夏目漱石の小説「倫敦塔」の舞台となったロンドン塔は、世界中から多くの観光客が訪れるロンドン屈指の観光スポットである。
ロンドン塔の歴史や施設、観光の際のポイントについて調べてみた。
塔は役割の一つ
ロンドン塔の正式名称は「Her Majesty’s Royal Palace and Fortress of the Tower of London」と言い「女王陛下の宮殿・要塞、そしてロンドン塔」という名の通りに、英国の歴史において宮殿や要塞などの役割を担ってきた。敷地内に動物園や造幣局が置かれていた時代もある。ロンドン塔の敷地内には「tower」と呼ばれる建築物も存在するが、塔はこの施設の役割の一つに過ぎないのである。
ロンドンの要塞
1066年にイングランド王となったウィリアム一世の命によって建設された要塞がロンドン塔である。
はっきりした年代は不明だが、1100年までにはこの建物の天守閣に当たるホワイト・タワーが完成したと考えられている。ロンドン塔が建設されたタワーヒルはテムズ川に面した丘であり、川からの敵の侵入を防ぐのに適した場所であった。
12世紀後半から13世紀後半にかけてロンドン塔の増改築が行われ、ヘンリー3世(在位期間:1216年〜1272年)の時代には城壁や堀、新たな塔が作られ、ロンドン塔は現在の姿となった。
王族が生活する宮殿
ヘンリー3世以降、ロンドン塔はウエストミンスター宮殿と共に、王族が生活する宮殿の役割も果たしただけではなく、国家行事の場にもなった。ヘンリー4世は、1399年の戴冠式にあたってバス騎士団を創設し、ロンドン塔のホワイト・タワーで騎士叙任式を行った。中世ヨーロッパ屈指の建造物であるロンドン塔は、外国からの使節の応対にも用いられていたが、近世に入ると、その役割はホワイトホール宮殿(1698年に焼失)やセント・ジェームズ宮殿が担うようになった。
現在もロンドン塔はイギリス王室が所有しており、ヨーマン・ウォーダーズと呼ばれる兵隊が管理に当たっている。
監獄にして処刑場
イギリスの歴史を学んだ人や、夏目漱石の「倫敦塔」を読んだ人、そして世界のオカルトスポットに興味がある人は、ロンドン塔に対して死者の無念が残る監獄、処刑場というイメージを持っているかもしれない。ロンドン塔には、国家への反逆者や政敵だけではなく、当時の権力者にとって自由にさせておくと都合の悪い人間も幽閉された。
12歳でイングランドの王位に就くも、戴冠式の前にその地位を追われたエドワード5世は、弟のヨーク公リチャードとともにロンドン塔に幽閉され、1483年9月ごろに消息を絶った。
1674年にロンドン塔の修復が行われた際に、ホワイト・タワーの階段の下から、子供のものと思われる人骨を修めた木箱が発見された。これらの骨はエドワード5世と弟のヨーク公リチャードの遺骨と推定され、ロンドンのウエストミンスター寺院に埋葬された。
幼い兄弟を殺害したのは、2人の叔父で、エドワード5世の王位を奪ったリチャード3世であるという説が有力だが、真の黒幕はリチャード3世を倒して即位し、ヘンリー7世(彼の妻エリザベスは、エドワード5世と弟のヨーク公リチャードの姉)ではないかという説もあり、真相は不明のままである。
生涯において6人の王妃を持ったヘンリー8世(ヘンリー7世の息子)は、ローマ・カトリック教会と対立して英国国教会の首長となったが、彼の政策に反対したトマス・モア(「ユートピア」の作者)や、ヘンリー8世の2番目の妻アン・ブーリン、5番目の妻キャサリン・ハワードはロンドン塔で処刑された。
テムズ川に面するトレイターズ・ゲート(反逆者の門)を通った者は、生きてロンドン塔の外に出ることはできないと言われたが、アン・ブーリンの娘エリザベスは反逆罪の疑いをかけられてロンドン塔に収監されながらも、生きて塔を出ることができ、メアリー1世の死後はエリザベス1世としてイングランドの王位に就いた。
牢獄といっても、囚人は鉄格子付きの部屋で死ぬまで監禁されていたわけではない。
エリザベス1世の寵愛を受けるも、ジェームズ1世によって斬首刑に処されたウォルター・ローリーはロンドン塔収監中に「世界史」を著しただけではなく、敷地内の散歩が許されていた。ロンドン市民はウォルター・ローリーの姿を見るために、ロンドン塔の城壁に詰めかけた。
1715年に勃発したジャコバイトの乱に加担したニスデール伯爵ウィリアム・マクスウェルはロンドン塔に収監され、死刑が宣告されたが、面会に訪れた妻ウィニフレッドの手引きでロンドン塔からの脱獄に成功した。
ロンドン塔の建物の石壁には、囚人が刻んだ文字が残されている。
ロンドンの観光スポット ロンドン塔
21世紀のロンドン塔は、世界中から多くの観光客が訪れる、ロンドン屈指の観光スポットである。ホワイト・タワーには多くの武器防具が展示され、ウォータールー兵舎のクラウン・ジュエルには、世界最大のダイヤモンド「偉大なアフリカの星」をはじめとする宝石や貴金属が展示されている。ヨーマン・ウォーダーズは写真撮影に応じてくれるだけではなく、ツアーガイドも行っている。
無実の罪で殺された人間が幽霊となって現れるには賑やかすぎる場所をじっくり見て回るには、半日以上の時間がかかる。事前に入館チケット
(https://www.hrp.org.uk/tower-of-london/)か、
ロンドン塔をはじめとする多くの観光施設に無料で入館できるロンドンパス
(https://www.londonpass.com/)を購入しておくと、スムーズに入館できる。
【参考文献】
「ロンドン塔 光と影の九百年」 出口保夫著 中公新書
「体験ツアー Tower of London」(ロンドン塔公式ガイドブック)
https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/r185855793
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