国際情勢

『トランプ関税』日常生活への影響はどこまで? ~4人家族の負担は11万円増の可能性

最近よく耳にする「トランプ関税」が、日本人の日常生活にどのような影響を及ぼすのか、具体的に考えてみたい。

2025年2月現在、ドナルド・トランプ氏が再び米大統領に就任し、彼が掲げる関税政策が世界経済に波紋を広げている。特に日本は、アメリカとの貿易関係が深い国として、この政策の影響を直接的かつ間接的に受ける可能性が高い。

まず、トランプ関税とは何か、簡単に整理しておく。

トランプ氏は2025年1月20日の大統領就任後、メキシコやカナダからの輸入品に25%、中国からの輸入品に現行関税に加えて10%(一部では60%との発言も)の追加関税を課す方針を表明している。
さらに、全ての国に対して一律10~20%の関税を課す「ベースライン関税」や、貿易相手国の関税に合わせた「相互関税」の導入も検討されている。

これが日本にどう関係するかというと、日本は自動車や電子機器など、アメリカ向け輸出依存度が高い産業を持つため、対象となる可能性が否定できないのである。

特にメキシコ・カナダ向け関税が発動されれば、日本企業がこれらの国を経由して米国に輸出する製品にも影響が及ぶと見られている。

物価高や雇用への影響

画像 : ドナルド・トランプ public domain

そして日常生活で最も身近に感じられる影響は、物価の上昇である。

トランプ関税が日本製品に直接課されると、輸出企業はコスト増加分を価格に転嫁せざるを得ない。

例えば、日本からアメリカに輸出される自動車は、2023年の輸入額で約495億ドル(全体の33.6%)を占めており、関税が10%上乗せされれば、1台あたり数十万円の値上げが必要になる可能性がある。米国市場での競争力を維持するため、現地生産を増やす企業もあるかもしれないが、急激なシフトは難しく、短期的には輸出価格が上昇するだろう。

一方で、日本国内の物価にも間接的な影響が及ぶだろう。

アメリカが中国や他国に高関税を課すことで、グローバルなサプライチェーンが混乱し、原材料や中間財の価格が上昇する。例えば、中国から輸入される安価な部品や消費財が減少し、日本企業が代替調達先を探す過程でコストが上がれば、それが最終製品の価格に反映される。

スーパーで売られる衣料品や家電製品、さらには食品の包装材などが値上がりし、家計にじわじわと負担をかける形になるだろう。
ある試算では、関税による輸入物価上昇が日本の実質GDPを最大1.4%押し下げるとされており、インフレ圧力が高まれば、2025年の家計負担が4人家族で約11万円増加する可能性もあると言われている。

また、雇用への影響も考えられる。

日本の輸出産業、特に自動車や機械製造業は、アメリカ市場に大きく依存している。関税が課されれば輸出が減少し、国内生産が落ち込むリスクがある。
野村総合研究所のエコノミストは、自動車産業が特に深刻な打撃を受け、雇用減少や賃金の抑制につながると指摘している。

仮に生産調整で工場稼働率が下がれば、非正規雇用者を中心にリストラや採用抑制が進むかもしれない。

2022年度のデータによると、メキシコとカナダにある日本企業の売上高は11.8兆円で、その56%が輸送機械(主に自動車)関連である。これが25%の関税で打撃を受ければ、現地従業員だけでなく、日本の関連企業や下請け企業の雇用にも波及するだろう。

中小企業への影響、貯蓄への変化

画像 : 元日本国内閣総理大臣岸田文雄(右)と元アメリカ合衆国大統領ジョー・バイデン(左)(2022年5月赤坂迎賓館で) public domain

さらに、中小企業への影響も見逃せない。

帝国データバンクの調査では、43.9%の企業がトランプ政権による経済への「マイナス影響」を予測しており、特に輸出依存度の高い製造業では悲観的な声が多い。失業率が上昇すれば、消費意欲が減退し、経済全体が停滞する悪循環に陥る可能性もある。
日常生活では、安定した仕事が減り、ボーナスカットや昇給停滞で家計が圧迫される人が増えるかもしれない。

物価上昇と雇用の不安定化は、消費行動にも変化をもたらすはずである。

まず、値上がりした輸入品や国産品を避け、安価な代替品を求める動きが強まるだろう。例えば、関税でアメリカ産牛肉やワインが高騰すれば、国産肉や他の国の製品にシフトする人が増えるかもしれない。しかし、国産品も原材料コスト上昇で値上がりすれば、節約志向がさらに加速する。
外食を控えたり、ディスカウントストアでの買い物を増やしたりする家庭が増える可能性が高い。

また、将来への不安から貯蓄を優先する傾向も強まるだろう。

NHKの企業アンケートでは、3割がトランプ政権の影響を「マイナス」と見ており、消費の平準化(収入の伸び以上に消費が抑えられる)が進むと予想される。旅行やレジャー、高額な耐久消費財(車や家電)の購入を控える人が増えれば、関連産業も打撃を受け、経済の縮小がさらに進むリスクがある。
一方で、円安が進む場合(関税コスト相殺のために通貨切り下げ圧力が生じる可能性がある)、輸出企業にとっては一時的な救いとなるが、輸入品の値上がりで生活必需品の負担が増すというトレードオフも生じる。

これらの影響は、日常生活のあらゆる面に波及するだろう。朝の食卓では、パンやコーヒーの値段が上がり、スーパーでの買い物袋が少し軽くなるかもしれない。通勤では、ガソリン価格の上昇(エネルギーコスト増)で車の維持費が増え、公共交通機関への依存度が高まるかもしれない。
子供の教育費や老後の貯蓄にも不安が募り、家族での外食や旅行が減ることで、生活の豊かさが損なわれると感じる人も出てくるだろう。

ただし、全てがネガティブとは限らない。

関税で米国市場が閉ざされれば、日本企業はアジアや欧州市場を開拓する動きを強め、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もある。
また、政府が景気対策として減税や補助金を打ち出せば、家計への負担が軽減されるかもしれない。とはいえ、短期的には混乱と負担増が避けられず、柔軟な対応が求められる。

「トランプ関税」が日本人の日常生活に与える影響は、物価上昇、雇用不安、消費の萎縮という形で現れる可能性が高い。

特に自動車産業への打撃が深刻で、それが経済全体に連鎖し、家計にじわじわと響いてくるだろう。

2025年は、こうした外部要因にどう適応するかが、日本人一人ひとりに問われる年になるかもしれない。具体的な影響は政策の詳細や実施時期によって変わるが、備えと意識を持つことが大切である。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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