西洋史

「19世紀の基礎 」ナチズムに影響を及ぼした反ユダヤ主義の聖典

反ユダヤ主義の著書 19世紀の基礎

「19世紀の基礎 」ナチズムに影響を及ぼした反ユダヤ主義の聖典

※H・S・チェンバレン(1895年)Houston Stewart Chamberlain

ナチス・ドイツの思想・政策に大きな影響を及ぼした「19世紀の基礎」という著作があります。

この著作は当時のヨーロッパにおける通俗的な人種論、反ユダヤ思想に基づいて書かれたものでした。

この「19世紀の基礎」を著した人物はヒューストン・スチュアート・チェンバレンという生粋のイギリス人でしたが、後にドイツに移住・帰化した人物でした。

チェンバレンの「19世紀の基礎」は1900年代初頭のドイツで広く受け入れられ、後のナチス・ドイツによるユダヤ人迫害に繋がる思想として、アドルフ・ヒトラーも熱心な愛読者であったと伝えられています。

生粋のイギリス人

チェンバレンの「19世紀の基礎」が出版されたのは1899年でした。チェンバレンは1855年にイギリス海軍少将の子として生を受けた生粋のイギリス人でしたが、1882年にドイツに移住すると音楽家・ワーグナーを礼賛する伝記を著し一躍著名な人物となりました。

その後、人種に纏わる歴史感を披露した「19世紀の基礎」を世に出し、この種の著作としてはベストセラーといえる25万部・30版を重ねるものとなりました。

但し、主に注目を集めたのはドイツにおいてであり、時のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世からは勲章すらも授与されました。しかしチェンバレンの祖国イギリスにおいてはほとんど耳目を集めませんでした。

自動書記で記述

奇怪なことにチェンバレン自身が、この「19世紀の基礎」は自動書記で書かれたものと告白していました。当時のチェンバレンは神経性の病に罹患しており、その発作の最中に無意識のうちに書かれたものだと述べていました。

その真意の程は定かではありませんが「19世紀の基礎」の中では、「人類の文明のすべてはアーリア人種が想像したもの」であり、「ゲルマン民族がアーリア人種によって世界を統べるべき」というテーマで書かれていました。

そして「人も犬・馬と同様に血筋で判断されるべき」という血統優先の考え方と、反ユダヤ主義とを結びつけたものとなっていました。

ワーグナーとの関係

「19世紀の基礎 」ナチズムに影響を及ぼした反ユダヤ主義の聖典

※リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)

チェンバレンは、ワーグナーの伝記で一躍著名な文筆家となっていましたが、それだけではありませんでした。ワーグナー自身が1850年に「音楽におけるユダヤ主義」と言う著作を発表した熱心な反ユダヤ主義者であり、アーリア人の優越性を唱えてた人物でした。

こうした背景から、ワーグナーの妻であったコジマとチェンバレンとは親交を深め、コジマの娘エヴァとチェンバレンとは結婚し、ワーグナー家の一員となったのでした。

チェンバレンはこの結婚でワーグナーを義理の父親とする事になり、一層その反ユダヤ・アーリア人崇拝の思想を受け継ぐ存在してクローズアップさらたのでした。

ローゼンベルクへの影響

※アルフレート・ローゼンベルク(Alfred Rosenberg)

チェンバレンの「19世紀の基礎」は、ナチス・ドイツの理論的指導者の一人として悪名高い政治家のアルフレート・ローゼンベルクにも大きな影響を与えました。

ローゼンベルの著書で、ナチス・ドイツのバイブルともなった「20世紀の神話」ではチェンバレンをゲルマン民族の位置づけを明確にした始まりの人物として好意的に紹介していました。

第三帝国の預言者

イギリス人でありながらチェンバレンがドイツで広く受け入れられた背景には、その内容は言うまでなくドイツ語そのものに堪能だったことから、著作がドイツ語で執筆されていた点も大きいと考えられます。チェンバレンはドイツで大きな評価をもって迎えられたことから、第一次世界大戦時には自らの祖国イギリスを批判する文章を発表し、1916年にはドイツへと帰化しました。

1927年に死去したチェンバレンはナチス・ドイツが実際に政権を掌握する場面は見ていませんが、ヒトラーは、チェンバレンに対し「第三帝国の預言者」という賛辞を与えました。

関連記事:
カール・ハウスホーファー【ヒトラーに影響を与えた地政学者】
ヘンリー・フォード【ナチズムに大きな影響を与えた自動車王】
ホロコーストに繋がった偽書・シオン賢者の議定書

  • Xをフォロー
好きなカテゴリーの記事の新着をメールでお届けします。下のボタンからフォローください。

swm459

投稿者の記事一覧

学生時代まではモデルガン蒐集に勤しんでいた、元ガンマニアです。
社会人になって「信長の野望」に嵌まり、すっかり戦国時代好きに。
野球はヤクルトを応援し、判官贔屓?を自称しています。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. ベルリンの壁崩壊の原因は、ある男の「勘違い」だった
  2. 【ナチス】に立ち向かったデンマークの少年たち 「チャーチルクラブ…
  3. 第二次大戦の2つのフランス【ヴィシーフランスと自由フランス】
  4. ルネサンスはなぜイタリアで起こったのか?
  5. 白人奴隷とアラブ奴隷貿易 ~奴隷は黒人たちだけでなかった 【恐怖…
  6. 共和政ローマが「地中海統一」を成し遂げた意外な理由とは
  7. 【ロシア初の女帝】エカチェリーナ1世のシンデレラストーリー「農民…
  8. ドン・ジョヴァンニについて調べてみた【騎士団長殺し】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

ルイボスティーの効能について調べてみた【疲れがとれる不思議なお茶】

紅茶を飲むとき、あなたは何を大切にしますか。温かさ。フレーバー。茶葉のグレード。…

送った荷物は無事に届くか?職務放棄に乱闘騒ぎ…平安京の困った人々に、頭を抱える藤原実資

送った品物が確実に届く。現代日本に生きる私たちにしてみれば当たり前すぎる話ですが、昔は必ずしもそうで…

【その生き様が表れる】戦場で壮絶に散った戦国武将たちの辞世の句

「死に様は生き様」とはよく言ったものだ。人生の最期には、その人物がこれまでどのように…

「新型コロナから5年」中国のワクチン外交を振り返る

新型コロナウイルスの始まりから5年が経つが、コロナ発祥国として欧米諸国の対中認識が厳しくなる中、中国…

【日露戦争】全文読んだことある?東郷平八郎「聯合艦隊解散之辞」に学ぶ“平和と覚悟”の本質

時は明治38年(1905年)9月5日。大日本帝国は1年8ヶ月にわたるロシア帝国との死闘(日露戦争)に…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP