先刻、インターメディアテク日本郵便+東京大学=入場無料(これはイベント名なのだろうか?)を見学してきました。
会場内には、東大生たちが収集したと見られる珍しい品々が、所狭しと展示されています。
その中の一つがこちら。

画像 : バウレ族の杖・全体(筆者撮影)
バウレ族の杖
年代未詳/コートジボワール/木/個人蔵
バウレ族は彫像の技巧に優れた民族である。これは単に杖としての機能や形状を超えて、さまざまな象徴性や神話性が付加された造形物となっている。
※会場の展示より。
解説はこれだけ。
後は杖の現物が高々とそびえ立っています。
いきなり「バウレ族は……」なんて言われても……まったく、にわかに興味が湧いてしまったではありませんか。
と言うわけで、今回はアフリカのコートジボワールに生きるバウレ族(baoulé)について調べてみました。
バウレ族とは

画像 : バウレ族の男性。杖の彫刻より(筆者撮影)
バウレ族は、西アフリカ(大西洋沿岸)のコートジボワールにおける最大規模(1975年時点で約130万人)の民族集団で、クワ語派に属する「バウレ語」という独自の言語を話します。
※ちなみにコートジボワールの公用語はフランス語。過酷な植民地支配の名残ですが、公用語がないと民族間での会話が成立しません。
バウレという名称には、悲しい由来が伝わっているそうです。
かつて彼らは、コートジボワールより東のガーナ地域に住んでいました。
しかしアシャンティ族の襲撃を受けて故郷を終われ、女王ポクまでが全力で逃げねばならなかったといいます。
女王ポクは逃走中に(足手まといになる)我が子を水中へ投げ入れ、辛くも生き延びることができました。
これは「二人とも捕まり、結局なぶり殺しにされるくらいなら、せめて母の手で我が子を死なせよう」という親心だったのでしょうか。
そこまで追い詰められるほどの極限状況だったようです。
以来、この民族は「子供が死んだ」=バウレ族と称するようになりました。
ちなみにバウレ族が現在の居住地域に落ち着いたのは、西暦1800年ごろだそうです。
仮面舞謡「ゴリ」とは

画像:バウレ族の仮面(ゴリ・パンプレ)CC0
バウレ族の伝統芸能として「ゴリ」と呼ばれる仮面舞謡が知られています。
このゴリは、ワン族から20世紀初頭(1900〜1910年ごろ)に伝えられ、踊りに添えられる謡もワン語によるものです。
ゴリは葬儀や娯楽など、折々に催され、バウレ族の暮らしを彩ってきました。
舞い手は独特な仮面を装着し、全身にラフィア椰子などの葉をまとい衣裳としています。
ゴリに用いる仮面には意味があり、それぞれの名称と役割がこちらです。
・プレプレ(若い男性)
・ゴリグレン(年配男性)
・パンプレ(若い女性)
・パン(年配女性)
上演に際しては、基本的にこの順番で登場。
これは社会の序列を表すとも言われるそうですが、社会的に男尊女卑だったのかも知れませんね。
①若い男性:労働力および戦力。
②年配男性:若い男性の補助。
③若い女性:次世代人材の供給。
④年配女性:若い女性の補助。
※考え方は私見です。当のバウレ族が性別や年齢をどのように考えているかは分かりません。
ただし例外もあるそうで、ベウミで催されたゴリでは、パンプレ・ゴリグレン・プレプレ・パンの順番で登場したとか。
何だか「若い女性を年配男性が追いかけ、後から(事態を収拾するため)若い男性と年配女性が追いかける」ようにも見えますね。
あるいは「若い男性も、年配女性に追いかけられている」のかも……。
ちなみに、ゴリで用いられる仮面は、伝統工芸品や美術品として販売もされているそうです。
もしご興味のある方は、コートジボワール土産にいかがでしょうか。他人様への贈り物にされる時は、事前に確認されることをおすすめします。
バウレ族の杖を観察
前置きが長くなりましたが、それでは展示されていた「バウレ族の杖」を観察してみましょう。
長さはざっくり140〜150センチ。太さは握り手が4〜5センチ、膨らんだ部分で10センチ前後といったところ。
※本当にパッと見なので、何となくのイメージ程度でお願いします。
デザインは上から順に以下の通り。

画像 : バウレ族の杖を後方から観察。上から男性・敷板・壷・女性……と続く(筆者撮影)
①座った男性(あごヒゲを生やしている)
②敷き板(壷の上にモノを載せる=今回は男性が座る都合と、造形上の強度を確保する都合)
③壺(ここが持ち手?背の高い人用?)
④座った女性(胸部が突起している)
⑤壺(ここも持ち手?背の低い人用?)
⑥土台(以下の意味合いについては不明)
よく女性が頭に壺を載せて運んでいるのを見ますが、そのバリエーションでしょうか。
あるいは、先ほどのゴリでも見られたような男性優位を可視化しているのかも知れませんね。

バウレ族の女性。杖の彫刻より拡大(筆者撮影)
じっくり見ると男女で髪型が共通しており、大きく二つに束ねた房を角のように結い上げる個性的なスタイルが印象的です。
それぞれの腹部を見ると、装身具のような突起が削り出され、身体に巻きついて見えます。これはベルトや衣裳のふちでしょうか。
また、胸元にも刻み込まれた模様があり、首周りにも装飾を施していたようです。
そして土台部分の幾何学的な模様は、それぞれ意味があるのでしょうか。あるいは単に感性のまま刻み込んだのかも知れません。
何とも言えない不思議なオーラを感じますが、果たしてこの杖は何かの儀式に使われていたのか、あるいは呪術に……想像が膨らみます。
外観から色々と推察してみましたが、今後の究明に期待しましょう。
参考 :
・小川弘『アフリカのかたち POWER OF FORM African Art in Japanese Collections』里文出版、1999年8月
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部























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