国際情勢

「かつては親米だったイラン」なぜ米国・イスラエルの宿敵になったのか

中東情勢のニュースを読み解く上で、米国・イスラエル連合とイランの対立構造を理解することは不可欠である。

現在でこそ激しく火花を散らす三者だが、歴史を遡れば、かつては緊密な協力関係にあった時期も存在する。

なぜ彼らは「宿敵」となったのか。
その背景には、一国の運命を塗り替えた革命と、地政学的な野心の衝突がある。

かつての蜜月関係とイラン革命の衝撃

画像 : イラン革命 イランに帰国したホメイニー師 public domain

1979年以前のイランは、現在とは正反対の姿を見せていた。

当時のパフラヴィー朝は、中東における米国の最重要パートナーの1つであり、イスラエルとも非公式ながら石油供給や軍事協力を行う良好な関係を築いていた。

米国はイランを「安定の島」と呼び、最新鋭の武器を供与して共産圏への防波堤としていたのである。

しかし、1979年の「イラン革命」がすべてを根底から覆した。

親米・世俗主義の国王が亡命し、ホメイニ師率いるイスラム体制が樹立されると、イランは「反米・反イスラエル」を国家のアイデンティティに据えた。

米国は「大サタン」、イスラエルは「小サタン」と指弾され、同年にはテヘランの米国大使館人質事件が発生。

これにより米イランの外交関係は完全に断絶し、イスラエルとの協力関係も崩壊したのである。

「シーア派の弧」とイスラエルの生存本能

画像 : 国ごとのイスラム教の分布(緑色系はスンナ派、赤褐色系はシーア派、青紫色はイバード派)Baba66 CC BY-SA 3.0

革命後のイランは、イスラム革命の輸出を標榜し、中東全域で反イスラエル・反欧米の武装組織を支援し始めた。

レバノンのヒズボラやパレスチナ武装組織への支援は、その代表例である。

イスラエルにとって、自国の生存を脅かす勢力を背後で操るイランは、最大の「実存的脅威」となった。

さらに、イランがイラクやシリア、イエメンへと影響力を拡大し、いわゆる「シーア派の弧」を形成したことで、イスラエルの安全保障上の危機感は決定的なものとなった。

かつてはアラブ諸国との対立が中東の主軸であったが、現在は「イランとイスラエル」の対立こそが、地域の火種となっているのである。

核開発問題と終わりの見えない制裁

画像 : イラン新最高指導者モジタバ・ハメネイ師(Mojtaba Khamenei)public domain

2000年代以降、対立をさらに激化させたのがイランの核開発問題である。

イスラエルと米国は、イランが核兵器を保有すれば中東の軍事バランスが崩れ、イスラエルの消滅に繋がりかねないと危惧した。
米国は強力な経済制裁を課してイランを締め付け、イスラエルはサイバー攻撃や科学者の暗殺、施設の破壊工作といった「影の戦争」を展開しているとされる。

2015年には核合意(JCPOA)が成立し、一時的な緊張緩和が見られたものの、トランプ政権による米国の離脱と制裁再開により、関係は再び最悪の状態に陥った。

イランはこれに対抗してウラン濃縮を加速させ、その水準が核兵器級に近づいていることに国際社会は強い懸念を示している。

構造的な敵対関係のゆくえ

現在の米国・イスラエルとイランの関係は、単なる政策の不一致ではなく、体制の存立を懸けた構造的な敵対関係にある。

米国にとっては覇権への挑戦者であり、イスラエルにとっては生存を脅かす宿敵、そしてイランにとっては革命の理念を阻む障壁なのだ。

この三者のパワーゲームは、ドローン攻撃や報復の連鎖という形で、今もなお世界経済と平和を揺さぶり続けている。

一度崩れた信頼関係を再構築するのは容易ではなく、中東の空に立ち込める暗雲が晴れる兆しは、今のところ見えていない。

参考 :
Jimmy Carter, “Toasts of the President and the Shah at a State Dinner in Tehran, Iran,” December 31, 1977, The American Presidency Project.
・U.S. Department of State, Office of the Historian, “The Iranian Hostage Crisis – Short History.
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

  • Xをフォロー
好きなカテゴリーの記事の新着をメールでお届けします。下のボタンからフォローください。
アバター画像

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

    • 名無しさん
    • 2026年 3月 29日 9:03am

    なぜイラン革命がイラン国民に支持され成功し、反米政権の樹立に繋がったのかという点を解説していただきたかった。
    何故反米になったのか?→イラン革命があったから、では何も分かりません。
    大方アメリカがいつも通り自己都合を世界の絶対正義といって押し付け続けたとかそんな所かとは思いますが。

    0 0
    50%
    50%
  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 習近平氏が「台湾制圧」を目論む本当の狙いとは?
  2. 安倍晋三氏の外交的レガシーを振り返る 〜トランプ氏の親友となった…
  3. 「世界一幸せな国」ブータンを侵食する中国による経済的侵攻
  4. 『ホンダの中国・広州EV工場新設』背後に潜む「地政学リスク」の火…
  5. 中国が目論む、海洋軍事戦略「第三列島線」とは?
  6. トランプ大統領がウクライナ戦争を解決できない決定的理由とは?
  7. 今後10年で、中国の軍事力はアメリカを追い抜くのか?
  8. なぜイランで「反政府デモ」が起きたのか?2万人拘束、死者5千人超…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

【古代中国で高身長だった人物】 関羽、張飛、始皇帝、孔子…何センチだった?

背が高い中国の歴史上の人物中国の歴史において、身長が高い人物として挙げられるのは、三国志の関羽や…

州史上最悪の虐待を生き延びた「Itと呼ばれた子」 ~10日間の絶食、排泄物を食べさせられる

弟の排泄物を食べさせられ、毒ガスの浴室に閉じ込められる1960年代のカリフォルニアに、母親か…

サブスクリプションサービス 【○○し放題 5選】

サブスクリプション(サブスク)型サービスは、音楽や動画の分野が際立っていましたが、今ではコンテンツ以…

ウクライナ戦争によって「第3次世界大戦」の火種が再び欧州に忍び寄る?

ウクライナ戦争が泥沼化する中、衝撃的な展開が世界を揺さぶっている。2025年、トランプ大統領…

戒律か、母の命か…『前賢故実』に名を残した“名もなき英雄”僧某(ナニガシ)のエピソード

よく「歴史に名を刻む」などと言いますが、いくら名ばかり刻んだところで中身がともなわなければ空しいもの…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP