大正&昭和

『暑すぎて美女が発狂!』100年前の熱中症エピソードを紹介!

令和(2019年~)に入ってからというもの、寒暖差が極端になっているような気がしてなりません。

まだ6月だと言うのに、日本各地で30度を超える猛暑が続き、令和ちゃん(元号の擬人化キャラ)がまた温度調整をミスってしまったようです。

よく「暑すぎて頭がおかしくなる」などと言いますが、実際に昔も、暑さが原因で正気を失ってしまった人たちがいたのです。

そこで今回は今からおよそ100年前、大正時代の末期から昭和初期にかけての熱中症エピソードを紹介したいと思います。

エピソード① 炎天下を徘徊する妙齢の美女

画像 : 保護された上林ひふみさん(イメージ)

暑さに発狂す 夢中で歩き回る娘を巡査が保護

一日午後二時頃あの猛烈な暑さの中を妙齢な美人がふらふらと市外高田町四〇八番地を歩いてゐた、巡回中の高田署巡査が認めて本署へ同行いろいろ調べたが狂人らしく陳述一向要領を得ない、やむなく保護中であつたが、二日夜に至り同女は神田某カフエーの女給山形県西田川郡大山町勇次郎妹上林ひふみ(二一)といひ、暑さのため発作的狂人となつた事判明した

※「東京朝日新聞」大正15年(1926年)8月3日付

大正15年(1926年)8月1日の午後2時ごろ、現代の東京都豊島区に当たる高田町(たかだまち)408番地で、妙齢の美女がふらふらとさまよい歩いていました。

彼女は高田署の巡査に連行され、事情聴取が行われます。しかし熱中症で意識が朦朧としており、受け答えに要領を得ません。

仕方なく同署で保護していたところ、8月2日の夜になって彼女の身元が判明しました。

彼女の名前は上林ひふみ(当時21歳)。現代の山形県鶴岡市に当たる西田川郡大山町(おおやままち)出身で、上林勇次郎の妹だそうです。

神田のとあるカフェで女給(ウェイトレス)として働いていたのですが、あまりの暑さで発狂してしまったことが明らかになりました。

……プライバシーもへったくれもない時代のこと、年齢から出身地から、職業まで晒しものにされてしまうのですね。本人はもちろん、故郷にいるであろう兄の勇次郎もからかわれた(あるいは非難された?)のでしょうか。

ちなみに神田とは当時の東京府東京市の神田区。
カフェの位置が特定されていないから仮に神田駅と考え、高田町408番地を仮に豊島区高田一丁目とした場合、カフェから発見された現場までは歩いて1時間以上も離れています。

暑さで前後不覚になりながら、炎天下を1時間以上もさまよい歩いていた彼女が無事に保護されたのは、幸運だったと言えるでしょう。

それから彼女がどのような暮らしを送ったのか、熱中症の後遺症などはなかったのか、詳しいことは分かっていません。

ちなみに気象庁のデータによると、当日の東京は最高気温36.2℃。かなりの酷暑に参ってしまったのも無理はないでしょう。

エピソード② 出刃包丁で男が自殺

イメージ

暑さから発狂 暴れて自殺

【横浜電話】横浜市濱見町潮田町一五六九無職荒井康一郎(四三)は連日の酷暑のため急に発狂し二十二日午前十一時頃自宅内で出刃はう丁を振り回し暴れ狂うた後咽喉部に突き立て自殺した

※「東京朝日新聞」昭和2年(1927年)7月23日付

昭和2年(1927年)7月22日の午前11時ごろ、現代の横浜市鶴見区に当たる濱見町潮田町(はまみちょううしおだまち)1569番地に住む無職荒井康一郎(当時43歳)が、連日の酷暑に突如発狂してしまいました。

そして出刃包丁を振り回して暴れ狂った挙句、その刃を喉に突き刺して自殺したそうです。

……当日における横浜の最高気温は32.5℃。令和の感覚だとそこまででもない?ように思ってしまいます(すっかり麻痺してしまいました)が、気象庁のデータを見ると、一週間以上にわたって30℃超えが続いていました。

かねて精神的に不安定だったところへ、連日の猛暑と来れば、発狂してしまうのも無理はないかも知れません。

当人が気の毒でならないことはもちろんですが、もし同居人がいたらさぞ怖かったでしょうね。

エピソード③ 硫酸を飲んで老婆が自殺

イメージ

暑さに発狂 老婆の自殺

十四日午後七時頃四谷区谷町一ノ三〇陰東あか(六六)は酷暑のため発作的に精神異常を来し知人の四谷区忍町一〇〇味戸川方を訪問し同家の玄関にあつた工業用りう酸を飲んで自殺を遂げた、四谷署で検視の上死体は家人に引渡した

※「朝日新聞」昭和4年(1929年)7月15日付

昭和4年(1929年)7月14日の午後7時ごろ、現代の東京都新宿区にあたる東京府東京市四谷区谷町(たちまち)1-30に住む陰東あか(かげひがし?新聞にルビなし。当時66歳)は、余りの暑さで精神異常を起こしてしまいます。

そして同区忍町(おしまち)100番地に住む知人の味戸川(みとがわ)宅を訪問。その玄関先に工業用硫酸があったので、それを飲んで自殺してしまいました。

遺体は四谷警察署で検死を受けた上で遺族に引き渡されたそうです。

……まず思ったのが「味戸川さん、とばっちり過ぎません?」でした。

さらに味戸川さん宅の玄関に工業用硫酸がおいてあるのも衝撃的です。工場でも営んでいたんでしょうか。陰東さんはそれを知っていて訪問したのか、あるいは偶然あったからそれを飲んだのか……。

そして66歳で老婆という扱いに驚きました。現代なら若者とは言わずとも、まだまだ若々しい方も多い印象ですよね。

なお、気象庁のデータを見ると、当日の東京は最高気温32.5℃。こちらも発狂するほどではない……と思ってしまうのは、現代の私たちが麻痺してしまっているのでしょうか。

終わりに

今回は100年前の熱中症エピソードを紹介してきました。

かつて(※個人的感覚)は夏がそこまで暑くなかった印象ですが、意外と30℃を超える日もあったようですね。

しかし最初のエピソードはともかく、2~3番目のエピソードについては、突発的な自殺の原因が暑さだけではなかったように感じられます。

昔から「暑くて頭がおかしくなる」という感覚があり、諸要因の一つとして自殺に結びつけられたのでしょう。

とは言え、あまりの暑さで正常な判断ができなくなってしまう感覚も理解できます。

今年も熱中症に気をつけながら、元気に夏を乗り越えていきたいものですね。

参考 : 『気象庁 過去の気象データ』他
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

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