郵便物を整理していたら、こんな切手を発見しました。
「令和3年 近代通貨制度150周年 2021」
今から150年前の明治4年(1871年)、日本の通貨単位である「円(¥)」が誕生、現代ではドル($)やユーロ(€)と並ぶ世界三大通貨の一つとして流通しています。
しかし、アメリカをはじめ世界各国で使われているドルや、EU(欧州連合)の統一通貨となっているユーロに比べて、円は日本1国でしか使われていない印象です。
もちろん日本で生活する分には、別にそれでも困りはしないものの、世界三大通貨としてはちょっと寂しいな……と思っていたら、日本以外にも円が通用する国がかつてありました。
そう聞くと「分かっているよ。現地通貨の信用がない国や地域で、それなりに価値の知られている外貨として取引に使われているんでしょう?」と思う方が多いでしょうが、そういうことではなく、国家の法律でキチンと定められた法定通貨として流通していたのです。
一体どこの国なのでしょうか?
アフリカのジンバブエでは、日本円でお買い物が楽しめた(らしい)!
日本円が法定通貨として認められたのは、アフリカ南東部のジンバブエ。
以前のジンバブエ通貨は1980年の独立に際して導入されたジンバブエ・ドル(Z$)が使われており、導入当初のレートは0.68Z$/1.00米$とドルよりも高価値でした。
しかし、ロバート・ムガベ独裁政権の失策によってジンバブエ経済は崩壊。2000年代に入ってジンバブエ・ドルの価値は急落、天文学的なハイパーインフレを起こしてしまいます。
ニュースなどでも現地の子供たちが紙くず同然となった札束をもてあそび、ゼロがいくつも並んだ高額紙幣をビリビリに破いている映像は、多くの視聴者が記憶していることでしょう。
このままでは貨幣経済が崩壊してしまう……やむなくジンバブエ政府は(少なくとも自国通貨よりは信用のある)外貨を正式な取引に使える法定通貨として認め、2014年には日本円もそこに加えられたのでした。
ちなみに、日本円以外のジンバブエ法定通貨は以下の通り(50音順)です。
- 人民元(中国)
- 米ドル(アメリカ)
- 豪ドル(オーストラリア)
- プラ(ボツワナ。ジンバブエの南西隣国)
- ポンド(イギリス)
- ユーロ(EU)
- ランド(南アフリカ。ジンバブエの南隣国)
- ルピー(インド)
その後2019年、ジンバブエ経済再建のためRTGSドル(※)が発行され、すべての外貨取引が禁止されました。
(※)Real time gross settlement=即時グロス決済。すべての決済を例外なく(グロス決済)取引と同時(リアルタイム)に完了するため、決済をある時点にまとめて行う時点ネット決済に比べて、システミック・リスク(エラー等による不渡り等)が低いとされます。
この期間に実際どのくらい日本円はじめ外貨が流通していたかは不明ですが、ジンバブエを訪れた日本人は、両替の手間がなくて楽だったかも知れませんね。
(そもそも、ジンバブエを訪れる日本人自体がごく少数とは思いますが……もし「行ったことあるよ!」という方がいらっしゃいましたら、是非とも貴重なお話しを伺いたいものです)
かつて日本と同胞だった国々は?
さて、ジンバブエの話はこのくらいにしておいて、他にも日本円が使われた国はなかったのでしょうか。
日本の歴史を明治時代から振り返ると、かつて日本の同胞であった朝鮮や台湾、そして影響下にあった満州国などでは日本円が通用してそうなイメージがあります。
まずは、朝鮮から。当時の通貨を調べてみると「円(圓)」とあり、ちょっと胸が熱くなるものの、よく見るとこれは「ウォン(大韓帝国時代)」もしくは「朝鮮円」。
日本と通貨を統一してしまうと、朝鮮経済に引きずられて日本円の価値が下落し、経済が混乱する懸念があったため、朝鮮独自の円が発行されたのでした。
次に台湾ですが、こちらは現在ドル(新台湾ドル、NT$)が使われていますが、日本による統治時代は台湾銀行券が発行されており、単位は日本と同じく「円」だったそうです。
当時の日本は台湾を朝鮮に比べて低く(※日韓併合が名目上とは言え国家同士の合体であったのに対し、台湾は完全に植民地として)扱っていましたが、通貨を統一したことでよりスムーズな投資を促し、台湾の経済基盤を築き上げる側面もありました。
その時代を覚えていてくれるからこそ、台湾は大の親日国として知られるのですが、日台両国の友好関係が、末永く続いて欲しいものですね。
最後に満州国ですが、こちらも傀儡とは言え独立国家なので、予想の通り独自の円(満洲國圓、國幣)が使われていました。
こちらは日本円と少し異なり、日本円が1円=100銭(せん)=1,000厘(りん)なのに対して、満州国円は1円=10角=100分=1,000厘と、現代中国の人民元(※)と少し似ていますね。
(※)正式には圓で、発音が同じで字画の少ない「元」の字を当てるのが一般的。記号は日本円と同じ「¥」。1圓(ユァン。通称:块クァイとも)=10角(ジィァォ。通称:毛マォとも)=100份(フェン)で、厘はありません。
ちなみに、北京で買い物をした際、お釣りに1份と5份硬貨を貰ったので、道端の乞食に与えたところ、舌打ちされてしまいました。友人の曰く「そんな(無価値な)モノを渡せば、俺だって舌打ちする。唾を吐きかけられなかっただけ、マシと思え」との事。
加えて「まぁ、善人ヅラしたいなら、気前よく100元くらい放ってやるんだな。日本円なら1,500円くらいで、それはもう皇帝陛下みたいに敬ってもらえるんだから、安いもんだろ」とも。
時は平成18年(2006年)12月、北京五輪を前に薄汚れた胡同(フートン。旧市街)があちこちバリバリと解体され、新しいビルの建設がボンボン進んでいる時期でした。令和の現代となっては、もうそんなこともないのでしょうが。
それはそうと……「ありがとうございます。お気持ちだけで、とっても嬉しいです」などという日本人の情緒とはずいぶん違うものだと感じましたが、それだけ厳しい世界に生きていることの証左であり、日本がいかに恵まれているかを実感します。
終わりに
さて、話が少しそれましたが、現代では日本でしか使われていない日本円ですが、かつては日本統治下の台湾でも使われており、また近年では遠くアフリカのジンバブエでも使われていたとは驚きですね。
朝鮮や満州国そして現代中国でもそれぞれの円(圓)が使われており、異なる点は多くても、同じアジアで通じる点もあるものだと実感します。
他の通貨も、使っている国同士で意外な共通点を発見できるかも知れませんから、これからも興味をもって調べてみたいものです。
※参考資料:
- ジンバブエ基礎データ|外務省
- ジンバブエが日本円を採用 困難な中央銀行の信用回復|金融市場異論百出|ダイヤモンド・オンライン
- ジンバブエ、RTGSを唯一の法定通貨に制定 政策金利50%へ|Reuters
- 矢内原忠雄『矢内原忠雄「帝国主義下の台湾」精読 (岩波現代文庫―学術)』岩波書店、1988年6月
- 田村秀男『人民元・ドル・円 (岩波新書)』岩波新書、2004年7月
- 菅谷信『旧満洲国貨幣図鑑: 附 東北三省の貨幣および珍銭珍貨』彩流社、2011年11月
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