奈良公園周辺の観光名所といえば、興福寺・東大寺・春日大社がまず思い浮かぶでしょう。
そして何度も奈良を訪れている方であれば、元興寺を中心とした、いわゆる「ならまち界隈」を歩くのが定番となっています。
今回は自称奈良通の筆者が、近鉄奈良駅の北側に広がるエリアで、地元では「歴史のモザイクの街」として観光PRが行われている「奈良きたまち」を実際に散策し、その魅力を紹介していきます。
「きたまち」とは
「きたまち」も、ならまちと同様に、行政上の町名ではなく、地域を指す通称・愛称です。
おおよそ、近鉄奈良駅や奈良県庁のある通りより北側に位置し、東側は東大寺転害門のある一帯、西側へと広がるエリアを含み、北は般若寺周辺までを指すのが一般的です。
訪れる人の少ない東大寺転害門

画像:東大寺転害門 筆者撮影
県庁などの官庁街が並ぶ一帯から北へ進むと、東大寺転害門(てがいもん)が姿を現します。
三間一戸八脚門の形式をもつ堂々とした門で、国宝に指定されている貴重な建造物です。
奈良時代に創建された東大寺伽藍の姿を現在に伝える、現存する数少ない遺構の一つとして知られています。
転害門は、大仏殿などの主要伽藍からは北西側に位置し、やや離れているため、訪れる観光客は多くありません。
その分、訪れる観光客は少なく、穴場スポットといえるでしょう。(ボランティアがガイドしてくれます)
この門は、平城京の幹線道路であった佐保路に面していたことから「佐保路門」とも呼ばれています。
また、源頼朝を討とうとして平景清が身を潜めたという伝説にちなみ、「景清門」の名でも知られています。
奈良女子大学の重要文化財建造物
近鉄奈良駅から商店街を北へ進むと、西側に奈良女子大学の広大なキャンパスが広がります。
奈良女子大学は、東京のお茶の水女子大学と並ぶ、国立の女子大学として知られています。
構内には、平成6年(1994年)に重要文化財に指定された守衛室(附・正門)と記念館があります。
なかでも記念館は、明治42年(1909年)に竣工した木造建築で、奈良女子大学を象徴する建物の一つです。
現在も保存状態は良好で、定期的に一般公開が行われています。

画像:奈良女子大学正門 筆者撮影
この奈良女子大学一帯は、江戸時代に幕府直轄地であった奈良の町を統治するため、奈良奉行所が置かれていた場所としても知られています。
花の寺・コスモス寺として有名な般若寺
般若寺は、東大寺の北に位置する寺院です。
境内は大きくありませんが、国宝や重要文化財に指定された建造物を有し、歴史的価値の高い寺として知られています。

画像:般若寺の楼門 筆者撮影
般若寺の創建は、飛鳥時代に高句麗出身の僧・慧潅(えかん)が、この地に精舎を開いたことに始まると伝えられています。
奈良時代には、聖武天皇の時代に大般若経が地中に納められ、卒塔婆の建立や伽藍の整備が進められたとされ、寺号もこの頃に「般若寺」と称されるようになりました。
創建当初の建造物は失われましたが、鎌倉時代に再興され、現在の境内にはその時代に造営された建造物が残されています。
国宝の楼門をはじめ、重要文化財に指定されている十三重石塔、笠塔婆、一切経蔵などが集まり、規模こそ大きくないものの、きわめて密度の高い文化財群を形成しています。
こうした歴史的価値に加え、般若寺は「花の寺」「コスモス寺」としても広く親しまれてきました。
春のヤマブキに始まり、夏には紫陽花や初夏咲きのコスモス、秋には境内を彩るコスモスが見頃を迎え、冬には水仙が咲き誇ります。
四季を通じて花を楽しむことができ、とりわけ秋にはコスモスを目当てに多くの参拝者が訪れます。
般若寺の西にある小さな牧場
般若寺の楼門と道を挟んだ西側には、小さな牧場があります。
周辺は住宅街で、その中にポツンとある乳牛が飼われている小さな牧場で「植村牧場」という名です。
牧場の一角では、ここで搾られた牛乳や、それを使ったソフトクリームが販売されています。
散策の途中に立ち寄り、ベンチで座りながら新鮮な乳製品を味わうことができるため、般若寺の参拝後に休憩されるとよいでしょう。
2026年6月にホテルとして開業する元奈良少年刑務所
植村牧場から少し南へ進み、西に折れると、周囲の住宅街とは対照的な静まり返った空間の中に、旧奈良少年刑務所の建物が現れます。
これは明治時代末期の1908年に建設された、煉瓦造りの監獄建築です。
当時整備された「五大監獄」の系譜に連なる施設の一つで、原位置において大規模な建築群が良好な形で残されている点はきわめて貴重とされています。
その歴史的価値が評価され、2017年には重要文化財に指定されました。

画像:元奈良少年刑務所 筆者撮影
老朽化により少年刑務所としての役割を終えた後、この施設は民間に譲渡され、保存活用を前提とした再整備が進められてきました。
数年にわたる改修工事を経て、歴史的建築の意匠を生かしたホテルとして活用されることが決まり、2026年初夏の開業が予定されています。
これまで外観を眺めることしかできなかった建物内部も公開される予定で、歴史的空間を体感しながら滞在や見学を楽しめるようになります。
併設された施設で休憩や飲食を楽しむこともでき、きたまち散策の新たな立ち寄り先として注目される存在となりそうです。
終わりに
「奈良きたまち」を歩いてみると、多様な時代の文化財が折り重なるように残されていることが実感できます。
いろいろな場所を巡ることで、この一帯が「歴史のモザイクの街」と呼ばれてきた理由も、自然と腑に落ちてきます。
主要な観光地から少し足を延ばすだけで、奈良のもう一つの表情に出会えるのが、きたまち散策の魅力といえるでしょう。
参考 :奈良街道町づくり研究会『奈良きたまち 歴史のモザイク』他
文:撮影 / 草の実堂編集部
























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