「どうする家康」や「大奥」などの時代劇ドラマ、「THE LEGEND & BUTTERFLY」や「関ケ原」などの時代劇映画など、時代劇作品を挙げるときりがない。
このような時代劇はどうやって撮影されているのだろうか?
カメラの前で、着物と鬘を付けた役者が演じるだけでできるほど、時代劇は浅くない。
視聴者がより深く物語の世界に入り込むために、様々な工夫がされているのである。
今回は、そんな時代劇の裏側について掘り下げていきたい。
時代劇制作の流れ
まずは番組制作の流れについて、かなり簡潔に説明する。
時代劇はまず「企画」から始まる。テレビ局や制作会社で話し合い、ストーリー・出演者・監督・脚本も決めていく。
企画が固まったら次は「撮影準備」である。出演者やロケの交渉、スタジオで撮影する場合はセットも準備しなければならない。
出演者は手渡された脚本やスタッフとの打ち合わせを元に、演じる役どころを掴んでいく。こうして幾度かのリハーサルを重ね「本番」を迎える。
そして出来上がったシーンは「編集」へと回され、放送へとなる。
時代劇制作においてなくてはならないのは、プロデューサーの存在である。
仕事内容はテレビ局所属か制作会社所属かによって大きく変わる。偉い人に掛け合って予算をかき集め、放送枠の管理を管理するのはテレビ局所属のプロデューサーの仕事でる。
撮影現場に赴き、スタッフや出演者と共に作品を仕上げるのが、制作会社所属プロデューサーの仕事となる。
テレビ局と制作会社の違いは、発注と受注にある。テレビ局は発注側で、制作会社は受注側となる。
テレビ局から「こんな時代劇が作りたい」と発注を受け、制作会社は発注内容に応じて時代劇を作り上げる。
時代劇が撮影されている場所は?
時代劇は主に専用スタジオで撮影されるが、時にはロケに赴く場合もある。
時代劇撮影のロケを支えているのは、各自治体が主体となっている「フィルムコミッション」である。
フィルムコミッションとは、地域の活性化を目的として、映像作品のロケーション撮影が円滑に行われるための支援を行う公的団体である。
フィルムコミッションの仕事は、出演者やスタッフが利用するホテルの手配・撮影交渉・エキストラの手配等と幅広い。エキストラは一般公募となるため、チャンスがあれば時代劇出演も叶うだろう。興味があればチャレンジしてみてはいかがだろうか?
※地域ごとに多くのフィルムコミッションがあるが、今回は一例として「ジャパン・フィルムコミッション」を紹介
https://www.japanfc.org
そして時代劇の定番撮影場所といえば、「東映京都撮影所」が最も有名であろう。
「遠山の金さん」「子連れ狼」「銭形平次」「赤穂浪士」など、東映京都撮影所で撮影された時代劇作品を挙げるときりがない。
なお撮影所の見学はNGであるが、撮影所の近くにある「東映太秦映画村」なら見学可能である。映画村も時代劇ロケの定番である。
「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」や、2021年朝ドラ「カムカムエヴリバディ」は、映画村で撮影されている。
ハリウッド映画にも使用されている「LEDウォール」とは?
2023年の大河ドラマ「どうする家康」は、LEDウォールを用いて撮影されている。国内ではまだ実例は少ないが、今後増えていく可能性は極めて高い。
LEDウォールとは、巨大なLEDパネル(巨大スクリーン)を使った合成方法である。
これまでメジャーだったCG合成方法の「グリーンバック」とは違い、スタジオ内に巨大なLEDパネルを設置して本物の背景を映し出す。そして出演者はパネルの手前で演技をするのである。
例えば「江戸の町を歩く侍のシーン」をLEDウォールで撮影するとしよう。
LEDパネルには江戸の町を映し、パネルの手前には侍役の出演者を歩かせる。撮影の様子だけを見てみると「巨大スクリーンの前に侍姿の俳優が歩いている」という、なんとも奇妙な光景となるだろう。しかし仕上がった映像を見ると、本当に江戸の町を歩く侍の姿が登場する。
LEDウォールの利点は、どんなシーンにも対応できることだろう。先ほど「江戸の町を歩く侍」を例に取り上げたが、戦国時代の合戦シーンや幕末の争乱シーンもLEDウォールを使えば朝飯前である。
映像を切り替えるだけで済むため、わざわざセットを組み立てる必要もなくハイクオリティーな映像が撮れるのである。
高いスキルが求められる時代劇俳優
ドラマに出演できる俳優は、人気と視聴率が稼げる人物が対象となる。しかし現代劇であればまだしも、時代劇となると「人気」だけでどうにかなるものではない。
まずは役のイメージと合っているかが大切である。時代劇の場合は実在する歴史上の人物を演じることもあるため、イメージの合致は重要なポイントとなるだろう。大河ドラマの場合は長期間の撮影に入るため、スケジュールの管理も徹底しなければならない。
当然だが、役を演じる俳優本人の意向も大きく関係する。テレビ局や制作会社がどんなに頭を下げても、俳優の意向に沿わない役柄なら出演は叶わないだろう。とはいえ比較的自由に役が選べるのは大物中の大物のみである。中堅や若手俳優であれば、意向に沿わない役柄でも笑顔で引き受けなければ仕事には繋がらない。なんとも厳しい世界である。
時代劇に出演する俳優には高いスキルも求められる。例えばチャンバラシーンを撮影する場合、単に鞘から刀を抜いて振り回せば良いというものではない。撮影に使われているのは模造刀ではあるが、使い方を間違えれば事故につながる。刀の扱いは大変難しく初心者なら一振りするのがやっとであろう。だからこそ華麗なチャンバラを披露する出演者の姿に、視聴者はときめくのかもしれない。
時代劇に出演するとなると馬術も必要スキルとなるだろう。ダブル(俳優の代わりに演技やスタントをする人)を起用する手もなくはないが、アップのシーンとなると厳しくなる。馬を走らせる技術は言うまでもなく、馬と止めて微動だにしないようにするのも難しい技術である。
時代劇は、俳優の持つスキルが垣間見れる貴重な作品ともいえるだろう。
時代劇の神髄はエンターテイメント!
時代劇のスタッフや出演者が目指しているのは、エンターテイメントである。
そもそも時代劇は日本史の授業で使われる教材でもなければ、再現VTRでもない。制作者はエンタメを追求するため、あえて現代の解釈をつけることもある。
結果的に時代に合わないシーンも出て来るが、大して大きな問題ではない。
GPSを飛ばして、敵方の様子を衛星から観察する戦国時代劇があっても良い。スマホを器用に操る侍が主人公の時代劇も、見てみたいものである。
参考 :
東映太秦映画村
https://www.toei-eigamura.com/
大河ドラマ・どうする家康 最新撮影装置を公開 NHK名古屋
東映公式サイト「日本最大のLEDスタジオを新設し東京撮影所にバーチャルプロダクション部を発足」
https://www.toei.co.jp/release/public/1230221_1140.html
辰巳出版「時代劇の作り方 プロデューサー・能村庸一の場合」能村庸一・春日太一著
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