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フィリピンで普及するPiso WiFiとは「フィリピンのインターネット接続環境」(前編)

はじめに

現代において、インターネット接続は私たちの生活にとって欠かせないものとなっている。

コロナ禍(COVID-19パンデミック)以降、多くの人々がオンラインで学習や仕事をする必要があり、フィリピンでもインターネットへの接続環境は非常に重要になっている。

フィリピンで普及するPiso WiFiとは

イメージ画像 : フィリピン マニラ

フィリピンは順調に経済発展を継続しているものの、インターネット接続においては不十分な地域の1つとして知らている。

また多くの人々はプロバイダー企業が提供する高価なインターネット接続プランに契約することができないため、スマホは誰でも持ってはいるが、WiFiなどによるインターネットへの接続は誰でもいつでもできる状態にはなかった。

そんな状況の中、フィリピンでは数年前に「Piso WiFi」という、簡単な操作かつ手頃な価格でインターネットに接続できるサービスが登場した。

フィリピンというお国柄にマッチした、この革新的なアイディアと技術、ビジネスモデルは、フィリピンの庶民の間で、またたく間に広まっていったのである。

おかげで今現在、フィリピンでインターネットに接続すること自体は、明らかに容易になり、人々はインターネットを楽しむことができている。

本連載では、全2回に分けて、「Piso WiFi」について紹介していく。

前編である今回は、Piso WiFiという新たなインターネット接続サービスが、なぜフィリピンで登場することになったのか、その背景について説明する。
後編では、Piso WiFiがどんなものか?について具体的に説明する予定だ。

Piso WiFiが登場した背景

フィリピンで普及するPiso WiFiとは

画像 : Piso WiFi ※著者撮影

フィリピンは日本の友好国であり、様々な形でフィリピンに関わっている人は少なくないので、フィリピンについてある程度の知識を持っている方も多いとは思うが、Piso WiFiが登場した理由を理解するためにも、少しおさらいをしておこう。

フィリピン人の所得水準

次の参考資料は2023年4月にフィリピン政府が発表したものだが、見ての通り中低層以下の収入は驚くほど少ない。

参考資料:フィリピン人の月収(通貨の単位はペソ。日本円への換算は約2.5倍)

・富裕層 210,000 ~
・高所得層 126,000 ~
・上中流層 73,000 ~
・中流層 42,000 ~
・中低層 21,000 ~
・低所得層 11,000 ~
・貧困層 11,000未満

フィリピンにおいて、貧困層が全人口に占める割合は、政府の定義によって異なるが、おおよそ25%程度とされている。
またフィリピン政府は、貧困線を月収10,481ペソ(約26,202円)と定めており、この基準によって貧困層を評価しているそうだ。

ただし、地域によっては貧困率が高く、特に農村地帯や都心からの遠隔地などでは、貧困層の割合が高い傾向があるようだ。

また、貧困層の1カ月の生活費は3,000ペソ程度だといわれている。

フィリピンにおけるスマートフォンとインターネットの普及率

フィリピンで最も使用されているデジタル機器はスマートフォンで、所有率は約80%以上にも及ぶといわれている。ただし、この統計結果は1人が複数台のスマートフォンを所有する場合も含まれているようなので、実際はもう少し低いと思われる。

フィリピンの人口約1億1,000万人のうち、67%程度の約7,400万人がインターネットを利用しているといわれている。ただし、地方部ではまだまだ普及していない地域もあるそうだ。

ほとんどの人がプリペイドタイプのSIMカードを使用しており、必要なときに必要な分の料金ををチャージするのがフィリピン流である。

後払いのポストペイドタイプを使用しているのは、高所得者のみだとされている。

そういえば、今年になって初めて、プリペイドタイプSIMの利用を継続するには、個人証明が義務付けられた。

フィリピンのインターネット接続環境

前に少し触れたが、フィリピン経済は順調に成長中ではあるものの、インターネット環境においては「アジアワースト1」といわれている。
フィリピン政府は、インターネット接続の改善に取り組んでいるらしいが、それほど進んでいるとは思えない。

筆者は以前、PLDTというフィリピンでは最も有名なインターネットプロバイダー企業の、光ファイバーによるインターネット接続サービスを利用していた。
調子が良いときは、確かに50Mbps以上という速度でインターネットが利用できていたが、所詮共有回線なので、利用者が多い時間帯には数Mbps以下になることも多く、しかも数時間〜1日以上全くつながらないこともあった。

つながらないというのは本当に困る。まだ遅くてもつながるほうがマシだ。

余談ではあるが、サポートに文句を言っても慣れたもので、ほとんど無視である。
そんなサービスのクセに料金は高い。私は毎月約2500ペソ払っていた。
唯一良かったのは、データ量が無制限だったことか。おかげで家族全員がYoutubeなどを好きなだけ視聴できた。

利用料金が高いとお伝えしたが、貧困層はもちろん、中流階層の人々ですら、自宅でインターネットに接続できる環境が無いことが多いといわれている。

とにかくフィリピンでは、家庭用のインターネット接続や電気代が所得に対して高価である。

フィリピンでインターネットを利用する場合、おもに次の方法がある。

国や行政が提供している公衆・公共施設・病院・学校での無料WiFi接続。※場所は非常に限られている。

家庭や企業での利用 ※PLDT、ケーブルTVなどのプロバイダーと契約が必要。料金によってADSLまたは光ファイバーでの接続を選択できる。

モバイルでの利用 ※Globe、SMART(その他数種類あるが、だいたいこの2社のキャリアに集約される)の企業のSIMカードを使い、使用料金をチャージしてからモバイルデータ接続を行う。

Piso WiFi ※本記事で紹介しているのがこれ。使用したい時間、またはデータ量に応じて「フィリピン硬貨」で支払い、WiFi接続する。

Piso WiFiの登場

これまでに説明してきたように、携帯電話のキャリアや、インターネットプロバイダと契約して、ほとんどどこでもインターネットが利用できるのが普通の日本とは違い、貧困層の人口割合が大きいフィリピンでは、インターネットへの接続が誰でもどこでもできる状況にはなかったのである。

そんなフィリピンでは、近年「Piso WiFi」というインターネット接続サービスが急速に広まっている。登場時期は定かではない。

この革新的なアイディアと技術、ビジネスモデルが、フィリピンのインターネット接続をよりアクセスしやすく、手頃な価格にすることで、貧困層を含む多くの人々がインターネットを利用することができるようになったのである。

前編のまとめ

前編の本記事では、フィリピンの経済状況と、インターネット接続の不平等さについて説明し、Piso WiFiが救世主として登場することになったと思われる状況について紹介した。

後編では、いよいよこの「Piso WiFi」について詳細に説明していく。

 

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フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
antiX Linuxを愛用中。頻繁に起こる日常のトラブルに奮闘中。二女の父だがフィリピン人妻とは別居中。趣味はプチDIYとAIや暗号資産、マイクロコントローラを含むIT業界ワッチング。

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