました。

但し巨額の取引があった武器輸出に関しては、取引先の藩からの債権回収が困難となったことからグラバー商会も倒産する結果となってしまいました。

その後もグラバーは先の高島炭鉱経営を続け日本に在留しました。

三菱が高島炭鉱を買収した後もその責任者として同鉱の経営に携わると、この縁で1885年(明治18年)以降には三菱の相談役にも就任し、現在のキリンホールディングスとなった麒麟麦酒の設立にも尽力しました。

薩摩との引先を堅守

グラバーは薩摩藩を最大の取引先としていたため、自らの母国であるイギリスと薩摩が薩英戦争で対立し困難な立場に置かれた際にも、決して薩摩藩との取引を中止することはありませんでした。

死の商人としてイギリス本国には迷惑な行為と映ったかもし得れませんが、討幕勢力の薩摩、ひいては長州をグラバーのもたらした武器が強力に後押ししたことで、明治維新が推進されたと言えます。

薩長同盟を結ばせた立役者・坂本龍馬や中岡慎太郎の仲介も、グラバーの武器ありきという側面が大きかったことから、陰の明治維新の功労者と言える人物でした。

勲二等旭日重光章の授与

画像 : グラバー園

グラバーは晩年には東京に移り住み、1911年(明治44年)に73歳で世を去りました。

これに先立つ1908年(明治41年)には外国人として異例な勲二等旭日重光章も政府から授与されています。

グラバーの授与はの炭鉱の開発や、長崎における造船業の発展など日本の近代産業に寄与したことが評価されてのことからでした。

現在では住居が一般公開され、長崎の名所の一つとなっています。

グラバー園公式サイト

参考文献 : 明治維新の大功労者トーマス・グラバー―フリーメーソンとしての活躍

 

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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