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懐かしの『ロケット鉛筆』誕生秘話 〜「発明したのは娘を想う台湾人の父親だった」

日本の文房具

画像 : イメージ by草の実堂

筆者は台湾在住だが、日本と同様に台湾の街にも多くの文房具店が存在する。個人経営の小規模店から大規模なチェーン店まで様々だ。

近年、台湾製の文房具も性能が向上しており、その価格の安さには驚かされる。最も安いものでは1本50円でお釣りが来るくらいだ。

だが、台湾人はとにかく日本の文房具が大好きだ。実は売り場のほとんど(大袈裟でなく)が日本製の文房具で、新発売やオススメのコーナーも日本製品が中心となっている。しかも、さらに驚くことに比較的お手軽価格なのだ。

海外で日本製品を購入する場合、通常は国産品の2倍以上の価格になることが多いが、台湾では日本国内の通常価格と大差ないか、場合によってはセールで日本より安く購入できることもある。

このような背景もあり、台湾の文房具店を訪れる筆者も多くの日本製品に魅了されている。

ロケット鉛筆

画像 : ロケット鉛筆 イメージ

子供の頃に「ロケット鉛筆」を使用した記憶がある方もいるだろう。

筆者も愛用していたが、芯が短くなると替え芯が手に入らず、中の1つが紛失すると使えなくなるため、経済的ではないと感じていた。

中国語でロケット鉛筆は「免削鉛筆」というそうだ。
直訳すると「削らなくて良い鉛筆」であり、ロケット鉛筆の特性を見事に表している。

多くの文房具は進化を遂げ、より便利で使いやすいものが販売されている。例えば、消しゴムは大きいものから小さいもの、細かい部分を消せる繰り出しタイプや油性インクを消せるものまで多種多様だ。最近ではラバーの熱で文字を消すフリクションも普及している。

しかし、ロケット鉛筆の進化版は見かけたことがない。一時代に取り残された文房具なのかもしれない。

ロケット鉛筆の発明者は台湾人だった

時は1960年代の台湾。造船工人の洪蠣氏が、仕事を終え帰宅すると、娘がたくさんの短い鉛筆を笠の中に入れているのを見かけた。

洪氏は毎日娘のために鉛筆を削ることが日課であったが、その積み重ねられた鉛筆の束を見ながら、鉛筆を削る手間を省けないかと考えた。

鉛筆を削るのが面倒だからといって、娘に「鉛筆を使うな、勉強するな」とは言えない。
また、使いにくい短い鉛筆をたくさん使わなければならない娘も不憫であった。

そして「笠を積み重ねるように鉛筆も重ねることができれば、鉛筆が長いまま、削る手間も省けるのではないか」と思いついたのだ。

懐かしの『ロケット鉛筆』誕生秘話

画像 : 笠 イメージ

幾度かの試作を経て、1964年に台湾で発明権利を取得。その後、この発明に目をつけた縫製工場の経営者が800万元で権利を買収した。

これは当時の物価で、都市部に10軒の家を建てることができる金額だったという。

1967年には「白能文具公司」という会社が設立され、「Bensia免削鉛筆」として世界に向けて販売が開始された。

そしてこれは、台湾初の世界に向けた発明品でもあった。

一人の父親が娘のために考えた発明品が、台湾の発明品として世界に発信されることとなったのだ。

最後に

こうしてロケット鉛筆は、世界初の「削らない鉛筆」として広く受け入れられた。

この発明は創意と実行力の象徴であり、日常の小さなアイデアが大きな影響力を持つことを示している。

この物語は、創造力と情熱があれば、誰でも大きな成果を生み出せることを教えてくれる。

参考 : 『中華創新発明学会』

 

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草の実堂編集部

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