日本の安全保障の要である自衛隊基地。
その周辺で、中国資本を中心とした外国資本による土地買収が静かに、しかし着実に進んでいる。
かつては北海道の森林や水源地が主なターゲットとされていたが、現在その触手は国防の最前線へと伸びている。
この事態は単なる不動産取引なのか、それとも国家戦略の一環なのだろうか。
国境の危機と政府の統制

画像 : 国会議事堂(東京都千代田区)Kakidai CC BY-SA 4.0
長年、日本には外国資本による土地取得を制限する法律が、事実上存在しなかった。
「私有財産の不可侵」を盾に、誰がどこを買い占めても、政府がそれを把握・規制する術は極めて限定的であったのだ。
特に北海道や沖縄、対馬といった国防上の要衝において、重要施設周辺の土地・建物の取得をめぐる懸念が積み重なり、実態把握の制度化が進んだ。
内閣府の取りまとめでは、重要施設周辺等の注視区域内で令和6年度に確認された外国人・外国系法人による取得は3,498筆個(総数の3.1%)で、中国(香港含む)が1,674筆個(47.5%)と最多だった。
2022年に全面施行された「重要土地利用規制法」は、その歪みを正すための一歩である。
自衛隊基地や原子力発電所、国境離島などの周囲おおむね1キロを「注視区域」とし、土地・建物の利用状況等を公簿や届出、公開情報などで調査し、重要施設等の機能を阻害するおそれのある利用には、中止等を求め得る枠組みを整えた。
しかし、この規制はあくまで「利用」に焦点を当てたものであり、所有そのものを禁止するものではない。
内閣府の公表では、令和6年度中に重要土地等調査法第9条に基づく勧告・命令は実施されていない。
法の網を潜り抜けるダミー会社の存在や、登記情報の不透明さが、依然として政府の統制を阻む壁となっている。

画像 : 陸上自衛隊 久留米駐屯地 wiki c Akash Shrestha
安全保障への渇望と見えない監視
なぜ中国資本は、あえて基地周辺に執着するのか。
専門家が指摘するのは、物理的な攻撃よりも「静かなる侵略」だ。
基地に隣接する土地に高層ビルや通信施設が建設されれば、電波傍受やレーザーによる妨害、さらには隊員の出入りや装備の監視が容易になる。
いわば、日本の防衛網の内部に「合法的な観測拠点」を確保することに他ならない。
現場の自衛官や地域住民の間では、募る不安と、実効性の伴わない対策への渇望が渦巻いている。
一方で、地元の経済界からは、過度な規制が不動産価格の下落や投資の停滞を招くという懸念の声も上がる。
経済的利益と国家の安全。
この二律背反する課題の中で、日本は今、どの国も当たり前に行っている「自国の領土を守る」という基本に立ち返ることが求められている。

画像 : 防衛省市ヶ谷庁舎(東京都) 重要施設周辺等注視区域の代表例 wiki c 本屋
未来への展望と真の統制
土地は一度奪われれば、取り戻すことは極めて困難だ。
中国資本による買収劇は、日本の法整備の甘さと、安全保障に対する意識の低さを浮き彫りにした。
今後、注視区域の拡大や、より厳格な所有権の制限に踏み込めるかどうかが、日本の主権を守る試金石となるだろう。
政府は「自由な取引」を尊重しつつも、国家の根幹を脅かす動きに対しては、断固とした統制を敷く覚悟が必要だ。
見えない監視の目が日本の防衛力を蝕む前に、私たちは足元の土地が誰の手に渡っているのか、今一度直視しなければならない。
参考 : 内閣府『重要施設周辺等における土地・建物の取得状況(令和6年度)』他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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