国際情勢

『中国の極秘戦略?』日本海から海洋進出を目指す「第二の出口」戦略とは

画像 : 左が第一列島線、右が第二列島線 public domain

中国の海洋進出戦略を理解する上で、地理的な制約は非常に重要な要素となる。

中国は東部において広大な海岸線を持つ一方で、海洋に出る際の主要な出口は、台湾や南西諸島などが連なる第一列島線によって文字通り蓋をされている状態である。

この列島線を力ずくで突破することは、中国海軍(PLAN)にとって戦略上の最優先課題の一つであるのは周知の事実である。

しかし、もう一つの、これまであまり国際的に注目されてこなかった裏口が存在する。

それが、中国東北部の吉林省にある図們江(とんめんこう)ルートである。

画像 : 図們江(とんめんこう ※日本語では豆満江)public domain

図們江は、北朝鮮とロシア、そして中国の国境が接する「三国国境点」を流れ、下流では北朝鮮とロシアの国境地帯を経て日本海へと注いでいる。

この河口部は日本海にきわめて近く、中国領土から見れば、数キロメートル先に日本海が広がっているのである。

中国は過去に、図們江を通じて日本海への航行を模索し、航行が行われた時期もあったが、現在は河口付近を北朝鮮とロシアが管轄しているため、大型船の自由な航行は事実上できていない。

中国にとって、この「日本海への出口」を確保することは、太平洋への出口を封鎖され続けている現状を打破し、日本海という戦略的に重要な海域へ進出するための切実な夢となっているのである。

一帯一路の隠された駒 〜日本海進出の地政学的思惑

画像 : 2018年時点の一帯一路主要プロジェクト地図。鉄道、パイプライン、港湾、発電所の分布を示す『Infrastrukturatlas』 CC BY 4.0

中国の習近平政権が掲げる巨大な経済圏構想「一帯一路」は、陸路と海路を通じて中国の影響力を世界中に拡大することを目的としている。

この壮大な計画の中で、図們江周辺の地域開発、特に長吉図(長春、吉林、図們)開発計画は、中国の日本海への野心を色濃く反映している。

中国は、北朝鮮やロシアといった隣接国との連携を深めながら、図們江の浚渫(しゅんせつ)や航行権の交渉を水面下で進め、日本海へのアクセスを確保しようと試みている。

仮に航行条件が緩和され、日本海へのアクセスが実質的に確保されるようになれば、中国は東シナ海に加え、日本海方向からも影響力を及ぼし得る立場を得ることになる。

これは、中国にとって極めて有利な両面作戦を可能にする戦略的状況を生み出すことになる。

日本海は、日本、韓国、ロシア、北朝鮮の利害が複雑に絡み合う海域であり、その安定は地域の平和に直結している。

中国の海洋進出は、単なる経済的な活動にとどまらず、地域の軍事バランスにも劇的な変化をもたらす可能性を秘めているのである。

画像 : 中露朝国境地帯 (防川風景区内の展望台にある三カ国辺境記念)Senkaku Islands CC BY-SA 4.0

自由への渇望と「強国」の野心 〜国際秩序への挑戦

中国が日本海への進出を目指す背景には、「自由な海洋活動への渇望」がある。

前述の第一列島線による封鎖からの脱却は、中国の経済成長と軍事力強化に不可欠な要素だと政府は考えている。

しかし、この「渇望」は、中国共産党政府の厳格な統制と国家戦略のもとに、国益最優先で推進されている点に注意が必要である。

国際的な海洋秩序に対する中国の姿勢は、南シナ海での人工島建設などに見られるように、国際法よりも自国の利益を優先する傾向が強い。

図們江ルートの開通は、中国の海洋進出戦略の新たな柱となり、日本海という新たなフロンティアでの活動を可能にする。

日本としては、中国の動向を厳しく注視し、ロシアや北朝鮮との連携の行方を見極めるとともに、国際的な協力体制を強化していくことが求められる。

中国の日本海戦略は、極東アジアの安全保障環境を根底から変えうる、我々にとっての重大な変化なのである。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター画像

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 自衛隊に迫る“最大の敵”は少子高齢化? 今後の3つの解決策とは
  2. 香港の『自由』はこうして終わった ~国安法から5年で中国化、次は…
  3. 【関税15%】赤澤大臣の「トランプ詣で」が決着 ~浮き彫りになっ…
  4. トランプ政権のイラン空爆が「台湾有事」にも波及? 〜緊迫する2つ…
  5. 中国人富裕層がタワマンを爆買いする理由とは? ~安全保障上の3つ…
  6. かつて安倍元首相が掲げた「インド太平洋構想」の課題とは?
  7. 『20世紀前半』なぜ日本は軍国主義に走ってしまったのか?
  8. 『中国の悲願』タイの「クラ運河」計画とは? 東洋のパナマ運河への…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

【マネ危険】常温で2日放置しちゃった冷凍カツオ。食ってみたらどうなった?【実体験】

皆さん、カツオ(鰹、松魚)は好きですか?筆者もカツオが大好物で、回転寿司に行くとカツオが回っ…

【皇后、娼婦になる】一晩で25人を相手した古代ローマ帝国の悪女

古代ローマには、「快楽に溺れた愚かな皇后」として後世に語り継がれ、スキャンダルの象徴となった…

たった20分の王座?フランス7月革命「王になれなかった王たち」の悲劇

歴史は、しばしば勝者によって語られます。しかしその陰には、時代の波に翻弄されながらも、表舞台…

【ヨーロッパで最も危険な男】 オットー・スコルツェニー

ヨーロッパで最も危険な男オットー・スコルツェニー (1908年生〜1975年没)は、第二…

地球温暖化について調べてみた

地球温暖化 とは?まず、地球温暖化とは何だろうか。「地球の気温が上昇すること」というのは、確…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP