瀬戸内海は、豊かな自然と歴史的景観を擁する日本固有の財産である。
その多島美は古くから多くの人々を魅了し、地域社会の基盤となってきた。
しかし近年、この静穏な海域に、中国資本の影が忍び寄っている。
その規模と影響力の増大は、日本の安全保障、環境保護、そして地域経済の持続可能性に、深刻な懸念を投げかけている。

画像 : 瀬戸内海 弥山(宮島)から望む広島湾 Bernard Gagnon CC BY-SA 3.0
具体的事例:山口県笠佐島での土地買収
中国資本による日本の土地買収は、もはや目新しい話ではない。
北海道の広大な森林や水源地、沖縄の無人島など、その対象は全国に及んでいる。
特に問題視されているのは、安全保障上重要な地域の土地が取得されている点だ。
瀬戸内海沿岸地域も例外ではない。
その具体的な事例の一つが、山口県周防大島町にある離島、笠佐島(かささじま)で発生している。

画像 : 笠佐島 (山口県)の位置 public domain
2025年時点での人口が7人とされるこの島では、2017年から2018年頃にかけて、中国・上海に住所を持つ中国籍の人物らが島内の複数区画を取得したことが報じられている。
取得された土地は約3700平方メートルに及び、島の住民が住む地域とは離れた南側に位置している。
購入者は別荘建設を目的としていると説明したとされるが、住民への説明がないまま土地の売買が行われ、その後、電柱の敷設工事が行われたことなどから「島全体が中国人に買い占められるのではないか」という不安の声が、島民の間で広がっている。
安全保障上の懸念と統制下の買収

画像 : 笠佐島 そらみみ CC BY-SA 4.0
笠佐島の事例は、単なる不動産取引として見過ごすことができない側面を持つ。
この島は、米軍岩国基地から約20km、海上自衛隊呉基地から約50kmという、防衛上重要な拠点から比較的近い位置にある。
そのため、取得された土地が平時の別荘利用に留まらず、有事の際に情報収集や監視の拠点として利用される可能性が、安全保障上の重大な懸念として指摘されている。
中国の企業は、自由主義経済の枠組みの中で活動しているように見えるが、その背後には中国共産党の強い統制が存在する。
2017年に施行された国家情報法は、中国の組織や国民に対し、国家の情報活動に協力することを義務付けている。
この法律の存在は、笠佐島のような事例が、一私人の純粋な投資や別荘目的の購入であったとしても、最終的に国家の意図に沿って利用され得るというリスクを示唆している。
地域社会の混乱と法規制の不備
中国資本の進出は、瀬戸内海の伝統的な漁業コミュニティにも影響を与えている。
笠佐島では、住民が団結し「笠佐島を守る会」を設立。
土地の買い戻しや、これ以上の外国資本による土地取得を防ぐための活動を開始するなど、地域社会の秩序と安全を守るための動きが始まっている。
こうした事例は、日本の土地法制における外国資本による土地取得に対する規制の不備を浮き彫りにした。
日本では、外国人による土地の私有は原則として自由であるため、笠佐島の買収自体は現行法上違法ではない。
しかし、この現状が、安全保障上のリスクを放置しているという批判が高まり、政府は2021年に「重要土地利用規制法」を成立させた。
しかし、この法律の対象となるのは、重要施設周辺や国境離島等の指定された区域に限られ、その運用も慎重を要する。
規制の網をかいくぐる、あるいは規制対象外の地域での買収を防ぐには、法的な対応だけでなく、地域社会の意識向上と、自治体レベルでの情報共有と協力体制の構築が不可欠である。
中国資本の進出は、経済合理性だけで語れる問題ではない。
それは、日本の主権、安全保障、そして未来の世代に受け継ぐべき自然環境を守るための、国家的な課題である。
瀬戸内海の美しい景観と静穏な海を守るためには、今、国民全体がこの現実に目を向け、具体的な行動を起こすときである。
参考 : 『笠佐島を守る会』他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部






















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