体中が”樹木の様”になってしまう…。あなたはこのような恐ろしい病の症状を今まで聞いたことがあるだろうか?
この病は「ツリーマン症候群」と言われており、言葉の通り体中の至る部分が樹木の様に変化してしまう症状である。なお、発症例は現在までほとんど見られず、発症した患者の数は世界で数人程度と言われている。
一体この病は何が原因なのか?また、治療法は存在しないのか?そして、この病気に罹った人たちはどのような生活を歩んでいるのか?
今回はツリーマン症候群という奇病についてと、それに関係した人たちの過酷な人生について迫っていく。
ツリーマン症候群とは?
ツリーマン症候群は正式には疣贅状表皮発育異常症(ゆうぜいじょうひょうひはついくいじょうしょう)と呼び、またの名を樹木男症候群(ツリーマン症候群)と言う遺伝性の皮膚疾患であるとされている。
非常に珍しい皮膚疾患であり世界に数例しか診断例がなく、過去の記録にもほとんど記述が見られない。そのため、正確な治療法は今も確立されていない。
一見、樹木が体から生えているように見えるが、実際は疣(いぼ)が変異し、樹木のような形で身体に表れたものである。
発症の原因は主にヒトパピローマウイルスと呼ばれるウィルスに感染した場合とされるが、本来、人間が持つ免疫機能によってこのウィルスは簡単に死滅することができ、後遺症が残ったとしても小さなイボが残る程度である。
しかし、免疫機能に何かしらの異常を持つ者がこのウィルスに感染すると、自己免疫が修復に異常を起こしてしまい、イボの巨大化を促してしまうと考えられている。
また、症状名から男性にしか発症しないと思われていたが、近年女性にも発症したことが分かったため性別は関係ないことが発覚した。
デデ・コサワ 「ツリーマンと呼ばれた男」
このツリーマン症候群が注目されるキッカケとなった男性がインドネシア出身のデデ・コサワ氏である。
彼は1971年にインドネシアの西ジャワ州に誕生し、何の異常も見られない平凡な幼少期を過ごしていた。
彼が15歳の時、何らかの拍子で切り傷を負ってしまうが、特に気にする必要もなく、普段通りの生活を送っていたところ、傷跡から出来たイボが急に巨大化し、次第に彼の体を樹木の様なイボが彼を覆い尽くし始めた。
その後、病院に入院するも治療法は見つからず症状はますます悪化してしまう。結果として、仕事としていた漁師と建設業も辞めざるを得ず、回復の望みはないと判断された妻からは離婚を宣言され、すべてを失ったデデはサーカスの見世物小屋でツリーマンとして働くという屈辱的な日々を送らざるを得なくなってしまう。
しかし、2007年の12月、デデが肺炎を発症したことを知ったアメリカの皮膚科学専門家であるアンソニー・ガスパリ氏がツリーマン症候群の病気究明のため治療を決意。デデの元を訪れるとイボのサンプルを摂取し、研究を開始する。
ガスパリが研究を開始したため、このツリーマン症候群は世界に大きく知られると共に、ガスパリは免疫不全が原因である以上、化学治療と栄養薬の投与で治療に当たるべきであると結論づけた。
しかし、ツリーマン症候群が世間に大きく認知されたことを知ったインドネシア政府は、国家の威信を賭けて、デデの治療を実施することを表明。彼の無数のイボを手術にて摘出して見せるも、約一年後に病は再発し、デデの腕は再び樹木の様になってしまった。
その後、確たる治療法も見つからぬまま、2016年にデデは多機能不全によりこの世を去ったことが報じられた。享年45であった。
アブル・バジャンダル「現在も闘病生活を続けるバングラデシュのツリーマン」
インドネシアにてデデがこの世を去った2016年、バングラデシュに住む一人の男性がツリーマン症候群に苦しみダッカの病院を訪れていた。
男性の名前はアブル・バジャンダル。バングラデシュのクルナの出身で、妻と子供を持つ一家の大黒柱である。そんな彼であるが、彼もツリーマン症候群に苦しむ患者の一人である。
彼がツリーマン症候群を発症したのは約10歳の頃であり、切り傷の跡からイボが発症したのが始まりという。デデと同じくしばらくは何の異変もなかったが、彼が25歳になるころイボは急に巨大化し、両腕はツリーマンと化してしまった。
その後、アブルは2016年にダッカ医科大学病院を訪れ、病院の勧めを受けて手術を受けることとなった。幸い、病院とバングラデシュ政府はこの病気が難病であること認知しているため、治療費は無料であった。しかし、手術は難航し、2016年の間で数十回にも摘出は及んだ。
結果として手術回数は20回以上を超えたものの、アブルのイボの摘出は成功。2017年には彼の症状はほぼ完治し、あとは両手両足の整形手術を受けるだけとなっていた時、再び悲劇が彼を襲う。
翌年の2018年、なんとアブルの両腕は再びツリーマンと化してきたのだ。
錯乱したアブルは家を飛び出し、途方に暮れるも、日々増殖するイボに対してどうすることもできず、再び病院へと向かい治療を受けることになった。
アブルは現在、入院しながら家族とともに暮らしているというが、両腕は激痛が走るため、常に不安と隣り合わせで暮らしているという。
サハナ・カトゥン 「女性初のツリーマン症候群」
アブルが治療を受けるのと同時期、バングラデシュではツリーマン症候群の発症が同じく報告されていた。しかも、今度はわずか10歳の少女が発症したというのだ。
少女の名前はサハナ・カトゥンと言い、バングラデシュ出身で貧しいながらも父親と二人でバルチョーラという村で幸せに暮らしていた。
そんな彼女が2歳になったとき、顔に小さなイボが出来たが、父親はさほど気にしなかった。しかし、数年も経つとイボは大きくなり始めたため、困惑した父親はすぐさまサハナをダッカ医科大学へと連れていき、診察を受けさせたところ、ツリーマン症候群が発覚。
女性によるツリーマン症候群が初めて発覚したのだ。
病院側はすぐさま摘出の手術を受けるよう勧めたためサハナの父親はこれを承諾。サハナの症状は比較的軽度であったため、手術は成功し、彼女は無事に父親と共に帰宅した。
しかし、わずか一か月後、サハナのツリーマン症候群が再発。しかも、以前よりも早いスピードで症状は進行していると父親は語っている。
これを受けて、病院側は再び治療を受けることを進めているが、サハナの父親は「大切な一人娘が何度も摘出手術を受ける姿は痛々しくて見ていられない。それに治る可能性はほとんどないのではないか…」と言い、病院の提案を拒んでいるという。
現在のサハナの症状については不明であるため、彼女の症状が気掛かりである。
最後に
今回は奇病と呼ばれるツリーマン症候群について記述した。今もこの症状に苦しんでいる人たちがこの世界に存在している。
また、筆者が感じた部分ではあるが、発症している場所がほぼ東南アジアを中心としていることと、比較的開発が未発達の国々であること、そして、幼少期の発症を見過ごしている点が気になった。
治療法が確立されることを願うばかりである。
参考文献:
世界の奇病大全 一度も眠ったことがない、コインを食べる、“水”アレルギー、痛覚がない−現代医療でも解明できない謎の病 (著)「奇病大全」制作委員会
図説奇形全書 普及版 著者マルタン・モネスティエ (著),吉田 春美 (訳),花輪 照子 (訳)
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