「ネズミ人間」

画像 : ネズミ イメージ
中国では「老鼠人(ラオシューレン)」という言葉が流行しているという。
「老鼠」とは中国語でネズミを指す口語表現で、直訳すれば「ネズミ人間」となる。
この言葉は、近年の中国のネット空間で広まった流行語の1つであり、特定の若者像や生き方を表す呼称として用いられている。
では、実際に「老鼠人」とは、どのような人々を指しているのだろうか。
中国の経済不況

画像 : 北京市街地 N509FZ CC BY-SA 4.0
2025年、中国経済の減速については国内外で多く報じられている。
とりわけ深刻視されているのが、若者層の雇用情勢だ。
国家統計に基づく報道によれば、2025年8月時点で、学生を除く都市部の16〜24歳の失業率は18.9%に達し、2023年末以降で高水準となった。
また、25〜29歳の失業率も約7.2%と、若年層から若手層にかけて厳しい雇用環境が続いている。
こうした状況の背景には、不動産不況、投資の停滞、消費の低迷など、複数の要因が重なった経済成長の鈍化があると指摘されている。
その中で、将来への展望を描けず、社会から距離を取る生き方を自嘲的に表現する言葉として、「老鼠人」が注目を集めるようになったのである。
流行りのネットスラング

画像 : 老鼠人(ネズミ人間)イメージ 草の実堂作成(AI)
「老鼠人(ネズミ人間)」とは、中国のSNSや動画投稿サイトを中心に使われているネットスラングである。
一般に、欲求や活力が低下し、長時間を自室で過ごす生活を自嘲的に表現する若者像を指す言葉として用いられている。
一日の大半を家の中で過ごし、食事はデリバリーに頼り、昼夜逆転の生活を送りながらスマートフォンを見続ける。
そうした状態を自ら「老鼠人(ネズミ人間)」と呼ぶことで共感を集めているのだ。
この言葉は、かつて流行した「躺平族(タンピンぞく ※寝そべり族)」と重なる部分を持つが、同一ではない。
「躺平族」は、過度な努力や競争から距離を取る姿勢を示す価値観表現であったのに対し、「老鼠人」は、努力したくても前向きになれない無力感や、疲弊感をより強くにじませている。
厳しい競争社会や就職難の中で、努力が報われないという感覚を抱えた若者たちが、社会との接触を最小限に抑え、暗い巣の中で静かに生き延びる自分自身を「ネズミ」に重ね合わせて語っているのである。
ネズミ人間の特徴
「ネズミ人間」と自称する人々の投稿から、しばしば挙げられる特徴をいくつか挙げてみよう。
●昼夜が逆転している
夜間にスマートフォンを見続けるなど、夜を中心に活動する生活リズムを送っている。
●スマートフォン中心の生活
情報の発信よりも閲覧が中心で、長時間スマートフォンに向き合う生活を送っている。
●「疲れた」が口癖
身体的というよりも精神的な消耗感を強く感じており、「疲れた」という言葉が口癖となっている。
●手の届く範囲に「巣」を作る
ベッド周辺など、生活空間を最小限にまとめ、自分にとって快適な「巣」を整え、その中からあまり出ない生活を理想とする。
ネズミ人間の増殖

画像 : 老鼠人(ネズミ人間)イメージ Danny Choo Creative Commons Attribution-Share Alike 2.0
2025年以降、中国のネット空間では「老鼠人」をめぐる投稿や関連動画が急速に拡散した。
報道によれば、関連ハッシュタグの閲覧回数は累計で約20億回に達したとされている。
もちろん、これらすべてが実際に自らを「ネズミ人間」と認識している人々を意味するわけではない。
しかし、「自分も同じだ」と共感を示す投稿が相次ぎ、そのライフスタイルを共有・再現する動画やコメントが次々と生まれていった。
こうした広がりの中で、「老鼠人」の生活を前提とした消費も可視化されるようになる。
「ネズミ人間向け」と銘打たれた商品がネット通販に登場し、ベッド周辺で使うぬいぐるみや抱き枕など、「巣」を快適にするグッズが注目を集めている。
「老鼠人(ネズミ人間)」とは、単なる流行語ではなく、現代中国の若者が直面する雇用不安や将来への閉塞感を映し出したライフスタイル表現であり、その広がり自体が、いまの中国社会が抱える課題を物語っていると言えるだろう。
参考 : China slang term ‘rat people’ for those who shun success, attracts 2 billion views 他
文 / 草の実堂編集部























この記事へのコメントはありません。