べらぼう~蔦重栄華之夢噺

【大河べらぼう】モデルは瀬川?蔦屋重三郎が出版した『伊達模様見立蓬莱』のストーリーを紹介!

NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」皆さんも観ていますか?

第14回放送「蔦重瀬川夫婦道中」で蔦屋重三郎(横浜流星)と一緒になれたものの、足手まといになるまいと、自ら身を引いてしまった五代目瀬川(役名は瀬以。小芝風花)。

二人が、こんな会話をしていたのをご記憶でしょうか。

瀬川「検校(鳥山検校)は亀の化身ってどうだい? 助けた亀が恩返しに来るんだよ。で、瀬川は身請けされて竜宮城に行くのさ」

蔦重「浦島太郎じゃねえか」

瀬川「で、そりゃあもう楽しく遊んで、マブのところに帰るのさ」

蔦重「……」

瀬川「よその人は検校を悪役に書けるけど、わっちにはできないよ。わっちはそりゃもう大事にされたからさ。巡る因果は恨みじゃなくて、恩がいいよ。恩が恩を生んでく、そんなめでたい話がいい」

※NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第14回放送「蔦重瀬川夫婦道中」より

恩が恩を生んでいく……そんなめでたい物語として『伊達模様見立蓬莱』は書かれました。

果たしてどんなストーリーなのか、今回は劇中で語られなかった部分を紹介してまいりましょう。

※以下、一部筆者による脚色や推測等を含みます。

一、娘を吉原遊郭へ売った男

画像 : 娘を吉原遊郭に売ってしまった自責の念から、商売替えした万右衛門。『伊達模様見立蓬莱』より public domain

今は昔し、万右衛門(ばんゑもん)という男がおりました。

この男は江戸の深川万年橋でウナギやスッポンを売って暮らしを立てていたのですが、どうにも生活が苦しくてなりません。

いよいよ追い詰められた万右衛門、このまま親子で心中するよりはと、一人娘を吉原遊郭へ売ってしまったのでした。

これも殺生を繰り返した(食用としてウナギやスッポンを殺した)報いと思ってか、万右衛門は商売替えを決断します。

万右衛門は亀を商ったのですが、これは食べるためではなく愛玩するため、あるいは放つための亀です。

万年橋の近くには富岡八幡宮があり、各地の八幡宮や八幡神社では、毎年8月になると生物を放って功徳を積む放生会が執り行われていました。

その放生会で放つための亀をわざわざ買う習慣があったので、自身も客も功徳を積めるように商売替えをしたのでしょう。

気休めにしかならないでしょうが、この功徳によって、吉原遊郭へ売ってしまった娘が少しでも幸せになれますように……そんなことを願っていたのでした。

ニ、娘は梅ヶ枝花魁の禿に

画像 : 娘(右)は梅ヶ枝花魁の下で禿に。『伊達模様見立蓬莱』より public domain

それからしばらく月日は流れ、万右衛門の元へ便りが届きます。

何でも娘は吉原遊郭の松葉屋へ売られ、梅ヶ枝(うめがえ)花魁の下で禿(かむろ。遊女見習い)として頑張っているとか。

辛いこともあるけれど、梅ヶ枝姐さんは優しくしてくれるし、みんなと元気にやっています……と云々。

吉原遊郭は苦界と聞いていたから、ずっと泣き暮らしていたかと思いきや……地獄に仏とはまさにこのこと。

娘をよくしてくれているなら、松葉屋の旦那や梅ヶ枝花魁に一言お礼を申し上げようと吉原遊郭を訪ねた万右衛門。すると娘は元気にやっており、親心を喜んだ梅ヶ枝花魁は万右衛門に三両を包みました。

せっかくのご厚意を無にしては申し訳ない、とありがたく三両をもらった万右衛門。これを元手に商いを大きくしようと思ったのですが……。

三、三両の慈悲が千両の身請けに

画像 : 人間に化けた大亀が、胸に「梅可え(梅ヶ枝)」と刻んで求愛する場面。『伊達模様見立蓬莱』より public domain

万右衛門は、房総半島の山奥に伝説の大亀が棲んでいるという噂を聞きつけました。

この大亀を買って見世物にするか、あるいは金持ちに転売すれば、大儲けは間違いなし。万右衛門はさっそく房総半島の山奥まで出向き、三両をはたいて大亀を買い取ります。

しかし万右衛門は思い直して、せっかく大金を出して買った大亀を、海へ逃がしてやることにしました。

大亀は万右衛門の慈悲に恩義を感じ、何とかこの恩義を返したいと考えた結果、梅ヶ枝花魁を身請けすることにします。

自分を買った三両は、もともと梅ヶ枝花魁が出したお金。であれば三両の報いとして、彼女自身のためになることをするのが万右衛門の喜びや功徳にもつながるだろう。そう考えたのでしょうか。

さっそく大亀は人間に化けて千両を用意し、梅ヶ枝花魁を竜宮城へ迎え入れたのです。

四、竜宮城から間夫のところへ

画像 : みんな揃って大団円。『伊達模様見立蓬莱』より public domain

身請けされてからというもの、梅ヶ枝は大亀と一緒に楽しく遊んで暮らしました。

しかしそんなある日、梅ヶ枝は沖で釣りをしている男の姿を見つけます。彼の名は千州(せんしゅう)、かつて梅ヶ枝の間夫(まぶ)すなわち恋仲だった男です。

大亀に身請けしてもらい、今も大切にしてもらっている恩義を忘れたことはありません。しかし自分の本心に嘘をつくのは、大亀に対する不実となってしまいます。

梅ヶ枝は思い切って、それこそお手打ちも覚悟の上で大亀に自分の本心を打ち明けました。

大亀がショックを受けたのは言うまでもないでしょうが、薄々感づいていたのかも知れません。大亀は愛する梅ヶ枝の幸せを第一に思い、彼女を地上へ帰してあげます。

そして梅ヶ枝は松葉屋へ戻り、晴れて千州と夫婦になったのでした。

めでたしめでたし。

終わりに

画像 : 物語に幕を引く作者(蔦屋重三郎?)の後ろ姿。『伊達模様見立蓬莱』より public domain

……とまぁ、こんな具合のストーリーです。

何となく、梅ヶ枝花魁は五代目瀬川に似ていますね。
大亀のモデルが鳥山検校であるかは微妙なところですが、鳥山検校の失脚によって五代目瀬川を手放したエピソードに着想を得ていそうな気もしなくはありません。

この『伊達模様見立蓬莱』は作者不明ですが、もしかしたら劇中のとおり蔦重が瀬川との関係を描いたのでは……そんなif(もしも)を期待させてしまいます。

※実際に五代目瀬川と蔦屋重三郎が劇中のような恋仲であったという事実を裏づける史料はなく、大河ドラマの創作でしょう。

二人の夢を描き上げたことで、瀬以への未練に一区切りをつけられた(であろう)蔦重。新章も幕を開けて、ますます大きく成長していくはずです。

※参考文献:
『見立蓬莱』国立国会図書館デジタルコレクション
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

角田晶生(つのだ あきお)

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