国際情勢

『トランプ関税』一時の嵐か、それとも長期の向かい風か? ~日本へのリスクと対応

2025年1月に第47代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、選挙公約通り、広範な関税政策を導入した。

中国からの輸入品に対する60%以上の関税や、EU、カナダ、メキシコからの輸入に対する10~20%の関税がその柱である。

これらの「相互関税」は、米国の貿易赤字削減と国内製造業の保護を目的としている。

しかし、関税発動は国際市場に混乱をもたらし、報復関税や物価上昇への懸念を高めている。

一国主義と保護主義の歴史的文脈

画像 : ドナルド・トランプ public domain

米国は建国以来、自由貿易と保護主義の間で揺れ動いてきた。

19世紀から20世紀初頭までは高関税政策が主流であり、国内産業の育成を優先した。第二次世界大戦後、米国は自由貿易を推進するリーダーとなり、GATTやWTOを通じてグローバル経済の枠組みを構築した。

しかし、2008年の金融危機や中国の経済台頭により、国内の製造業衰退への不満が高まり、保護主義が再び勢いを増した。

トランプ氏の政策は、こうした歴史的潮流の延長線上にあるといえる。

一過性の政策か、長期的な変化か

トランプ関税が一過性のものか、米国の長期的な政策転換かは、いくつかの要因に依存する。

第一に、国内の政治的動向である。
トランプ政権は、共和党内の支持を背景に強硬な姿勢を維持するが、2026年の中間選挙や2028年の大統領選で民主党が巻き返す場合、関税政策の見直しが進む可能性がある。

第二に、国際社会の反応である。
中国やEUが報復関税を強化し、米国の輸出産業が打撃を受ければ、政策の修正圧力が高まる。
しかし、米国の世論はグローバル化への懐疑を強めており、保護主義的な政策は一定の支持を集めている。

バイデン政権下でも対中関税の一部が維持されたように、自由貿易への回帰は容易ではない。

トランプ関税が短期的な混乱で終わるとしても、米国の経済政策は内向き志向を強め、かつての「自由経済のリーダー」としての役割は後退する可能性が高い。

日本へのリスクと対応

画像 : ホワイトハウス public domain

日本にとって、米国は最大の貿易相手国であり、関税強化は自動車や電子機器の輸出に打撃を与える。

特に、トヨタやホンダといった自動車メーカーは、米国市場への依存度が高いため、10~20%の関税が課されれば、価格競争力の低下や利益率の圧迫が避けられない。

さらに、米国の関税政策がグローバルなサプライチェーンに波及すれば、半導体や部品供給にも影響が及び、日本の製造業全体が新たなコスト負担に直面するだろう。
消費者物価の上昇も懸念され、円安が進行中の状況では、輸入コストの増大が家計や中小企業に重くのしかかる可能性がある。

すでに日本企業は、サプライチェーンの多元化や現地生産の拡大で対応を進めている。

たとえば、日産は米国での工場増設を計画し、関税の影響を最小限に抑える戦略を採用している。しかし、現地生産の拡大には多額の投資が必要であり、中長期的な収益性を見極める必要がある。

また、米国の関税が中国やEUにも波及すれば、日本企業は複数の市場で同時にリスクに直面する。これに対し、日本政府は米国との二国間交渉を通じて関税の緩和や例外措置を求める外交努力を強化している。

2025年春に予定される日米首脳会談では、経済安全保障と貿易摩擦の緩和が主要議題となる見込みだ。

一方で、日本は米国依存からの脱却を図るため、CPTPPやRCEPを活用したアジア太平洋地域での経済連携を加速させる必要がある。
特に、東南アジア市場の成長を取り込むことで、米国市場の変動リスクを軽減できる。さらに、デジタル貿易やグリーン技術分野での国際協力を推進し、新たな収益源を確保する戦略も求められる。

国内では、関税コストの上昇を吸収するための産業支援策や、中小企業の輸出競争力強化策も急務である。たとえば、輸出向け補助金や技術開発支援を拡充することで、企業の適応力を高めることができる。

保護主義の時代において、日本は柔軟かつ多角的な戦略を展開する必要がある。

米国との関係を維持しつつ、グローバルな経済秩序の中で新たな役割を見出すことが、日本の経済的安定と成長の鍵となるだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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