ミリタリー

ドーリットル空襲【士気高揚を狙った日本への初の空襲作戦】

日本本土への初空襲

ドーリットル空襲

※空母から発艦するドーリットル隊所属のB-25

ドーリットル空襲は、太平洋戦争においてアメリカが実施した日本本土に対する初の爆撃作戦の事です。

この空襲は、サイパン陥落後に爆撃機B-29を投入して行われた戦略・絨毯爆撃とは異なり、日本軍の潜水艦によるアメリカ本土攻撃の報復と日本軍に苦戦を強いられていた当時のアメリカが戦意高揚を目的に行った恣意行為と言うべきものでした。

この作戦は開戦後半年足らずの1942(昭和17)年4月18日に実施され、その名称ドーリットルとは空襲の指揮を執ったジミー・ドーリットル中佐に因んで名付けられたものでした。

ジミー・ドーリットル

早い段階で検討されていた空襲

日本海軍がアメリカの西海岸において実施したような、潜水艦を用いた日本本土への攻撃は、アメリカ海軍では日本の哨戒網が厳しく実現は難しいとされていました。
また航空機が搭載できる大型の潜水艦も就役しておらず、海軍艦艇による東京への攻撃は出来ない状況でした。
しかし、開戦から劣勢に置かれていたアメリカでは大統領・ルーズベルトの指示のもと早い時点で日本本土に対する空襲の検討が行われました。

これに応えたのが作戦参謀を務めていたフランシス・S・ロー海軍大佐で、航空母艦ホーネットから長距離の行動が可能な陸軍の爆撃機を発進させて、日本本土への爆撃を行うというアイデアでした。

運用可能な計画の策定

空母ホーネットに詰め込まれたB-25B改造機

このアイデアを戦意高揚のプロパガンタとして実行するために、実現可能な爆撃機としてB-25が選定されました。

通常の運用においては航空母艦に搭載されている爆撃機は小型なため航続距離も短く、また積載可能な爆弾の量も少ないものでした。これらを使用して日本本土を空襲するためには、航空母艦がかなり日本に接近するしかありませんでした。

しかし開戦当初、日本軍は大平洋の西側を勢力下に収めていたため、航空母艦が近づくことは危険性が高い事でした。

そこで先の爆撃機B-25を空母から発艦させるという計画が考えられたました。

但し、発艦は出来ても攻撃を終えた爆撃機を着艦させることは不可能だったため、爆撃機は日本上空をそのまま通過して、大陸の中国の基地に着陸させるという作戦が採用されました。

ドーリットル空襲 実行

横須賀軍港に対する空襲

こうして計画された作戦は、16機の爆撃機B-25を搭載した航空母艦ホーネットによって実行に移されました。

しかし日本側の艦船によって、発艦を予定していた位置よりも大幅に手前で見つかってしまいました。

日本側に迎撃の猶予を与えないことを重視したアメリカは、急ぎB-25を全て発艦させました。こうして日本の上空に侵入した16機中、15機が東京、横須賀、横浜、名古屋、神戸などへの爆弾の投下に成功しました。

軍事作戦として爆撃の効果そのものはさほど大きくはありませんでしたが、アメリカが本土を攻撃された際に受けた衝撃と同様に、首都・東京への空襲がなされたことは日本軍だけでなく、日本の社会全体に心理的なダメージを与えました。

日本軍へ与えた影響

巷説で、ドーリットル空襲を受けたことから連合艦隊司令長官・山本五十六はアメリカの航空母艦を標的としたミッドウェー島攻略作戦を発案したと唱える説もあるようですが、ミッドウェー作戦はそれ以前から考えられていました。作戦の裁可が下されたのは、1942年(昭和17年)4月16日であることから、空襲の衝撃が後押ししたことは間違いと思われます。

しかし、ミッドウェー作戦に無関心だった陸軍がこの空襲を受けたことで、方針を転換することになりました。

これは奇しくもアメリカが実践して見せた、航空母艦から航続距離の長い爆撃機を発艦させ空襲を行うという攻撃に対して有効な防衛手段がなく、アメリカの航空母艦を使用不可能な状態にするか、哨戒できる範囲を広げ日本から敵を遠ざけるためには、前線の基地を太平洋の東側に拡張する手法しか実効的な対抗手段がなかったことが挙げられます。

 

アバター

swm459

投稿者の記事一覧

学生時代まではモデルガン蒐集に勤しんでいた、元ガンマニアです。
社会人になって「信長の野望」に嵌まり、すっかり戦国時代好きに。
野球はヤクルトを応援し、判官贔屓?を自称しています。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 「別班」の存在が知られるきっかけとなった金大中事件とは 【韓国大…
  2. 2万人が命を落としたガダルカナルの戦い「戦病死者が戦死者を上回る…
  3. 新聞が巻き起こした戦争・イエロージャーナリズムと米西戦争
  4. 『密着型ブルマー』は、なぜ普及し消滅したのか?「1990年代に消…
  5. 【かつて信者数30万人を獲得した新興宗教】 大本と出口王仁三郎
  6. 伊勢と日向 ~戦艦と航空母艦のまさかのハイブリッド航空戦艦
  7. F-35(ステルス戦闘機)について調べてみた
  8. 「統帥権干犯問題」について調べてみた

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

少子化対策に潜む優生思想の影 【百田尚樹氏の発言を受けて】

日本保守党代表の百田尚樹氏が、YouTube番組で発言した少子化対策が波紋を呼んでいます。…

【日本史を動かした異国の神様】 謎に包まれた八幡神とは?

「八幡」と名の付く神社は日本各地の至るところで見かけます。私たちにとって身近な神様である八幡…

毛沢東はどんな人物だったのか?③ 「不倫を重ねた4人の妻たち、長男の死因」

毛沢東の結婚歴毛沢東は四度結婚している。最初の妻は若くして赤痢で亡くなった。二番…

民主主義について調べてみた 「日本は民主主義ランキングで先進国下位」

民主主義の由来民主主義(デモクラシー)の語源は、リシャ語の「デモス(人民)」である。…

【衝撃の新説】 ネアンデルタール人と現生人類は、男女を交換しあって失敗した?

近年のDNA解析から、ホモ・サピエンス(以降、現生人類)には、ネアンデルタール人の遺伝子が含…

アーカイブ

PAGE TOP