エジプト第二の都市、『アレクサンドリア』。
マケドニアの王、アレキサンダーによってこの街が建設されたのは紀元前332年のことである。
アレキサンダー亡き後は、部下であったプトレマイオス1世が古代エジプト最後の王朝、『プトレマイオス朝』を創始した。やがて、前1世紀には30万人が住む都市へと発展する。
そのアレクサンドリアが近年、考古学者たちを歓喜させている。
古代のアレクサンドリアは、相次ぐ地震により地盤沈下や津波に襲われ、多くの建築物が海に沈んだ。だが、1992年からの調査を皮切りに、かつての姿を知る手掛かりが次々と発見されているのだ。
世界の結び目
※アレクサンドリア(Google Earthより)
アレクサンドリアは地中海に面し、東西に2つの内湾を持つのが特徴である。東側の綺麗に囲まれたのが古代の「大港(ポルトス・マグヌス)であり、ここに重要な施設が集中していた。ナイルの支流や運河を通して国内の余剰穀物を集めては、海外へと輸出する。地中海でも有数の貿易都市だったのである。
最盛期にはその人口は100万人以上ともいわれ、「世界の結び目」とも称された。現在では、その歴史的背景から、欧州の文化を融合した雰囲気を持つ街に発展しており、さらに観光都市、商業都市としても発展しているため、「地中海の真珠」とも呼ばれている。
しかし、現在の街の様子から、古代エジプト時代の繁栄を偲ぶのは難しい。古代の遺構はその大半が現在の都市の下に埋もれているため、発掘調査が困難だった。そこで注目されたのが港である。
大港の内側
※ファロスの大灯台
古代の大港の内側には宮殿、港、神殿などがあり、その入り口を守るように海峡にはファロスの大灯台が建っていた。
『ファロスの大灯台』は、フィロンの「世界の7不思議」のひとつとして有名な巨大な灯台のことである。一説には高さが120mもあり、30km先からもその明かりが見えたという。実際には湾内にあるファロス島に建てられ、島と港は埋め立てた通路で結ばれていたという。
当時の技術では、その高さの塔を建設するのは難しいようにも思えるが、13世紀の記録にもその構造が記されているため、実在していたと考えられる。ローマ時代にはその頂点にギリシア神話に登場する「海神トリトン」の彫像が収められていたといわれ、2世紀頃のローマ通貨にも大灯台が刻まれていた。
しかし、その大灯台も14世紀に起きた2度の地震により全壊してしまったという。
※ローマの通貨
アレクサンドリアの街並み
※現在のアレクサンドリアの街並み
古代ローマの歴史家ストラボンの記述では、街は直角に交わる2つの通りを中心に広がり、北側には王宮や学術研究所「ムセイオン」などが建ち並び、南側には神殿や公共の施設が建てられていたという。ムセイオンには有名な「アレクサンドリア図書館」が建てられ、数学、物理学、科学、医学、地理学、哲学など最先端の研究・学問の場として多くの優秀な人材が集った。
アルキメデスやユーグリットなども在籍していたといわれる。アレクサンドリアは学園都市でもあったのだ。
アレキサンダー大王を始めとする王の墓も、街の北側にあったとされるが、その後の略奪などによって現在では正確な位置はわかっていない。
しかし、大港には大灯台や、プトレマイオス朝最後の女王「クレオパトラ」の宮殿があったといわれており、海中を探査することで、遺構が見付かる可能性が高いと思われていた。
クレオパトラの海中神殿
※カーイト・ベイ要塞
1992年、ヨーロッパ海洋考古学研究所所長のフランク・ゴディオは、アレクサンドリア港の探査に最新機器を投入して調査を始めた。
そこにフランスやエジプトの考古学者らも加わり、海中からは多くの遺物が発見されたのだ。1998年には小型のスフィンクスや、クレオパトラの憩いの場とされる小宮殿跡からはイシス神殿の神官の美しい像が発見され「クレオパトラの海底神殿を発見」と大きな話題となった。
さらに古文書と照合して当時の詳細な地図の作成にも成功。今では湾内には何も見当たらないが、かつてそこに存在していた小島や宮殿、埠頭、防波堤など多くの施設の位置が判明した。
また、クレオパトラの海中宮殿が湾の南東部に位置するアンティロドス島(現在は沈下している)に建設されていたこともこのときに発見されたものだ。クレオパトラがユリウス・カエサルを称えて建てたといわれている。
現在でも調査は続いており、同チームはアレクサンドリアだけではなく、周辺の都市にまで対象エリアを広げようとしている。また、かつて大灯台があった場所には、大灯台の残骸を利用して15世紀に建造されたというカーイト・ベイ要塞があり、近くの海底から大灯台の遺物が見付かる可能性も高いだろう。
最後に
アレクサンドリアが建設されるまでは、地中海貿易の中心は東のカノプス地域の都市が担っていた。アレクサンドリアの誕生によりこれらの都市は首都と運河で結ばれ繁栄したが、これらの都市も地震などで水没してしまった。
ヨーロッパ、オリエント、エジプトの文化が融合し、古代において稀に見る繁栄を見せた都市だけに、今後の調査結果にも大いに期待したい。
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