前回の続きです。
プレーオフ開幕
最後の3試合を2勝1敗で乗り切ったフィラデルフィア・イーグルスはNFCのトップシードでプレーオフに入った。
初戦免除に加えNFCチャンピオンシップまでホームのリンカーン・フィナンシャル・フィールドで戦う権利を手に入れたとはいえ、イーグルスに期待する声はほぼ皆無だった。
イーグルスにとってプレーオフ初戦となるディビジョナルプレーオフはアウェイのアトランタ・ファルコンズが有利と予想されるなど、見事なまでの「アンダードッグ(噛ませ犬)」扱いで、現地は勿論日本のNFLファンも大半がファルコンズが勝つと思っていた。
アンダードッグの意地
イーグルスの試合はNBCが選び、土曜の16時35分という個人的に最悪な時間に設定されていたため見事に寝坊してしまう。
起きた時はエリオットが前半終了と同時にFGを決めたところで、スコアを確認したら10対9のビハインドだった。
ネット上ではこのままファルコンズが勝つという声が多かったが、フィラデルフィア・イーグルスというチームを理解していない世間の声と専門家の適当な予想を見て、不思議と勝てる気しかしなかった。
オフェンス(特にウェンツ)の力で勝ったと思われがちだが、イーグルスはDCのジム・シュウォーツが指揮するディフェンスが看板のチームだった。
例え劣性でもとにかく我慢して、少ないチャンスを掴んで何とかリードを奪えば勝てると信じていた。
単なるファンの理想論と言われたら否定は出来ないが、後半になってから、世間はイーグルスの本当の強さを思い知る事になる。
後半はディフェンスが1点も許さないと言わんばかりの気迫を見せると、オフェンスもTDこそなかったがエリオットのFG2本でリードを奪う。
そして、残り1分2秒で逆転を狙ったフリオ・ジョーンズへのパスをジェイレン・ミルズが阻止して勝利する。
後半の得点はエリオットのFG2本で6点しか取れなかったが、勝つためのシナリオ通りイーグルスは少ないチャンスを掴み、ディフェンスはファルコンズに1点も許さなかった。
自分の予想は願望に近い「絵に描いた餅」のようなものだったが、イーグルスはその「絵に描いた餅」を現実にしてくれた。
試合後、レーン・ジョンソンにクリス・ロングといったイーグルスの選手が犬のマスクを被って現れる。
Lane Johnson, Beau Allen, and Chris Long trotted on to the field wearing dog masks after the win. The team seems happy to embrace the underdog identity. pic.twitter.com/yLvU02yWCK
— 2017 Eagles (@2017_eagles) January 14, 2020
Twitterでは何故犬のマスク?という疑問の声もあったが、イーグルスの強さを甘く見て、アンダードッグと散々馬鹿にして来た世間に対する最高のメッセージだった。(直後にアメリカで犬のマスクが飛ぶように売れたが、購入層の大半がイーグルスファンだったのは明らかである)
ドームのジンクス
ディビジョナルプレーオフ2試合目は日曜に行われるため対戦相手はまだ未定だが、イーグルスが第1シードであるため、スーパーボウル進出を懸けたNFCカンファレンスチャンピオンシップはホームで戦える。
この時点で翌日のミネソタ・バイキングス対ニューオリンズ・セインツの勝者がリンカーンにやって来る事が決まっていたが、最下位シードのファルコンズに不利と予想されていたのだから、どちらにせよイーグルスのアンダードッグ扱いが変わらない事は分かっていた。
但し、ドームが本拠地のチームは屋外のチャンピオンシップで勝てないというジンクスがあったため、ドームを主戦場にしている両チームのどちらが勝ち上がろうがイーグルスがスーパーボウルという謎の自信があった。
ディビジョナルプレーオフ2試合目は炬燵の中で寝落ちしたため起きた時は試合が終わっていた。(16時40分開始の試合は眠くなる)
結果を確認したら「ミネアポリスの奇跡」と名付けられたラストプレーの奇跡的なTDでバイキングスが勝ったようで、カンファレンスチャンピオンシップは1位シードと2位シードの戦いになった。
みんなでミネアポリスに行こう!
史上初の本拠地スーパーボウル開催を見たいという願望も込みで、世間はバイキングス有利と見ていたが、前述したドームのジンクスと、イーグルスのアンダードッグ根性で勝てる気しかしなかった。
開始直後のドライブでバイキングスが先制TDを決めて勢いに乗るかと思われたが、パトリック・ロビンソンのインターセプトリターンTDですぐに試合を振り出しに戻す。
ルギャレット・ブラントのTDランで逆転したものの、前半残り2分を切ってまだ7点差と試合は全く分からなかった。
接戦のまま後半に向かうと思われたが、そこからイーグルスディフェンスが連続でターンオーバーを奪い、オフェンスもそれを得点に繋げてディフェンスの奮起に応える。
2度のターンオーバーをTDとFGで締めて10点加え、残り2分で14対7と接戦だった試合は、前半終了時は24対7になっていた。
まだ後半が残っているし、17点はまだまだ油断出来ない点差だったが、後半最初のドライブでTDを決めて31対7になると、気を抜いたら逆転されるという緊張感も消えて祝福ムード一色になる。
後は時間が過ぎるのを待つだけとなった試合は38対7でイーグルスが勝ち、13年ぶりのスーパーボウル進出を決めた。
歓喜と暴動
想定外のワンサイドゲームとなったため喜ぶタイミングを逃してしまったが、スーパーボウルが待っているのだから嬉しくないはずがない。
フィラデルフィアでは2008年にMLBのフィリーズが優勝した時に暴徒化したファンが信号によじ登ったり、車を破壊したりと大騒ぎになった過去があり、9年前の暴動を繰り返さないよう、警察は信号や電柱にグリスを塗って対策していた。(全米で最もガラが悪いのはフィリーズファン、同率首位でイーグルスファンというジョークにならないネタがあるほど、フィラデルフィアのファンはアメリカでは嫌われている)
アメリカでは大袈裟だろと笑う声もあったが、相手はフィラデルフィアのファンである。
フィリーズファンの暴動を再現させないよう尽力した警察の努力も虚しく、今度はイーグルスファンによる暴動が起きる。
当の筆者(イーグルス、フィリーズ、浦和レッズとファンが嫌われているチームばかり応援している)は、炬燵で暖まりながら「やはり起きたか」とテレビに映る暴動を他人事のように眺めていたが、暴動はエスカレートして、メディアを乗せたバスが襲撃され、ガラスが割られるといった事件へと発展する。
この暴動で何人逮捕されたかは不明だが、イーグルスファンに襲われたバスには日本のメディアクルーが乗っており、SNSで襲撃の様子が拡散される。
フィラデルフィアのファンの気質は、日本では一部のコアなファンの間でしか知られていなかったが、今回の襲撃によってフィラデルフィアのファンが「全米一の嫌われ者」であるという事が日本のNFLファンに知れ渡る事になった。
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