海外

【売春婦からファーストレディへ】 アルゼンチン大統領夫人・エビータの光と影とは?

マドンナが演じた「エビータ」

「エビータ」の愛称で広く知られているエヴァ・ペロンは、現在もアルゼンチン国内で多くの人気を集めています。

彼女の生涯は映画にもなり、ポップスターのマドンナが「エビータ」を演じて話題になりました。映画は1996年に公開されています。

アルゼンチン大統領のファーストレディーにもなったエヴァ・ペロン。彼女は聖女でもありますが、その一方で悪女でもあります。

今回の記事では、エヴァ・ペロンの生涯を紹介していきたいと思います。

アルゼンチン大統領夫人・エビータの光と影とは?

画像:エヴァ・ペロン public domain

昼はアイドル、夜は…

エヴァは1915年に、貧しい村の貧しい農家に私生児として生まれました。15歳で家出をしたエヴァは、ブエノスアイレスに上京します。

ブエノスアイレスでは、日系人が経営するカフェでウェイトレスとして働きながら、最初のころは水着グラビアや広告モデルの仕事をして生計を立てていました。

また夜の仕事として、高級売春婦の仕事もしています。

アルゼンチン大統領夫人・エビータの光と影とは?

画像:水着姿のエヴァ・ペロン public domain

1930年代後半からは、映画女優やラジオドラマの声優として活躍し始めます。貧しい家庭の出身で、また教育も受けていないエヴァの活躍は、多くの国民から支持を集めたのです。

1943年、あるパーティーにおいて当時の副大統領であり国防大臣でもあった、フアン・ドミンゴ・ペロン大佐に出会い、愛人を務めるようになります。

1945年、ペロンは反政府活動で逮捕されましたが、エヴァはラジオを通じて彼の釈放を訴えました。彼女の呼びかけによって世論が高まったことで、ペロンは釈放されています。

その5日後、エヴァとペロンは結婚しました。

ファーストレディへ

アルゼンチン大統領夫人・エビータの光と影とは?

画像:ペロン夫妻 public domain

1946年、ペロンはエヴァの人気に便乗し、アルゼンチン大統領に就任しました。

ファーストレディーとなったエヴァは積極的に政治へ関わり、国家予算の大半を貧困層に使いました。エヴァの行動に対しては、選挙対策として貧困層からの票が欲しかったという指摘もあります。ただ結果的には学校や診療所が建てられ、女性の参政権も実現しました。

貧困層から圧倒的な支持を得たエヴァは、アルゼンチンで最も影響力のある人物になります。

エヴァによる貧困層への支援は税金だけでなく、労働者や企業から半ば強制的に集めた、いわば献金によって補われていました。この政策はアルゼンチンの経済に大きな悪影響を与え、エヴァが作った財団を通じた蓄財や汚職の疑惑も持たれたのです。ブランドの服を着飾ったり、高級スポーツカーを乗り回す姿がたびたび目撃され、国家予算を私的に流用しているという噂が立つようになります。

下層階級出身で十分な教育を受けていないにも関わらず、選挙で選ばれることなく国政に参加している」「経済状況を考慮せずに公私混同の再分配を行っている」など、エヴァは中流階級以上の知識人階級や富裕層、軍の上層部から強い批判を受けました。

さらには水着モデルや高級売春婦、愛人という経歴から「淫売」「成り上がり」という声も…。カトリック信者が大多数を占める保守的なラテンアメリカの社会において、エヴァはあまりにも政治に対して積極的であると見なされたのです。

彼女を嫌う国民も徐々に増え始め、エヴァに対する評価は二分しました。

33歳の若さで…

ファーストレディーになってから6年後の1952年、エヴァは33歳の若さでなくなります。死因は子宮頸がんでした。

そのため、彼女がどのような思いで政治をしていたのかを知ることはできません。

彼女の死後、夫のペロン大統領も影響力を失い、1955年に失脚し、スペインに亡命しました。

エヴァの遺体はイタリアのミラノへ空輸され、埋葬されましたが、16年後の1971年、遺体はスペインへと移されています。

亡命中のペロンは、スペインで元ナイトクラブの歌手・イサベルと再婚しています。

アルゼンチン国内では、ペロン元大統領を支持する「ペロニスタ」が、依然として大きな影響力を保ち続けました。亡命してから18年後の1973年7月、ペロンはアルゼンチンに帰国。「ペロニスタ」の熱狂的な支持を受けて、大統領選挙に出馬したのです。

選挙の結果、なんとペロンは勝利し、同年10月に再び大統領となりました。副大統領には自身の妻であるイサベルを就けています。しかし、帰国からわずか1年後の1974年7月、ペロンは病気で亡くなってしまいます。

1976年には軍事クーデターが起こり、ペロンの妻だったイサベルは失脚しました。

画像:エヴァ・ペロンの遺体 public domain

今もなお大きな影響力を持つ「エビータ」

エヴァの遺体はアルゼンチンに戻され、ブエノスアイレスの墓地に埋葬されています。

2012年には没後60周年を記念して、エヴァは100ペソ紙幣の肖像画として描かれました。この紙幣は2016年まで使用され、2022年には新しいデザインとなって再び登場しています。

「エビータ運動」という彼女の名を冠した政党も設立されており、エヴァを尊敬する「ペロニスタ」の影響力は現在も続いています。

エヴァの評価は見る側の視点によって変わります。彼女は悪女にも、聖女にもなり得るのです。

参考文献:アリシア・ドゥジョブヌ・オルティス『エビータの真実』(竹澤哲訳)三省堂書店/創英社、2022年11月

 

村上俊樹

村上俊樹

投稿者の記事一覧

“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
Twitter→@Fishs_and_Chips

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【減税を訴えるため、裸で街を行進した貴婦人】ゴダイヴァ夫人の伝説…
  2. 国王のあだ名について調べてみた
  3. チャイナドレスの起源 ~満州族の伝統衣装「旗袍(チーパオ)」の歴…
  4. 残虐な王妃として名高い カトリーヌ・ドゥ・メディシス
  5. 『2800年前にキスしながら死んだ?』イランの古代遺跡“ハサンル…
  6. 【ヴァイキングのおぞましい処刑法】 血の鷲とは ~高貴な身分の者…
  7. 沿岸海域の温暖化で「人食いバクテリア」の感染が拡大中 【約5人に…
  8. 共通の敵の前に手を結んだローマ・カトリック教会とナチス

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

カードを使いこなす最新情報 5選

クレジットカードや電子マネー、共通ポイントもどんどん進化しています。それぞれのジャンルでも新製品…

江戸の吉原でモテなかった男たち…「キンキン野郎」とは? 今も通じる痛客の特徴

NHKの大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。江戸時代の出版文化の黎明期、本作りに大奮闘…

三国志の豪傑・張飛は実はインテリだった 「高い文才があった」

張飛とは三国志の登場人物で豪傑として知られる張飛は、もともとは肉を売っていたという。…

大久保忠世 「信玄、信長、秀吉に称賛された徳川十六神将」

大久保忠世とは大久保忠世(おおくぼただよ)は徳川家康に仕えた、徳川十六神将の一人に数えら…

東京を無政府状態にまで追い込んだ暴動「日比谷焼打事件」とは?

歴史上の出来事には必ず理由がある。特に戦争という国家の重大事においては当然、開戦した理由と終戦した理…

アーカイブ

PAGE TOP