中国海軍は近年、目覚ましい速さで増強を続けている。
特に注目すべきは、保有する航空母艦(空母)の数の増加である。
既存の「遼寧」と「山東」に続き、2022年6月には3隻目となる「福建」(Fu Jian)が進水し、その後複数の海上試験を経て、2025年11月には正式に就役した。

画像 : 中国海軍の空母「福建」の飛行甲板(2025年11月撮影) China News Service / CC BY 3.0
福建とは
「福建」は、中国が初めて独自設計・建造した空母であり、その能力はこれまでの2隻を大きく上回るとされる。
最大の特徴は、カタパルト(射出機)として最新の電磁式航空機発艦システム(EMALS)を採用している点だ。
これにより、より重い機体を、より短い間隔で発艦させることが可能となり、戦闘能力が飛躍的に向上する。
従来空母ではJ-15を16機発艦させるのに20分以上必要だったのに対し、福建では5分以内で完了できるとされ、持続的な航空作戦能力が飛躍的に向上している。
艦橋も新設計で、ステルス性と視認性を両立した小型構造を採用している。格納庫の効率化やエレベーター幅の拡大など、航空運用に重点を置いた設計が随所にみられる。
搭載機は常用で40機規模、最大では70〜80機程度に達するとの見方が有力だ。
中国の空母保有数が3隻体制となることは、単なる数の増加以上の意味を持つ。
これにより、中国海軍は、複数の海域で同時に、あるいは交代で空母を展開する能力、すなわち持続的な作戦遂行能力を獲得することになる。
この能力は、台湾海峡や南シナ海、さらには西太平洋において、中国が軍事的影響力を拡大させる上で重要な基盤となる。

画像 : 中国軍の空母「遼寧」(りょうねい)wiki c Baycrest
東アジアの勢力図と自衛隊の対応
中国の空母増強は、東アジアの安全保障環境を劇的に変化させている。
特に日本にとって、中国空母の活動範囲の拡大は、南西諸島を含む日本の防衛体制に直接的な影響を及ぼす。
海上自衛隊(海自)は現在、中国の空母機動部隊に対する直接的な「空母対空母」の戦闘能力は保有していない。
海自の主要な防衛手段は、強力なイージス艦を中心とした艦隊防空能力と、潜水艦部隊による水中戦能力にある。
特に、最新鋭のイージス艦や、将来的にF-35B戦闘機を搭載予定のいずも型護衛艦(事実上の軽空母化)が、中国の空母打撃群に対する迎撃・監視の主要な役割を担うことになる。
しかし、3隻体制となった中国空母に対応するには、情報収集・警戒監視(ISR)の負担が格段に増大する。
中国の空母の位置を常に把握し、その行動を予測するためには、より多くの哨戒機や無人機、情報収集艦を投入する必要がある。

画像 : 中華人民共和国の航空母艦「山東」 wiki © Tyg728
日米同盟の強化と新しい防衛構想
自衛隊が中国の空母群という新たな脅威に対応するためには、単なる装備の増強だけでなく、日米同盟のより一層の強化と、新たな防衛構想の確立が不可欠となる。
特に、米国海軍の原子力空母(CVN)との連携は、抑止力を維持する上で極めて重要である。
日米共同での統合防空・ミサイル防衛(IAMD)体制の強化は、中国の空母艦載機や長距離対艦ミサイルに対する有効な対抗策となる。
また、自衛隊自身の能力として、スタンド・オフ防衛能力(敵の射程圏外から攻撃できる能力)の向上が急務である。
長射程の巡航ミサイルなどの配備は、中国空母が日本の近海へ接近することを躊躇させる、重要な抑止力となり得る。
さらに、宇宙やサイバーといった新領域での優位性確保も、空母のような従来の兵器システムを無力化する上で、今後ますます重要となるだろう。
結論として、中国の空母3隻体制は自衛隊にとって厳しい現実を突きつけるが、日米同盟の統合運用と非対称な防衛能力の強化によって、その脅威に対応し、地域の安定を維持する道筋は見えている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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