国際情勢

北朝鮮は台湾有事をどう捉えるか ~米中対立が北朝鮮の「漁夫の利」を招く?

近年、台湾情勢で緊張が続いている。

2024年1月に就任したマッカーシー米下院議長が同年4月、カリフォルニアで台湾の蔡英文総統(当時)と会談した。

蔡英文総統は、台湾と国交を持つグアテマラやホンジュラスなど、中米諸国を訪問する帰りにカリフォルニアに立ち寄ったが、この際も中国の反発は必須で、2022年8月のペロシ訪台時と同じように、中国が台湾を囲むように大規模な軍事演習を実施する可能性が指摘された。

習政権は2023年3月の全人代において、2023年の国防費を前年比7.2%アップの1兆5537億元(約30兆5000億円)にする方針を明らかにし、台湾統一のためには武力行使を辞さない構えを改めて示した。

近年、米国側の台湾認識も“地域問題”から、米国の太平洋における優位性を守るための“安全保障問題”に変化してきており、台湾情勢は米中の代理戦争のような様相も呈している。

依然として可能性がゼロではない朝鮮有事

画像 : 北朝鮮の金正恩氏 public domain

一方、日本周辺には朝鮮有事というもう1つの危機がある。

北朝鮮は2023年、計29回、55発と異例のペースで弾道ミサイルを発射するなど緊張が続いている。

2024年にも、北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、同年2月にはICBM大陸間弾道ミサイルを発射し、北海道の渡島大島の西約200キロの日本海に落下した。北朝鮮の偵察用ドローンがソウル近郊まで接近飛行する事態もあった。

北朝鮮は自らが発射したミサイルを米軍が撃墜したら宣戦布告とみなす、太平洋を射撃場にするなどと挑発を続けている。

反対に、ユン政権の発足した2022年5月以降、米韓の間では合同軍事演習が再び活発化し、同年2月には北朝鮮による核兵器使用を想定した合同の机上演習「拡大抑止手段運営演習(TTX)」が米国で実施されるなど、台湾情勢と同様に朝鮮半島を取り巻く政治環境も悪化している。

朝鮮有事と台湾有事の連動性

北朝鮮は台湾有事をどう捉えるか

画像 : 分断された朝鮮半島 public domain

台湾有事と朝鮮半島有事は別問題である。

しかし、今後の情勢次第では、朝鮮半島有事は台湾有事からの影響を受ける可能性がある。仮に、台湾有事が発生すれば、それは中台間の軍事衝突だけでなく、米中、もっと拡大して日本も巻き込む軍事衝突に発展する可能性が高い。

中国軍は台湾周辺の制海権と制空権の確保することで米軍の介入を妨げようとし、嘉手納や普天間など在沖縄米軍基地を攻撃することが考えられる。在沖縄米軍基地が攻撃されることは日本領土への攻撃であり、中国軍と自衛隊との間でも衝突がエスカレートする恐れもあろう。

そして、中国軍の規模増大やハイテク化を考慮すれば、実際有事において米国は台湾問題一辺倒に陥る可能性が高く、在日米軍だけでなく、在韓米軍も台湾防衛に何らかの関与をせざるを得ない状況が到来することも考えられる。

そうなれば、南進して半島統一を目指す北朝鮮は、それを好機と捉える。台湾有事となれば、北朝鮮は中国への支持を表明し、敵対する米国や日本に対してサイバー攻撃などを強化することだろう。

そして、台湾有事において、北朝鮮が最も望むシナリオは習政権による台湾統一ではなく、有事によって在韓米軍が台湾に派遣され、朝鮮半島における対北抑止力が低下することである。

北朝鮮は長年、在韓米軍の撤退を強く求めてきた。統一のために最も阻害要因となるのが在韓米軍の駐留である。

北朝鮮が台湾有事に直接関与することはない。しかし、北朝鮮が台湾有事を漁夫の利のように考え、それによって朝鮮半島の統一に向けた軍事的挑発をエスカレートさせることが懸念される。

北朝鮮は米国が台湾問題に時間を割かれるようになり、朝鮮半島問題に集中できなくなる状況が到来するよう、中国との友好関係を含めあらゆる行動を取ってくることだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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