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中国の教育事情 「かつての一人っ子政策の弊害」

一人っ子政策

下校する子供達

一人っ子政策

世界一の人口を誇る中国。2019年調べで推定13.98億、今や14億に到達しようとしている。
そんな中国の人口抑制政策「1人っ子政策」は、1979年から2014年まで執行された。

1組の夫婦に対して子供は1人までとする計画生育政策である。
ちなみに2015年から2021年までは「二人っ子政策」が施行されている。

そして2021年8月20より三人目以上の出産が認められて、現在は中国国内で出産に関する問題はほぼ正常化したのである。

一人っ子政策の弊害

一人っ子政策は過去に多くの問題を引き起こすこととなった。
筆者は実際の体験談を数多く聞いている。

例えば、2人目の子供を産むとペナルティとして職を失う。農村部ではもっと過激で、直接役人がやってきて「家の屋根を破壊する」「妊婦さんを連れ去り中絶させる」ということまであった。

また第二子を産んだことによる不利益を恐れて公式に届出がなされず、戸籍を持たない子供たちが多くいる。彼らは「黑孩子」と呼ばれている。(中国語で黑は闇という意味がある。つまり闇の子供)

2010年に中国国家統計局が行った人口調査では、戸籍を持たない人の数が総人口のおよそ1%に及ぶ13000万人にも及んだ。彼らは戸籍上は存在しないため、国民として認められておらず、学校教育や医療などの行政サービスを受けることができないのである。

一人っ子政策下で育った子供達

都市部の若者の多くは兄弟姉妹を持たず「1-2-4体制」(子供1人を2人の親と4人の祖父母が世話をする)で成長したことで、他者とのコミュニティケーションの能力に欠けた利己的な子供を産み出してきたといわれている。

特に田舎では、両親は共働きで子供の面倒は主に祖父母がみるというのが常識である。自分で子供の面倒をみようものなら近所から姑との関係が悪いと噂される。極端なケースになると、父親はもちろん母親までもが子供の教育に全く関心がない。なぜなら自分は外で働いてお金を稼ぐだけでいいからだ。そして祖父母はかわいい1人孫を必要以上に可愛がり、わがままな子へと成長してしまうのである。

スーパーへ行くと、駄々をこねる子供たちが床に寝転がって大泣きし、祖父母に欲しいものをねだっている光景を頻繁に見かける。そして大泣きされると仕方なく買い与えるのである。

ある教育関係の資料によると、子供はまるで家族の中の王様。両親、祖父母は小さな王様に使える家来なのだそうだ。

一人っ子政策

子供たちであふれる校庭

甘やかし?それとも…

勤勉な家来達は小さな王様になんでも買い与え、人生において挫折させないよう必死だ。
必要なものはすべて事前に準備し、子供たちはそれを組み立てて作るだけだ。しかも他の人と違ってはいけないのである。

小中学校へ通う子供たちは、必ず家族が送り迎えをする。理由としては中国では子供を狙った誘拐が多いためである。

そのため登校時間、下校時間は学校付近がものすごく渋滞するのである。

子供達の夢

中国では美術・体育・音楽といったいわゆるテスト教科以外の科目は疎かにされる。

この中で「美術」についてとりあげる。中国の子供達は「模倣」が得意である。
黒板に絵を描き「同じ様に描いて」と言うと、集中してすごく上手に描き上げるのである。
だが、お題を与えて「想像して描いて」というと、ペンが止まる。

「自分の家族」を書こうというお題で、お手本として先生が黒板に自分の家族を書いた。ところが、ある生徒は先生とそっくりそのままの絵を描いたという。
また「将来の夢」を描こうというお題では、20名中3人しか将来の夢がなかった。

3人中1人は「家を建てて車を買う」という夢だった。

想像するという事をあまり教わってきていないのだ。これは人とのコミュニケーションにも影響を及ぼし、話の通じない付き合いにくい大人になってしまう傾向が見られるという。

子供達のストレス

一人っ子政策

とはいえ一人っ子で育った子供達にかかるストレスはとても大きいと言われている。

期待する対象はその子だけであり絶対に勝ち組にならないといけないからだ。膨大な数の宿題、夜遅くまでの塾、週末は習い事とストレスは相当のものだろう。

そして勉強についていけない子供は、幼くして「人生の敗者」のレッテルを貼られる。そして「心の病」を患うのである。

ある報道によると、中国では毎年ほぼ500人の小中学生が自殺していたことが明らかになっている。

子供達の未来

親はみな子供が人生の良いスタートを切ることを願う。

そのためにもちろんお金も必要だが、親と子がコミュニテケーションを通わせ、共に学んでいく家庭環境は大切である。

現在は一人っ子政策も終わり良い方向へと進んでいるが、中国の子供達も伝統や形式にとらわれることなく「自分で人生を切り拓ける」大人へと成長していってほしいと願うばかりである。

 

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草の実堂編集部

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