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「女性は髪を切ってはならない!」明治時代に東京府が出した「女子断髪禁止令」とは

日本で最も早い時期にトレインド・ナース(正式な訓練を受けた看護婦)となった実在の女性、大関和と鈴木雅をモチーフにしたNHK連続テレビ小説『風、薫る』。

その背景にあるのは、文明開化が始まった明治時代です。

作中には地方の農村でも東京でも「看護婦は金欲しさに病人の世話をする賎業」といった偏見が随所に描かれます。
さらに職業への偏見だけでなく「女性が学問をする」「女性が仕事をして稼ぐ」ことへの嫌悪感や差別心を持つ人々も登場します。

女性が自由な生き方をするのが難しかった時代。驚くことに、東京府は「女性はみだりに髪を切ってはいけない」という『女子断髪禁止令』まで出していました。

まるで口うるさい姑のような禁止令ですが、いったいどのようなものだったのでしょうか。

※現在では「看護師」という名称ですが、この記事では当時の表現に合わせて「看護婦」としています。

画像:日本髪ではない日本最初期の看護婦。前列右より二人目が大関和(出典:『植村正久と其の時代 第5巻』)1888年 public domain

髷と刀を手放してもいいという『散髪脱刀令』

明治元年(1868)以降、明治10年代頃にかけて盛んになった「文明開化」。諸外国から入ってきた最先端の技術や流行、風俗などが、人々の暮らしの中へ広まっていきました。

そして、明治4年(1871)9月23日、太政官(だじょうかん※)によって「散髪・制服・略服・脱刀ともに勝手たるべきこと」とする『散髪脱刀令』が公布されました。

※太政官:公布の政体書に基づく官制改革によって成立した政府機構で、立法・行政・司法の機能を備えていた。

これは「髷(まげ)を結わず散髪してもよい、華族・士族も礼服の時以外は帯刀しなくてもよい」という勝手令でした。つまり、髪型や帯刀をめぐる従来の慣習を緩めるものだったのです。

徐々に取り入れる人は増え、明治6年(1873)に明治天皇が散髪したことも大きな後押しとなりました。
やがて『散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする』と謳われるようになり、散切り頭は庶民の間にも広まっていきます。

こうして男性の断髪や洋装は、文明開化を象徴する姿となっていったのでした。

画像:西洋スタイルで断髪姿の明治天皇(豊原周延)1880 public domain

『文明開化』が急速に進む一方で、女性は……

男性の散切り頭が文明開化の象徴として広まる一方で、女性の断髪にはまったく別の目が向けられました。

「散髪脱刀令は男性の髷を念頭に置いたもので、女性が真似するものではない」という見方が広がったのです。

すごい差別ですが、女性の断髪が増えることへ反発する人は多かったようです。
「髪は女性の命」「烏の濡れ羽色」などの言葉があるように、平安時代以来「女性の長い黒髪=美しい」という価値観は長く浸透していました。

新しい時代の始まりとは言っても、髪を短くした女性に抵抗を覚える人は多かったのでしょう。

しかし、そうした価値観の中で生きる女性たちにとっても、日本髪は決して楽なものではありませんでした。
実際、日本髪は着物には似合うものの、結い上げるまでに時間と手間がかかります。また髷を整えるためには整髪用の油を使うため、手入れも簡単ではありませんでした。

今のようにシャンプーや温水シャワーもない時代、固められた日本髪を洗うのは非常に大変で、女性の洗髪は平均して月1回ほどだったともいわれています。

画像:「婦人和学十体 洗髪」喜多川歌麿 public domain

江戸時代後期の庶民の暮らしを記録した『守貞謾稿(もりさだまんこう)』には、女性の洗髪について次のような記述があります。

「江戸の婦女は毎月一、二度必ず髪を洗ひて、垢を去り臭気を除く、夏月には特に屢々(しばしば)沐して之を除く。蓋近年匂油を用ひることを好まず。又更に髪に香をたき染ること久しく廃て之を聞かざるなり……大凡(おおよそ)髪を洗はざる婦女は唐櫛を以って精く梳り垢を去り、しかる後匂油を用ひて臭気を防ぐ。」

意訳 :
江戸の女性は月に1、2度は髪を洗って垢や臭気を取り除き、夏にはさらに頻繁に洗っていた。近年は匂油を好まなくなり、髪に香を焚きしめることも廃れている。髪を洗わない女性は唐櫛で丁寧に髪を梳いて垢を取り、その後に匂油を使って臭気を防いでいた。

長い髪を櫛でとかし、頭皮の垢を取り、香り油で臭気を防ぎ、さらに洗って乾かす・・・想像するだけでも大変です。

男性の断髪姿を見て「日本髪を捨て、バッサリ髪を切りたい」と願う女性が増えるのは無理もありません。

否定派が多いなか、女性の断髪を奨励した『開化新聞』

画像:開化新聞(明治四年第一号)国立国会図書館デジタルコレクション

そんな空気のなかで、女性の断髪に肯定的だったのが、金沢で発行されていた『開化新聞』でした。

同紙は断髪令が出された翌年、金沢では「断髪する婦女子が多い」と記し、さらに「櫛、笄(こうがい)の虚飾、油元結などの無駄を去る」として、断髪は装飾品や油、髪結いの手間を省けるために経済的であると推奨したのです。

『風、薫る』のヒロイン直美のように、バッサリと切り揃えた断髪姿は、当時の女性たちにとって軽やかで新鮮に映ったことでしょう。

そうした女性が増えることに危機感を抱いたのか、東京府は明治5年4月5日(1872年5月11日)「女子断髪禁止令」(東京府達32号)を発令したのです。

内容は、女性がみだりに断髪することを戒める取締的なもので、まさに時代の矛盾が表れた理不尽な布告でした。

「婦人束髪会」が日本髪の代わりに『束髪』を推奨

明治18年(1885)、医師の渡邉鼎(かなえ)と経済記者の石川暎作が、「婦人束髪会(ふじんそくはつかい)」を発足させました。

従来の日本髪を「不衛生、不経済、不便」と見なし、婦人束髪会はそれらを解消する髪型として「束髪」を提唱したのです。
束髪は三つ編みなどを取り入れたアップスタイルで、着物にも洋服にも合う新しい髪型として広められていきます。

画像:「束髪」のバリエーション。婦人束髪会(豊原国周)国立国会図書館デジタルコレクション

東京女子師範学校の教員や女子生徒も束髪を採用し、女学校を中心に広まるなかで、さまざまな種類や流行の髪型も登場するようになったそうです。

『風、薫る』では、看護養成所で学ぶ女生徒たちが、スコットランドから来た教師バーンズの一言で、日本髪から当時まだ珍しかった洋髪へと変わります。
バーンズのモデルは、ナイチンゲール式看護を学んだアグネス・ヴェッチとされています。

その理由は「衛生」でした。
ナイチンゲールは病室の換気や清潔、患者の身の回りの衛生管理を重視しました。まめに洗髪できない日本髪のまま看護にあたることは、近代看護の考え方から見ても好ましくなかったのでしょう。

ここで髪型は単なるおしゃれではなくなります。看護を学ぶ女性たちにとって、髪をどう整えるかは自分自身の衛生と仕事への姿勢にも関わる問題だったのです。

女性が髪型への自由を望んだ「ヘアカットの日」

現在、4月5日は「ヘアカットの日」とされています。

明治5年4月5日、東京府が「女子断髪禁止令」を出したことにちなみ、髪型の自由を考える日として記念されるようになりました。

髪を伸ばすのも切るのも、本来は本人の自由です。

150年以上が過ぎた現在でも、服装や髪型をめぐる社則や校則がたびたび物議を醸すことを思えば、この問題は決して過去だけのものではないのかもしれません。

参考:
黒髪の文化史(大原梨恵子著)
黒髪と清潔 :明治中期~大正にかけての婦人衛生雑誌から読み解く黒髪の変遷(大阪公立大学)
文 / 桃配伝子 校正 / 草の実堂編集部

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アパレルのデザイナー・デザイン事務所を経てフリーランスとして独立。旅行・歴史・神社仏閣・民間伝承&風俗・ファッション・料理・アウトドアなどの記事を書いているライターです。
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