約140年前にトーマス・エジソンが実用化に成功した蓄音機は、世界で初めて録音再生を可能とした画期的な機器だった。
それから、わずか2世紀もたたずに音楽はデジタルに変換され、CDという直径12cm、厚さ1.2mのプラスチックのディスクに収められるようになった。今ではネット配信が広く普及してそのCDも落日の憂き目にあっている。しかし、今、アナログなレコード盤の市場が勢いを取り戻してきた。なぜレコードブームは再燃化してきたのか?
レコード人気の背景には、どのような理由があるのか調べてみた。
若手アーティストのアナログ盤が続々と
アナログレコードの市場はまだまだ小さい。だが、2007年に約6億円、2009年には約2億円というレベルまで落ち込んだのが、2016年には15億円近くまで驚きの回復を見せた。パッケージ(CD、レコード盤)全体では、2007年に約4,000億円、2016年には2,400億円に落ち込み、配信市場も2007年の750億円から2016年には530億円とどれも縮小しているが、レコードだけはわずかながら上昇している。
2017年には、ソニーが29年ぶりにレコードを自社生産するという驚きの動きを見せ、アーティストも「サカナクション」「星野源」「きゃりーぱみゅぱみゅ」「Perfume」など若い世代を中心に、CDとアナログ盤を同時発売するケースが増えてきた。
とはいえ、アナログ盤を聴くにはレコードプレーヤーも必要で、楽しむ場所も室内に限られてしまう。それなのになぜ、こうした変化が起きているのだろう。
若い世代に応えて
レコードが息を吹き返してブームが再燃しているのは日本だけではない。すでに数年前からアメリカ、ドイツ、イギリスなどで始まり、2014年には日本でも前年比80%ものアップを記録するなど、売り上げを伸ばしてきた。
CDが全盛だった時代にもレコードの売り上げを支えてきたのは、クラッシックやジャズのファンがほとんどで、それもCD化されていない音源などが目的のため、表面に出ることがないまま時は流れる。だが、希少な音源だからといって、音質が良いとはいえないのがレコードの最大の弱点だった。しかも、ユーザーの年齢層は高くて人数は少ない。いわゆるオーディオ・マニアという、オーディオ環境を整えている一部の層にしか需要がなかったわけだ。
それが、2015年にHMVが渋谷にレコード専門店「HMV record shop 渋谷」をオープンさせてニュースとなった。渋谷は今でもトレンドの重要な発信地のひとつであり、そのことは「若者向けのレコードのニーズを満たす」役割を担っていることを意味している。
アナログ盤ならではの音の違い
レコードに魅了された若い世代は、デジタル・メディアでしか音楽を聴いたことがない。でも、だからこそ、アナログ盤が珍しいのだという。それはそうだろうが、アナログ盤は音質もデジタルに劣ることながら、ジャケットが大きくてかさばり、コレクションするには大変だ。
だが、それがいいのだ。
まず、若い世代に刺さったのは「無機質なプラスチックのパッケージ」ではなく、「どこか温かみのある紙のパッケージ」ということらしい。これは、コレクションにも向いていて、ジャケットのデザインも大きくて映える。そして、音質にも実は理由があった。
デジタル音源は確かにノイズが少なくて情報量も多い。だが、ハイレゾが登場したように、CDは情報を圧縮してあるために音に深みがない。どこか面白みがないのだ。
逆にアナログ盤は録音、再生ともに変換プロセスが少なく、ダイレクトに音が伝わる。プレーヤーなどの環境によって、細かな音の変化も違うので、そこに面白みを見出したというわけだ。さらに、旧いアナログ音源をデジタル化する際には、マスターのノイズなども修正されるため、ライブ感が薄れてしまうということもある。
レコードの仕組み
さて、ここでレコードが音を再生する仕組みを見てみよう。
レコードの盤面には、細い溝が土星の輪のように並んでいるが、肉眼でも不規則に刻まれていることが分かる。メガネやルーペなどを使えばもっとはっきりと分かるだろう。この溝は「V溝」もしくは「グルーヴ」といって、この溝にダイヤ針が軽く触れる。針は先端が丸みを持っているので、触れるというより、溝の壁に乗っているといったほうがいいだろう。
しかし、1本の溝でどうやってステレオ(L/R)の信号を記録できるのか?
それは「45-45方式」という溝のカッティング形状に答えがある。これは、針の中心軸に対し、溝に左右45度ずつの傾斜が付けられていて、それぞれにLとRの信号が振り分けられている。こうして、溝の微妙な変化を針が振動として拾い、電気信号に変換することで、音としてスピーカーから流れるのだ。
感覚で楽しむ音楽
話を戻すが、アナログ盤の魅力は、ジャケットや音の違いだけではない。
限られた場所、限られた空間で「わざわざ」音楽を楽しむということも若い世代にとっては新鮮で、手軽な携帯プレーヤーに慣れた世代には「音を出す」という感覚が現実味を帯びる。プレイヤーを選び、アンプやスピーカーとつなぐ。レコードをセットして、ゆっくりと針を置く。
レコードの回転に合わせて、心地よい時間を視覚としても感じられる。どんな人でも手間を楽しむというのは極上のひと時だ。それは好きなモノを自分の手で触ったり、動かしたり、感触として実体感を味わえる。
そこには性別や年齢なんか関係ない。そうしたポイントがアナログ盤の人気を後押ししていた。
最後に
アナログ盤の人気に合わせてプレーヤーも続々と発売されている。スピーカー内蔵のものもあり、プレーヤー一台で手軽にアナログ盤を聴けたり、SONYの「PS-LX300USB」などは、別にアンプやスピーカーを必要とはするものの、USB端子を搭載していて、手軽に音源をパソコンに取り込める。
この機会に、聴覚だけでなく、視覚や触覚も使って音を楽しんでみてはどうだろうか。
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