台湾の原住民
台湾には、政府によって認定されている原住民が16族住んでいる。
ほとんどの原住民は、中国大陸からの移民が盛んになる17世紀以前から居住していたが、後に原住民として認定されたという例もある。
原住民としての定義はいくつかあり、植民地化前にすでに一つの民族として成り立っており歴史との関連性があること。独自の文化、社会制度、法律、後代に受け継ぐことのできる土地があり、発展の見込みがあることなどがあげられる。
それぞれの原住民には独自の文化があり、食文化もまたしかりである。
台湾原住民の中で、一番人口が多いのはアミ族で、総人口は216,559人である。
「Amis」と呼ばれ「北方の人」という意味がある。居住区は台湾の中央山脈より東、有名な場所だと花蓮県に最も多く在住し、南は屏東にも住んでいる。
アミ族の80歳以上の人々の多くは日本語教育を受けており、日本語が話せる。中には日本名を持っている人や日本兵の父親を持つ人たちもいる。
アミ族は日本でいう大型のネズミを食べる。もちろん自然の中で生活している野生のネズミであるので、日本のドブネズミのように不衛生ではない。
これは最近の話だが、筆者が飼っているハムスターが子供を産んだ。たくさん産んだので、ご近所や友達に「飼わないか?」と聞いて回っていた。
たまたまアミ族の夫をもつ友人がいたので、彼女にも聞いてみると
「旦那が食べちゃうかもしれないけど大丈夫?」
と真顔で返してきた。それは冗談だったのだが、どうも冗談に聞こえなかったのだ。アミ族は本当にネズミを食べるのだから。
今回は、アミ族のように少し変わった食文化を持つ、タオ族にスポットを当てていきたい。
魚の目を食べるタオ族
台湾の南東の太平洋上にある「蘭嶼 : らんしょ」という小さな島には、タオ族という原住民が住んでいる。
総人口は4000人程で、島内に6つの村落を構成している。
彼らは海で漁をして生計を立てている民族である。主な産業は飛魚漁で、島の名物も飛魚を使った料理となっている。
タオ族の「飛魚の姿揚げ」は、台湾ではとても有名である。
太平洋の島であるため蘭嶼の海はとても美しく、透き通ったブルーが印象的である。
その他には「タロ芋」も有名である。
蘭嶼で取れるタロ芋は、長芋のように粘り気が強く、煮るとなんとも言えないホクホクとした食べごたえになる。
この島には独特の植物や動物が生息しており、地元民はもちろん観光客にも「環境保護に配慮するように」との呼びかけがなされている。
海に入る観光客は海洋への影響を考えて、日焼け止めや化粧は一切禁止されている。
そんな自然豊かな島に住むタオ族には、とても面白い料理がある。
それが今回紹介する「飛魚の目」だ。
子供達はまるで、飴玉かチョコレートを食べるかのようにパクパクと食べるのである。
飛魚の目は単体で見ると驚くほど大きい。ピンポン玉を一回り小さくしたような大きさだ。
飛魚漁は毎年三月から六月にかけて行われる。深夜に漁に出かけ、早朝5時から6時にかけて一斉に飛魚を捌くのである。頭から尾鰭まで半分に分けて、そのビー玉ほどもある目玉を取り出すのだ。
そして海水に浸しておいて朝ご飯に食べる。「飛魚の目」はタオ族にとっては春の珍味であり、子供たちにも人気の料理となっている。
口に頬張って噛むと、中から海水と共に飛魚の濃厚な液体が口いっぱいに広がるとのことである。筆者は食べたことがないので文字から想像することしかできないが、きっと潮の香りが口いっぱいに広がるのだろう。
おそらくかなり魚臭いことが想像できる。海水に浸すとはいえ、火を通しておらず、刺身のようにして食べるのだから。
だが食べた人によると、塩辛い中にも芳醇な甘味があるという。
タオ族は飛魚をとても大切に食べる。目玉の他には上記画像のように浮袋も食べる。捌く時に目と一緒に取り出すのだが、酒の肴にぴったりだという。
ちなみに飛魚の目や浮袋は、観光客には売り出していないという。
地元民曰く「自分で食べるにも足りないのに、売り出すような勿体無いことはしない」という。
貴重な上に鮮度の問題もあり、売り出すことは難しいのかもしれない。
タオ族の食文化の決まりごと
先代たちの知恵は、時に私たちを守るものとなる。
タオ族は飛魚漁をして生計を立てているので、海に対して敬意と崇敬の念を持っている。環境を破壊したり漁の決まりごとを破ったりはしない。それが自分たちの生活、ひいては生命に関係してくるものだからである。
そんなタオ族の食文化にも、いくつか決まりごとがある。
①男性、女性、老人、それぞれに食べて良い魚の種類が決まっている。それら何種類かを一緒に食べてはならない。つまり魚のチャンポンをしてはならない。
②飛魚は全部食べきらなければならない。もし食べきれない場合は家畜か動物に与えるように。放置して腐らせてしまうことのないように。
③タロ芋を掘るときは、親芋を掘り出してはならない。絶やすことのないように横のコイモから掘って使う。そして掘った場所になんらかの印をつけておくように。
このような決まりがある。
伝統的な食文化の多くは現代でも有用なものが多い。当時科学的には証明されていなくても、先代から引き継がれた知恵は科学的にも正しいことが多いのである。
それを守り伝え続けてきたからこそ、人類は命を繋いでこれたのである。
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