「アウトレンジ」戦法の無力化
マリアナ沖海戦は太平洋戦争時、日本海軍とアメリカ海軍の空母機動部隊が戦った海戦です。
この海戦はアメリカ海軍の一方的な勝利に終わり、日本は虎の子の航空母艦3隻を撃沈されました。
同時に約400機にも上る艦載機を失った日本海軍は、以後空母機動部隊を編成することが出来なくなり、その航空兵力を失うことになった戦いでした。
この海戦でアメリカ海軍は近接信管を投入し、命中しなくとも敵機の至近距離で炸裂する対空砲火は「マリアナの七面鳥撃ち」とまで喧伝されましたが、実際に用いられた砲弾の数は決して多くはなく、真に勝利に貢献したものがありました。
それが日本海軍の「アウトレンジ」戦法を無力したアメリカ海軍のレーダー設備と、F6Fヘルキャット戦闘機でした。
ゼロ戦の特徴からの戦法
「アウトレンジ」戦法とは、敵の攻撃範囲外から攻撃を行うという極めてシンプルな戦法です。
火砲等では敵の射程外から自軍のみが一方的に砲撃を行うというもので、日本海軍の戦艦大和型に実装された世界最大口径の46センチ主砲は、まさにこれを企図した兵器でした。
同じく航空戦においても、敵の航空機の航続距離外から航続距離の長い航空機を用いて、一方的な攻撃を仕掛けることが企図されました。
この航空機による「アウトレンジ」戦法を日本海軍が用いたのは、海軍の主力戦闘機・三菱零式艦上戦闘機(通称ゼロ戦)のもつ長い航続距離を活かすという発想であり、合理的な戦法と言えるものでした。
F6Fヘルキャット
ゼロ戦は最高時速約565km、航続距離約2200kmを誇り、格闘性能に優れた戦闘機でした。
欠点は防御力が脆弱なことで、極限まで軽量化された機体には防弾の為の仕組みは施されておらず攻撃に弱い機体でした。
開戦時にゼロ戦に苦戦したアメリカ軍はこれに対抗しうる戦闘機の開発を進め、そこで産みだされた戦闘機がF6Fヘルキャットでした。
F6Fヘルキャットは、最高時速約610km、航続距離約2500kmと、ゼロ戦を凌駕し格闘性能も高い戦闘機でした。さらにこの機には大きな特徴がありました。その特徴こそが画期的な折りたたみ式の主翼でした。
この翼の採用により航空母艦内にコンパクトに積載可能となり、アメリカの正規の航空母艦は約100機を艦載することが可能になっていました。
一方の日本側は最大の艦載数を誇る翔鶴型でも、予備の機体を含めて84機と質・量ともに大きく下回る状態になっていました。
絶対国防圏
アメリカ側のもうひとつの武器となったのが最新式のレーダーです。
アメリカは太平洋戦争の開戦前からこの新技術を実装しており、360度の全方位に対して距離、高度を察知するこが可能でした。
日本でもレーダーの開発、装備は進められていたものの、技術水準はアメリカは遠く及ばす、この技術力の差がマリアナ沖海戦で顕在化しました。
1944年6月、アメリカ軍はサイパン島の攻略を目指して侵攻を開始しました。日本海軍もこれを阻止すべく迎撃に向かいます。
サイパンは日本側が「絶対国防圏」と位置づけた島であり、これをアメリカに奪取されるという事は、アメリカ軍爆撃機が日本本土全体を攻撃可能にすることを意味していました。
このため日本は何としても阻止する必要がありました。
日本空母機動部隊の壊滅
日本海軍はこの戦いに、航空母艦9隻に艦載機約450機、戦艦5隻などからなる総勢68隻の艦隊を投入しました。対するアメリカは、航空母艦15隻に艦載機約900機、戦艦7隻の総数100隻という凡そ日本の倍の戦力を有していました。
日本海軍は「アウトレンジ」戦法を発動し、航空母艦から攻撃隊を発艦させて先手を取ったかに見えました。しかしアメリカ側の高性能なレーダーは日本側の動きをすべて把握しており、アメリカの戦闘機F6Fヘルキャットは迎撃のために待ち構えていました。
日本側の雷撃機・爆撃機は敢無くヘルキャットの前に撃墜され、これを潜り抜けた機も猛烈な対空砲火を浴びて壊滅しました。
逆に日本の攻撃隊を撃墜しつくしたアメリカ海軍は、は満を持して日本艦隊へ200機以上の攻撃隊を差し向けました。
前日までの戦いで多数の戦闘機を失っていた日本側は満足な迎撃ができず、正規の航空母艦3隻を沈められ、艦載機のほぼすべてを失う完敗となったのでした。
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